第170話 吸血鬼殲滅戦・波『進軍開始』


 半刻前ー。


 『不死国』の青ひげ男爵は人間の女を食しながら、考えていた。


 あの者らを逃したのは失策であった……と。



 ヤツラ下等な種族は、一匹でも逃がすと大量に増殖して反撃してくる。


 歴史が物語っている。


 やつら人間種というものは、野蛮かつ凶暴、そして……、『悪』である。


 まるで、飢えた魔物のスタンピードの如く、敵意むき出しに襲ってくるのだ。







 たかだか、数十匹……、いや、数匹殺したくらいで、烈火の如く怒りわめき散らし、吸血鬼である我らに敵対してくる。


 そういう習性の『悪性』の害虫のような種族というわけだ。


 そして、玉座の間に座していたこの城の主、青ひげ男爵は、傍らに控えている魔術師の老婆シルヴィア・ガーナッシュに問いかけた。



 「あの忌々しい『ヴァンパイア・ハンターズ』どもを追いかけて始末すべきか否か……?」


 「恐れながら申し上げますぞ。エリザベート様は西方を目指しておいででしょうからですじゃ。」


 「しかし、あの羽虫どもを放おっておくと、『チチェン・イッツァ』のククルカンが横槍を入れてくるに違いないぞ?」




 青ひげ男爵の隣でじっと座っていた鳥人の花嫁フィッチャーが、手に持っている生首の花嫁に尋ねる。


 「ねぇ? 姉さんはどう思う?」


 生首の花嫁が応える。


 「そうねぇ。先に『チチェン・イッツァ』を滅ぼしてしまえば、何の憂いもなくなるんじゃあないかしら?」


 「あら? それはとてもいい案ねぇ? ねえ? だんな様?」



 問いかけられた青ひげ男爵は、意を決したように目を見開き、答えた。


 「うむ……。生首の花嫁の申すとおりであるな。後顧の憂いを断つのが先決であるな。」


 「さように思いますわ。昔から言うではありませぬか……。『アケローン川を越してキャンプせよ』ってね?」


 「生意気な生首め! まあ、しかし、それもひとつ理にかなってはおりますじゃ。我ら『不死国』の軍門に降りし、『ジュラシック・シティ』のかの暴君もおそらくは動きますじゃろうて……。後詰めも期待できよう。時は今……やもしれますまいて。」


 魔術師シルヴィアも賛同の意を述べる。




 「では、『人ごろし城』をいどうさせよ! 偉大なる魔術師シルヴィアよ!」


 「はいはい。まったく我がだんな様は魔術師使いが荒い御方じゃて。」


 そう言いながらも老婆は魔法の準備をし、魔力を練りだした。



 『證、證、證城寺、證城寺の庭は! ツ、ツ、月夜だ、皆出て来い来い来い! 己等(おいら)の友達ァ、ぽんぽこぽんのぽん! 負けるな、負けるな、和尚さんに負けるな、来い、来い、来い、来い来い来い! 皆出て、来い来い来い!!』


 「レベル6の土魔法・築上魔法『証城寺(しょうじょうじ)の狸囃子(たぬきばやし)』じゃぁっ!」



 魔女の老婆が呪文を唱えると、『人ごろし城』全体が瞬間で空に舞い上がった。


 そして、そのまま、空中で静止し、目標を定める。



 「あのあたり……『チチェン・イッツァ』の手前でよろしいか!?」


 「うむ。顕現せよ! 我が城と我が栄光を!」


 「では……、『ぽんぽこぽんのぽん』っ!!」



 ズズズゥウウウウウーーーーン……



 そして、『人ごろし城』はとてつもなく大きな振動と音とともに、あっという間に移動したのだったー。




 ****





 城が突然、目の前に現れた……!


