第178話 吸血鬼殲滅戦・離『北方の防衛』
『チチェン・イッツァ』の街近郊では、防衛戦が繰り広げられていた。
その中でもおそらく最強レベルの魔物・魔牛ストーンカがその猛烈な怪力で、戦斧をぶんぶんと振り回す!
その勢いで、周りの木々がなぎ倒される。
だがそこに、イシカとホノリがフュージョンしたアラハバキが、魔牛ストーンカに殴りかかる。
振り回していた戦斧がアラハバキに激突したが、アラハバキはものともせず、ストーンカを殴りつけた。
ストーンカが後方へふっ飛ばされた。
ドッサァアアアーーーーーァ……
「ムカデの爺やのカタキである! なのだ!」
アラハバキがストーンカに向かって叫んだ。
「グォロロロロロ……ォ……。」
起き上がってくるストーンカ。
巨大魔牛と巨大土偶戦士の壮絶なる戦いに巻き込まれまいと、骸骨戦士たちも、『ククルカンの蜥蜴軍』も後退して見守っている。
それにより、骸骨戦士たちの進軍も止まったのは幸いだ。
「ミナ! アラハバキさんの邪魔になってはいけない。僕たちはあっちの吸血コウモリを狩り尽くすぞ!」
「ええ! あなた! 理解したわ! それにあの戦いに巻き込まれるのはゴメンだわ!」
「ははは……。違いないね!」
ジョナサンさんとミナさんは、襲いくる吸血コウモリたちを倒しにかかった。
ほほ赤く輝く『リーダー・ヴァンプバット』が撃ち落とされた今、烏合の衆と化していた。
コタンコロは空の上から、戦いを見ながら、劣勢になりそうなところへ下りていって敵を一掃するという行動を繰り返していた。
ご主人様の命令通り、『チチェン・イッツァ』の街に敵を近づけないことを優先しているのだ。
「ふむ……。なんとか、この街は守れそうだが……。あの魔牛だけが、やっかいであるな。」
コタンコロもアラハバキの戦いを見てそう思った。
だが、応援に駆けつけたりはしない。
なぜなら、アラハバキが珍しく燃えているからだ。
「しかし……、あっちのあの恐竜種族どもが、ここまで来たらまずいことになるが、あのサルガタナスとやら、なかなかのものじゃな?」
コタンコロは北の方を見ながら、つぶやくのだった。
****
さて、その北の地では、激しい攻防が繰り広げられていた。
『蛙を放つ』を象徴するスピノサウルスが、カエルの精霊を呼び出す呪文を唱える。
『蛙の夜廻り(よまわり)、ガツコ ガツコ ピヨン! ラツパ吹く そら吹け、ヤレ吹け ピヨン! ヤレ吹け もつと吹け、ガツコ ガツコ ピヨン!!』
すると、ぬめぬめした巨大カエル、ジャイアントトードが複数現れた。
カエルはその長い舌で、周囲の木々を巻取り、投げつけてくる。
だが、サルガタナスの配下、猛牛の角を持つ料理人のファライー・モラクスが、大声で吠える。
「下郎がっ! 恐れ多くも身の程を知らず向かってくるとは……。『胃の中のかわず、大海を知らず』とはこのことよ!」
そう言って、持っていたでかい包丁で、飛ばされていた木々を切り刻んでサラダにしてしまったかと思うと、そのまま、カエルをあっという間にミンチにしてしまった。
『燃えろよ燃えろよ! 炎よ燃えろ! 火の粉を巻き上げ、天までこがせ! 照らせよ照らせよ! 真昼のごとく、炎ようずまき、闇夜を照らせ! 燃えろよ照らせよ! 明るくあつく。光と熱とのもとなる炎!!』
「火炎呪文じゃ! これで、カエルのハンバーグステーキランチの出来上がりじゃ!」
ミンチにされたカエルたちが、綺麗に焼かれて、ジュゥジュゥと美味しそうな匂いを放ち、鉄板に置かれた。
「あら? ファライー。美味しそうじゃあない? 冷めないうちに召し上がりましょうかね? じゃあ、さっさとあやつらを殺ってしまいましょうかね!?」
サルガタナスは、舌なめずりをして前の敵を睨んだ。
『ぶよを放つ』を象徴するカルカロドントサウルスが、召喚呪文を唱える。
『ごはんだ、ごはんだ、さあ、食べよう! 風はさわやか、心も軽く、だれも元気だ、感謝して! 楽しいごはんだ! さあ、食べよう!!』
