第179話 吸血鬼殲滅戦・離『魔牛ストーンカ』


 『ウシュマル』の街の様子の報告をヒルコから、アイは聞いていた。


 (コタンコロ! 聞こえますか? 今すぐ、ヒルコとウシュマル・クィーンを迎えに行ってください!)


 (うむ。心得た! だが、あの魔牛ストーンカはアラハバキに任せて大丈夫か? 援護はいらぬのか?)



 (問題ありません。すぐに、援軍が到着します。)


 (ほお? 了解した。では、我はヒルコを迎えに行こう!)


 (頼みましたよ。こちらも今、緊迫した状況です。援護はできないかもしれません。)


 (任せておけ! アイ様。我ら、ここでこそチカラを発揮せねば、ご主人様に顔向けできないのである!)




 コタンコロはジョナサンさんたちに声をかける。


 「ジョナサン殿! ミナ殿! ここの防衛をお願いするである! 我は『ウシュマル』の女王を迎えに行ってくるのである!」


 「コタンコロ殿! わかりました! 『ウシュマル』の街も危機なんですね!」


 「ジョナサン! 私たちでここは死守しましょう! コタンコロさん! ウシュマルの女王のこと、よろしくお願いします!」


 「了解したのである!」



 「アラハバキ! その魔牛のことは、任せたぞ!」


 「了解であるゾ! なのだ!」


 アラハバキも理解している。


 そう言って、コタンコロは大空に舞い上がり、『ウシュマル』のほうへ飛んでいくのであった。




 そこへ魔牛ストーンカが起き上がってきて、再び戦斧を構えて迫ってくる。


 「ぶももももぉおおおーーーっ!!」



 ブォオオオ……ンッ シュババッ……



 戦斧が空を切り、その勢いで真空波が襲ってきた。



 シュバシュババッツ……




 周りの『ククルカンの蜥蜴』のリザードマン兵士たちが切られていく。


 「ぐぁっ!」


 「ぎゃぎゃっ!」



 「危ない! おまえたち! 下がるのであるゾ! なのだ!」


 アラハバキが『ククルカンの蜥蜴』の兵士たちをさらに後退させる。




 「こぉのーーー! 牛野郎がっ!」


 アラハバキが叫びながら、ドロップキックをかました!


 ストーンカがふっ飛ばされる。


 まるで、宇宙怪獣対●●トラマンの戦いのようだ。




 そのまま、アラハバキがストーンカに馬乗りになって、殴りつける!


