第169話 吸血鬼殲滅戦・波『ディノエルフ種族』


 『ジュラシック・シティ』……、それはエルフの種族のひとつ、ディノエルフ種族の棲む街。


 その支配者は暴君と恐れられる王、タイラント・ティラノだ。


 ディノエルフの中でも凶暴種と言われる存在であり、『十の災い』と呼ばれる十尾のひとりである。


 『十の災い』の中では『蝗を放つ』を象徴する。


 そして、まさにその暴君がその配下の者を集め、演説をしているのだ。




 「生えあるこの『ジュラシック』の民よ! 余はこの世を統べる者に連なりし! この責務が、余に決断をもとめるものであれば、どうかご安心いただきたい。私は『ジュラシック』の繁栄と幸福のみを考えるものであるから!」


 集まった民は歓迎の嵐である。



 「余の経験不足、未熟さ、無知は自覚しておる。しかしながら、賢明なる助言者諸氏にかこまれ、余はもっとも高貴な手本となるよう努めていくのである!」



 演説が終わると、『ジュラシック・シティ』の他の『十の災い』たちから割れるような拍手がわきおこった。




 「余は、『エルフ国』と、余個人のあいだを完全に切り離すことを誓おう。余はまた、市民のなかの市民、プリンケプス(第一人者)として、『法国』と『エルフ国』にもっとも対抗しうるオーガスタス(神聖)でなければならないのだ!」


