第172話 吸血鬼殲滅戦・波『チチェン防衛戦2』


 「死ぃ……のぉ……。声をぉ……、聞けぇ……ぃ……!」



 骸骨戦士たちがうめき声をあげながら、進軍してくる。


 だが、オレたちもそれにかまってる余裕がない。


 空を埋め尽くすくらいの大量の吸血コウモリたちが、次から次へと襲いかかってくるのだ。


 オレたちが空中で吸血コウモリの指揮官を討って行っている間にも、吸血コウモリたちが地上の『ククルカンの蜥蜴軍』の兵たちにも襲いかかっていた。


 血を吸われて吸血鬼化したリザードマンたちは、その場で敵に寝返って攻撃してくる。


 すると……!




 「放てぇーーーーっ!」


 パパパパパァーーーッン!



 響き渡る銃声のような音。


 え? この世界に銃なんてあるのか!?




 「え!? あれって、レストラン『オックストン』のオーナー、神Eさんじゃあないか!?」


 頭にものすごい髪飾りをたくさんつけた女性が、やはり髪飾りのある鳥獣たちを率いて魔力を込めた弓で矢を放ったのだ。



 「ヤム・カァシュ様! ヤツラは骨です! 矢が通りません!」


 「うむ! 総員、石弓に変えよ!」


 「「はっ!」」



 ヤム・カァシュさんが即座に対応して弓を変えるよう指示を出した。


 「撃てぇーーーーーーっ!!」


 ドパパパパァーーーッン!




 石の弾丸が骸骨戦士たちに炸裂し、骨をバラバラにぶっ飛ばす。


 うん、ここは機転が利いて良いね。


 しかし、神Eさんじゃあないのか?



 (マスター! どうやらレストランのオーナー神Eとは世を忍ぶ仮の姿だったようです。)


 (そういうことか!? 『チチェン・イッツァ』の正面の門前でレストランをしているのは、外部からの者をそれとなく観察するためでもあったのかも知れないな。)


 (おそらくそうでしょうね。)


 (オレたちも負けてられないな。吸血コウモリを殲滅するぞ!)


 (イエス! マスター!)




 オレは空中の高い位置から、周りを見渡した。


 吸血コウモリの大群の中に、点々と赤く光っているヤツが見える。


 しかし、その数も多く、次から次へと押し寄せてくる。




 「アイ! 例のヤツ、やれるか!?」


 「イエス! マスター! では……! サイコキネシス・ビーム……乱反射!!」



 周囲の超ナノテクマシンの一つ一つが作り出したエネルギーが波動となって、膨大なエネルギーの塊がそのパワーを集結させ、マーキングされた『リーダー・ヴァンプバット』たち一匹一匹に向かって、破壊光線が命中していく。


 そう、以前に鳥の魔物たちを討伐した『プラネタリウムの中の鳥』だ。


 アイの領域はすでに、ケルラウグ川の手前からこちら側に渡っての範囲は掌握していたのだ。


 その範囲が半球状に光り輝いて見えた。


 アイの放った破壊光線が乱反射しているからだ。




 吸血コウモリたちは慌てふためいていたが、どこの角度から襲ってくるかわからない光線を避けるすべもなく、バタバタと撃ち落とされていく。


 「ぎぃやぁ!」


 「ぎゃっ!」


 「ぐぎゃ!」


 「ひぎぃ!」


 あちこちで悲鳴が聞こえ、コウモリたちが地面へボトボト落ちていった。




 「アイ殿の技か……!? とんでもない威力と命中力だな……。」


 「アイさん……。美しい花には棘があるってことだね?」


 「ちょいちょい! ジョナサン!? アイさんに見とれてんじゃあないよ!?」


 「おっと……! こわいこわい!」


 ヘルシングさんたちも手を休めることなく、吸血コウモリたちを斬っていく。




 なんとか吸血コウモリたちの猛攻をしのげたように思えたその時ー。



 「グォロロログゥオオオオオーーーーンッ!!」


 不滅の魔牛ストーンカがその巨大戦斧を空高く担ぎ上げ、空中から襲ってきたのだ!



 くっ……!?