 かの有名な『木下藤吉郎が築いた墨俣一夜城』も、相手側の斎藤家の安藤守就、稲葉一鉄、氏家卜全らから見た墨俣城も、こんな衝撃だったのかも知れないな。


 東方5ラケシスマイル(約8km)の地点に出現した『人ごろし城』に、オレたちは急な対応を迫られる。



 「敵の城『人ごろし城』から大量の骸骨戦士の兵が迫ってきております。空からは吸血コウモリの大群ですっ!」


 物見のリザードマンからも報告があがる。


 それはそうだ。


 もう目視できる地点に敵の本丸が出現しているのだから……。




 「アイ! あの魔牛ストーンカは見えるか?」


 「今、探知しておりますが、まだ『人ごろし城』の城中から解き放たれていないと推定します。」


 「ジン殿! 敵襲に備え、戦闘準備をお願いいたしまする!」


 クェツパリン兵長が進言してくる。



 「わかりました。アイ! コタンコロ! イシカ! ホノリ! 行くぞ!」


 「イエス! マスター! 下僕たち! 行きますよ!」


 「おお! ご主人様! 我も働きますぞ!」


 「ジン様! イシカもがんばるであるゾ!」


 「ジン様! ホノリもやるなのだ!」


 みんなも士気が高いようで頼りになるな。




 「ジン殿! オレたちも行くぞ! ジョナサン! ミナ! 準備はいいか!?」


 「はい! ヘルシングさん! いつでも大丈夫ですよ!」


 「あたしも行けますよ!」


 ヘルシングさんたちも出陣の準備は問題ないようだ。



 「ジンさん! 私たちも参戦させてもらうわ!」


 そう言ってきたのはサルガタナスさんだ。




 「おお! 本当かい? それはありがたいな。……って、え? 料理人のモラクスさんも戦うのか?」


 見ると、料理人のモラクスさんまで戦闘準備をしている。


 「もちろんだす! おいらも役に立つんだすよ!」



 ふと見ると、ロバの頭を持つライオンの獣人が緑の狩人のレラージュさんに連れられてきていた。



 「ジンさん! この者はウァレフォルです。内緒ですが盗賊団の頭なんですよ!」


 「ああ。ジンってのはあんたかい? よろしくな!?」


 「……って、ええ!? 盗賊団っていいのか!?」


 「まあ。ですが、腕は立つんですよ! 緊急時ですから、『バステトの手も借りたい』ってね?」


 「お……、おぅ……。」




 「ジン殿。我ら『ククルカンの蜥蜴』があの骸骨どもを食い止めます! ジン殿たちは空からやってくる吸血コウモリたちを打ち払って頂けるようお願いします!」


 「ああ。わかった。しかし、この街の防空体制はどうなってるんだ?」


 「街の上空の範囲に入れば、ククルカン様が討滅していただけましょう……が、敵の数が多すぎます! ジン殿たちには露払いをお願いしたいのです!」


 「なるほどな! 了解した!」



 「ジン殿! では、空中戦……だな!?」


 「ええ。そうですね。ヘルシングさん! こっちにはコタンコロもいますので、なんとかなると思います!」


 「それは頼りになるな! では、いざ! 参ろう!」


 「はい! 行きましょう!」


 「ジンさん! 私も援護しますわ!」


 「おお! サルガタナスさん! 頼みます!」




 オレたちは街の東方にある大球場から、上にあがり、東壁の上に登った。


 大森林がずっと眼下に広がっている。


 先の方は森林なので、見通すことは出来ないが、確実に何かの大群が迫ってきているのがわかる。


 振動と大群の動く気配が近づいてきているのだ。




 (マスター! 超ナノテクマシンの立体視で、プラネタリウム状に再現致します!)


 (ああ! アイ! 頼むぞ!)



 アイがオレたちの目の前に映し出したドーム状の空間に、骸骨の戦士たちと吸血コウモリの群れが映し出された。


 すべてが立体的に映し出されている。



 「ほお!? これは!?」


 「あら!? とてもわかりやすいわね?」


 ヘルシングさん、サルガタナスさんもこれには驚いたようだ。




 「あの時は急に攻められたからわからなかったが、吸血コウモリの中に指揮をしているヤツがいるな……。」


 「うむ。そいつらを先に片付ける必要があるな。」


 「マスター! 指揮を取っている吸血コウモリ……、『リーダー・ヴァンプバット』とでも名付けましょうか……。リーダー・ヴァンプバットにマーカーをつけました。近づけば、赤く輝いて見えるように致しましたので、区別がつきましょう!」


 「それはいいな。ヘルシングさんたちにもわかるようにできるか?」


 「もちろんです。化学反応で偏光し、赤く輝いて見えるようにしておりますゆえ、ヘルシングさんたちもすぐにわかるでしょう。」


 「さすがはアイだ。でかした!」


 「まあ!? そ……、それほどでも……、ございませんですわ……。ぽっ……。」




 オレたちはいよいよ吸血鬼たちの軍を迎え討つのであったー。




~続く~


©「証城寺の狸囃子」(曲:中山晋平/詞:野口雨情)







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