 そういう暴君ティラノに対し、観衆はみな狂喜し、歓声が巻き起こった。


 これまで、ディノエルフ種の中でもとりわけ肉食の種であった彼らは、『エルフ国』の中では常に疎外されてきたのだ。


 そして、この『ジュラシック・シティ』にいた草食種の類は、いまやすべてが凶暴種や肉食種たちの手にかかり、絶滅していた。




 『十の災い』(とおのわざわい)とは、古代エジプトで奴隷状態にあったイスラエル人を救出するため、エジプトに対して神がもたらしたとされる十種類の災害のことである。


 出エジプト記に記載されており、概要は以下の通りだ。



 1,ナイル川の水を血に変える(7:14-25)。


 2、蛙を放つ(8:1-15)。


 3、ぶよを放つ(8:16-19)。


 4、虻を放つ(8:20-32)。


 5、家畜に疫病を流行らせる(9:1-7)。


 6、腫れ物を生じさせる(9:8-12)。


 7、雹を降らせる(9:13-35)。


 8、蝗を放つ(10:1-20)。


 9、暗闇でエジプトを覆う(10:21-29)。


 10、長子を皆殺しにする(11章、12:29-33)。




 この世界の『十の災い』たちは、それぞれがディノエルフ種が『エルフ国』に対しての災いを象徴しているようだ。



 暴虐の王ティラノが、『蝗を放つ』を象徴し、蝗に関わる特技や戦法を使う。


 シアッツが、『暗闇で覆う』を象徴し、天候を操り、味方に有利な状況へと戦況を変える役割を担う。


 カルノタウルスが、『虻を放つ』を象徴し、害虫呪文『虫の楽隊』など虻を操る戦いをする。




 巨大な剣を持つタルボサウルスは、『疫病を流行らせる』を象徴し、呪いの魔法『はなさかじじい』を得意とする。


 また、海竜種モササウルスは、『川の水を血に変える』を象徴する水軍の長である。


 さらに、スピノサウルスが『蛙を放つ』を象徴し、カルカロドントサウルスが『ぶよを放つ』を象徴する。


 最も巨大なギガノトサウルスが、『腫れ物を生じさせる』を象徴し、アクロカントサウルスが、『雹を降らせる』を象徴する。




 そして、最も凶暴かつ強力なアロサウルスが、『皆殺しにする』を象徴しているのだ。



 彼ら『十の災い』は味方であるはずの『エルフ国』の他の種族からも疎まれ、遠ざけられてきた歴史がある。


 ゆえに、今回の騒動で、かの暴君ティラノは自ら『不死国』の誘いに乗り、決起したというわけだ。



 かの暴君の傍らに控えているのは、『不死国』の女性の吸血鬼ブルーハとペナンガランだ。


 彼女たちは『不死国』の第五軍・空軍長であるピグチェン竜公の配下である。


 その女の魅力でティラノ君主をたらしこむはずだったのだが、なんともあっさりティラノが寝返ったというのだ。


 そして、ティラノは吸血鬼へと変貌を遂げ、さらなる魔力を得て、ワールドボスクラスの強さを手に入れたのだ。


 現在のティラノに対抗しうるのは、勇者かSランク冒険者クラスであろう。




 「余とともに『エルフ国』へ災いをもたらさんっ!!」



 「は! 我こそはシアッツ! 先の戦いの汚名を晴らすべく、奮迅の活躍を見せましょうぞ!」


 「おお! 俺はアロサウロス! やつらを根こそぎ供物として我が君に捧げんっ!」


 「ふふふ……。 次こそは儂(わし)、モササウルスにお任せあれ! ケルラウグ川を彼奴ら目のの血で染めてやるわい!」


 「おおよ! この俺様、タルボサウルスがあの糞どもを今度こそ始末してみせるぜ!」


 「がっはっは! この我輩カルノタウルスが、今一度戦場に出ればすべてを虫で覆い尽くしてみせよう!」


 「ははぁ! 自分はカルカロドントサウルス! 自分にすべてお任せあれ!」


 「ほっほっほ! この手前アクロカントサウルスによって、かのエルフどもが雹で打ち砕かれし様が見えまするわ!」


 「小官こそがかのアロサウルスよ! いいんですよね? 全員、食らい付くしても?」


 「ひひひ! 私、スピノサウルスがやつらをカエルのようにひと飲みにしてご覧に入れますよ!」



 それぞれやる気をアピールしたいのか、必死である。




 それをゆっくりと見回したティラノ王は、ここに宣言したのだ。



 「戦争開始だっ!!」


 「「おおおおーーーっ!!」」




 ****






 オレたちは『チチェン・イッツァ』の街で、警戒態勢を崩さずにいた。


 オレの精神が平常心を保てていたのは、この緊張感と、体内の医療用超ナノテクマシンのおかげだろう。


 もう2刻(4時間)が過ぎようとしている……。



 それにしても、援軍で来るという銅像戦士群たちが待ち遠しいな。


 いろんな意味で……。


 『フライング・ダッチマン号』にアイの空間収縮工法で造ったコンテナハウスを積み込んで、ここまで運んでくるのだ。


 ヘルシングさんのお仲間の方たちや、ククルカンさんの言っていた『トゥラン』や『オメヨカン』からの援軍が到着したら、なお有利になる。




 しかし、警戒すべきなのはやはり、『ジュラシック・シティ』だろう。


 あのモササウルスが最後に言っていた『翼竜隊』が空を飛んでやってくるならば、この街にとっても非常に危険な相手だ。


 『人ごろし城』の青ひげ男爵の動向も、もちろん気にはなるが、不死身の魔牛ストーンカと吸血コウモリや骸骨の軍隊ならば、近づいてきた時点でわかるから防衛の準備ができる。




 (マスター。ヒルコが『ウシュマル』の街に着きました。潜入開始致します。)


 (よし! ヒルコ! 頼むぞ。)



 (ジン様! 任せてねー!)


 (おお!? 思念通信、ヒルコも聞いていたのか!?)


 (はぁーい。そうだよー。僕は今、『ウシュマル』の街の正面アーチのすぐ外にいるよー。アーチの左に大きなピラミッドが見えるよー。)


 (ヒルコ! 見つからないようにな! とにかく様子を見てくるだけでいい。危険は避けるようにね!)


 (もぉ! ジン様は心配性だなぁ。まっかせてちょうだぁい! ……プツ……!)


 (あ! 思念通信、切れちゃった……。)


 (ヒルコは能天気なんだか、せっかちなんだかわからないなぁ。)






 そんなことを通信していたその時ー。



 ズズズゥウウウウウーーーーン……



 なにかとてつもなく大きな振動と音が響いてきたのだ。




 「何事だ!?」


 「敵襲か!?」



 すると、リザードマンの兵士がやってきてこう叫んだのだ。



 「敵の城『人ごろし城』が……! 『チチェン・イッツァ』の街の東方5ラケシスマイルの距離に現れましたっ!!」




 「マスター! 急にこの者の申す通り、東方5ラケシスマイル(約8km)の地点に出現しました!」


 「なんだって……!?」



 城が……、移動しただと?


 これは急に危機の訪れじゃあないか!?




~続く~


※暴君ネロとして名高いネロ・クラウディウス・カエサル・ゲルマニクス皇帝の就任演説より。

参照:小説「聖書」著 ウォルター・ワンゲリン 訳 中村明子 P.308





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