 空から来るとは……!


 そんなことを一瞬思ったが、それよりも早くストーンカの攻撃が『ククルカンの蜥蜴軍』の中央に振り下ろされた。




 そして……。



 ドカカァァアアーーーーッ!!




 その戦斧は大きく弧を描きながら、勢いよくリザードマンたちの軍の真ん中あたりに叩き降ろされた!



 「「グワァアアーーーーッ!!」」



 リザードマンの一群が吹き飛ばされ、そこに大穴が空いた。


 やはりこいつは危険だ。


 出てくるとは思っていたが、来たか……。


 オオムカデ爺やの仇だ。


 こいつだけは許さない。




 (マスター! あの牛はおそらく魔法のチカラでここまで飛ばされてきたと推測します。)


 (なるほど! ということは?)


 (イエス! それを行った魔術師がいる……ということになります。)


 (そうか……! やはり、魔術師を倒すのが最優先……ということか!?)


 (そのとおりでございます!)








 だが、その前にこの魔牛ストーンカをなんとかしないとな。


 このままでは『チチェン・イッツァ』の街が破壊されてしまう。


 しかし、ストーンカは強力なチカラを持っている。


 どうする?


 どうする?




 「ジン様! イシカとホノリに任せてほしいのである!」


 「ジン様! ホノリとイシカに任せてほしいのだ!」


 イシカとホノリが珍しく積極的に言ってきた。


 いつもは指示には従ってくれるのは間違いないのだが、意思をはっきり示すのはあまりなかったのだ。




 「わかった! イシカ! ホノリ! あの牛野郎を倒してこい!」


 「了解であるゾ!」


 「了解なのだ!」



 そう言って、ストーンカのほうへ走っていく二人。


 「「フュージョン!!」」



 二人の姿が周囲の超ナノテクマシンをどんどん吸収し、巨大化していく。


 巨大土偶アラハバキの姿となったのだ。


 そして、そのまま、ダッシュでストーンカにめがけて走っていき、飛び蹴りをくらわした。




 ドカカッ!!



 ふっとばされたストーンカが後方の骸骨戦士群を吹き飛ばして地面に倒れ込む。


 「コツコツ……!」


 「カコカコ……!」


 骨がバラバラになって弾け飛ばされた。




 「よし! コタンコロは、防空圏を死守してくれ!」


 「承知つかまつった!」


 「アイ! オレたちはこのまま『人ごろし城』へ向かうぞ!」


 「マスター! かしこまりました! 超ナノテクマシンによる超電導反重力加速で、一気にあのガイコツたちの上空を突っ切ります! お覚悟を!」


 「わかった!」



 すると、オレたちがそうして進もうとするのを見越していたかのように、ヘルシングさんがオレのすぐ近くに来ていた。




 「ジョナサン! ミナ! おまえたちはコタンコロ殿を援護してくれ!」


 「はい! ヘルシングさん! おまかせを!」


 「はぁい! 行ってらっしゃい! ヘルシングさん!」


 ジョナサンさんとミナさんもヘルシングさんの意図を理解しているらしい。


 以心伝心とはこのことだな。




 「ジン殿! もちろんオレも同行しよう!」


 「ヘルシングさん……。城の中にはどんな敵が待ち構えているかわかりませんよ?」


 「ふふふ……。望むところだ!」


 「まあ、ヘルシングさんならそう言うと思ってましたよ!」




 「アイ! オレとヘルシングさんを頼む!」


 「承りました!」



 アイがオレたちを磁界線路の真上に軌道修正し、一気に超発電を起こした。


 空中に超磁力で出来た道筋が見える。


 もっとも肉眼では見えないけど、磁力線を視覚化したものを映し出してくれているのだ。




 「さあ! シンデレラ城へ! レッツ・ゴー!!」


 「ん? なんだ? シンデレラ城って?」


 「あ……、ああ。気にしないでください。」



 ドッ……



 パシュゥーーーーーーゥーーーウウウゥゥ……




 そんなこんなでオレとアイ、ヘルシングさんは一直線に、空中に作られた磁界の線路を超加速し、『人ごろし城』へ向かったのだったー。




~続く~


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