 「おらおらおらおら! てめぇはこのアラハバキを怒らせた!」


 何かのセリフを真似たようなことを言いながら、アラハバキがストーンカを殴り続ける。


 「ぶもっ! ぶぎゃっ! ぐばっ!」


 ストーンカが血を吐きながら、ただひたすらもがいて逃げようとする。




 「おらっ! おらっ! 爺やのカタキっ! おらっ! おらっ!」


 牛の顔が変形して、血だらけになっている。


 それでも、アラハバキは殴り続ける。




 まわりで見ていた『ククルカンの蜥蜴軍』のものたちも、あまりのアラハバキの勢いに身動きが取れずにいた。


 アラハバキがようやく、立ち上がり、魔牛ストーンカを片手で首を持って持ち上げた。


 「ぐぐ……。」


 息も絶え絶えになっている魔牛だったが、徐々に傷が回復してきていた。


 そう、魔牛ストーンカも『不死国』の一員、不死の化け物なのだ。




 「ぶもも……。きざまらが我らを追い詰めたのだ……。」


 ストーンカが話しだした。


 「おまえ……。話せるのか?」


 「我らが生きるためにはもっと大量の食料が必要なのだ……。」


 「だから、奪っていいというのか?」


 「おまえら、恵まれたものにはわかるまい。荒れ地に住んでいる我らを蔑み、食料の貿易も禁じられ、我らにどう生きていけと言うのだ!?」


 「それはこのアラハバキにはわからないのだ! である! だが、貴様は我らの仲間の爺やを惨たらしく殺したのだ! その報いは受けてもらう!」


 「ふふふ……。不死の我にどうするというのだ? すぐに回復しておまえを殺ってやるぞ!」




 アラハバキが持っていたストーンカの首を突き放し、地面に投げ落とした。


 そして、その両手を握り合わせ、照準を魔牛ストーンカに向ける。


 「おまえは……。次のことなど考える必要はないのであるゾ! のだ!」


 「ははは……。負け惜しみか? 何をしようと我は復活する。」


 「おまえは『魔力』というものを過信しすぎているのである。なのだ! アイ様は『魔力』の解析をすでに90%は終えているのだ!」


 「何を言っているのだ? 魔力は完璧だ。そして、我は不死の魔力を持っているのだ!」




 「ならば、行って来い! 無限の地獄へ!!」


 アラハバキの前にかざしたその両腕が光りだした……。




 「アラハバキ! 波動ビーム砲撃ーーーーーっ!! 発射!!!」


 アラハバキが叫ぶと同時に、その両腕からレーザービーム砲が発射された。




 ジュワ……




 そのあまりの眩しさの前で、辺りが一瞬見えなくなるくらい輝き、魔牛ストーンカは瞬間に黒焦げになり、蒸発してしまったのだ。


 アラハバキの体内でタキオン素粒子発電したエネルギーを電磁波動に変え、発生したエネルギーを超高密度で発射するレーザービーム砲・波動ビーム砲だった。




 まわりでみていた者たちは、そのあまりの衝撃にあっけにとられてしまっていた。


 いっとき、戦いを忘れてしまっていたのだ。


 それくらい、とてつもないエネルギーの集中があったのだ。


 いくら『魔力』といえども、何らかのエネルギーであり、そのチカラによってつなぎ合わされている生命そのものを断ち切られ、根絶させられては不死の魔物といえども、復活することはできないようだった。




 「爺や……。カタキは討ったのであるゾ! なのだ!」


 アラハバキはボソリとそうつぶやいたのであった。



 そして、その様子を見て先に我に帰ったのは『ククルカンの蜥蜴軍』指揮官のクラウン・バジリスクだった。


 「今だ! あの骸骨どもを殲滅せよ!」


 「「おおーーーっ!!」」



 リザードマンの軍隊が、一斉に骸骨戦士どもに襲いかかっていく。


 今度は剣ではなく、斧やメイスといった破壊を専用とする武器に持ち替えていた。


 骸骨どもはその勢いでグシャグシャに砕かれ、どんどん倒されていった。


 指揮官だった骸骨騎士たちも、魔牛ストーンカが倒されるとは夢にも思っていなかったらしく、軍は総崩れとなっていた。




 形勢は明らかに『チチェン・イッツァ』防衛軍のほうに有利になっていた。


 軍の統括であるククルカンさんも、これには喜びの意を示していた。


 「あの巨大土偶ゴーレム……、恐るべしチカラである。だが、味方であると考えるとこれほど頼もしい存在はいないものだな。」



****






 こうして、『チチェン・イッツァ』の防衛はなんとかなりそうな中、オレたちは『人ごろし城』の最後の決戦に挑もうとしていた。


 王座の間に上り、扉を開けたオレたちの前に待ち受けていたのは、青いひげの紳士と、醜い顔をした老婆だった。



 「ふん……。虫けらがこの王のもとまでやって来おったか……?」


 「ええ、ええ。ほんに、そのとおりですじゃ。下等な種族どもめ。身の程を思い知るがいいわ!」




 「おまえが、青ひげ男爵だな!?」


 「そのとおりである。余が青ひげである。」


 「けっけっけ。わしは青ひげ男爵様の忠実なるしもべ、シルヴィア・ガーナッシュじゃ。」



 「では、おまえが魔術師か!?」


 「ほお? なにやら考えて来おったのか……。小賢しい!」





 オレとヘルシングさんはゆっくりと剣を構えたのであったー。



~続く~



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