すると、大量に発生したぶよの大群が、周りの木々をあっという間に食い散らかし、サルガタナスたちに襲いかかってきたのだ。
1匹1匹は大したことがないかも知れないが、これほど大量に集まり、しかも意思をもったかのようにまとまって襲ってくるぶよの大群は驚異でしかない。
しかし、そこにロバの頭を持つライオン、ウァレフォルが立ちはだかる。
「虫ごときが……! サルガタナス様に害をなそうだなどと、恐れ多いわ!」
『深い川よ、私の故郷はヨルダンのかなたにある。深い川よ、私はお前を越えて、仲間たちの元へと帰りたい。おお、お前もあの福音の宴に行ってみたいとは思わないか? そこでは、すべてのものが平和であることが約束されているという!!』
ウァレファルが唱えた呪文は、かのジョン・ヘイグが使っていた呪文・強力な酸を生み出す呪文『ディープリバー』だ。
大量のぶよはまとまった行動を取っていたため、逆に的が絞りやすく、ウァレフォルが放った強酸を避けることは出来なかった。
ジュワジュワジュワワワ……
ぶよの大群があっという間に消滅してしまった。
『雹を降らせる』を象徴するアクロカントサウルスが、しびれを切らし、叫ぶ。
「えええーーい! 一気に葬り去ってくれるわ! 喰らえ! 氷系呪文・『雪』だっ!」
『雪やこんこ、霰やこんこ。降つては降つてはずんずん積もる。山も野原も綿帽子かぶり、枯木残らず花が咲く!!』
雪っていうか、氷の巨大な塊、雹が無数に降り注いできた。
味方の『ディノ・ドラグーン』さえ打ちのめされ、倒れていく。
「あたしに任せて!」
緑色の服を着た狩人の姿のゾレイ・レラージュが弓を構える。
だが、巨大な雹を矢ごときで打ち砕けるのか……?
しかし、レラージュは、矢を次々と撃ち放ち、その氷塊の急所を的確に撃ち抜いていく。
矢が突き刺さると、氷塊が一瞬で砕け散っていくのだ。
物体にはその一点を貫くと、全てがバラバラになるような急所があるというが、それを瞬間的に見切り、そこを性格に撃ち抜くというのは、相当な凄腕である。
『腫れ物を生じさせる』を象徴し最も巨大なギガノトサウルスが、その巨体を生かし、襲いかかってきた。
「ギャオオオオーーーッ! 貴様ら! 許せん!」
その突進力はものすごい勢いで、とても止められそうにない!
その眼の前にはサルガタナスがいる。
しかし、サルガタナスの配下の者たちは、何の焦りも見せていなかった。
「チカラの差も見抜けない低脳が……。せっかく私のコツコツ仕上げてきた計画の邪魔をするというのか……!?」
サルガタナスの雰囲気が恐ろしげに変わる。
そして、呪文を唱えた。
『星かげさやかに静かにふけぬ、集(つど)いのよろこび歌うはうれし。なごりは尽(つ)きねど、まどいははてぬ、今日の一日(ひとひ)の幸(さち)静かに思う。』
サルガタナスとギガノトサウルスの間に、異空間が出現し、とてつもない闇の暗黒が出現した。
「暗黒空間への旅行を楽しむがいい!」
「ぐわぁ! なんだ! この空間はっ!? ぎゃおおおっ! いだい! 痛いっ!!」
ギガノトサウルスの巨体が、小さく収縮されて行くかのように、生み出された暗黒空間に飲み込まれていく。
「うわぁあああああ……ぁ……。」
シュン……
あの巨大なギガノトサウルスが一瞬で飲み込まれて消えてしまった。
サルガタナスは、何事もなかったかのように、配下の者たちに言う。
「さて、蹂躙開始ですよ!」
「「おおおおっ!!」」
レラージュも、ウァレフォルも、ファライーも大いに歓喜し、『ディノ・ドラグーン』の軍を掃討していくのであったー。
~続く~
©「蛙の夜まわり」(曲/中山晋平 詞/野口雨情)
©「燃えろよ燃えろよ」(作詞:不詳/作曲:フランス民謡/作詞:串田孫一)
©「ディープリバー」(曲:黒人霊歌/詞:黒人霊歌)
©「雪」(曲/文部省 詞/文部省)
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