第161話 吸血鬼殲滅戦・序『魔牛の雷撃』
「爺やぁあああああーーーーーーっ!! アラハバキ! 爺やを救えっ!!」
オムカデ爺やの身体がストーンカの戦斧で引き裂かれている。
傷口をグリグリとしながら、ストーンカがさらに戦斧を爺やの身体から引き抜き、担ぎ上げた。
「ぐほぉおおーーーーっ……ぎゃふぅ……!」
爺やもうめき声を漏らす。
「ジン様! 了解しました!」
全長100mにも達する大きさのアラハバキがダッシュでストーンカの前に駆けつける。
「追い詰めろ! ヤツラを! 今、ヤツラを生かして返さば、『エルフ国』や『法国』のヤツラに知らされるだろう……。それは阻止しなければならん! 嵐と暴虐の呪文『ドニェープルの嵐』だ!」
『怒濤さかまくドニェープル大河、風すさびあれくるい、巨(おお)き柳地にねじふせ、黒い河波うねる! 巨(おお)き柳地にねじふせ、黒い河波うねる!』
『十の災い』のシアッツが天候を操る魔法を使った。
ゴォオオオォォオオオーーーー……
黒雲が空一面に立ち込め、暴風が吹き荒れる。
するとそこで稲光が走った!
ピカッ……
ドゴォオオオオォオオオオオオーーーーーーー……ンン……
雷が轟き、魔牛ストーンカの戦斧に落雷したのだ。
電気がほとばしる戦斧を持ち、怪牛ストーンカがそれを大きく構えた。
『大空一面かき曇り、そろそろ吹き出す南風、夕立來るぞ! 雷鳴るぞ! 干物(ほしもの)入れよと大騒!!』
「なっ!? あれは雷撃呪文『かみなりさま』! ムカデの爺さん、危ないぞ!」
ジョナサンさんが叫んだ。
アラハバキはその巨大な身体をオオムカデ爺やとストーンカの間に滑り込ませた!
ストーンカの身長も巨大なのだ。
オオムカデやアラハバキよりは小さいが、その半分以上はあるだろう……。
10ドラゴンフィート(50m)以上はあるその巨体で、雷撃魔法を唱え、そのほとばしる電撃をさらにパワーアップさせたというのか……!?
「雷撃猛牛斬っ!! ブモォオオオオオーーーーッ!!」
ストーンカの全力を込めた雷撃の戦斧が振り下ろされた。
爺やごとアラハバキを殺るつもりだ!
アラハバキはその両手を前にかざし、その両腕が光りだしす!
「アラハバキ! 波動ビーム砲撃ーーーーーっ!! 発射!!!」
アラハバキはその両腕からレーザービーム砲が発射して応戦した。
ジュワァ……
その眩しさの前で、辺りが一瞬見えなくなるくらい輝いた。
アラハバキが派手にふっとばされた!
その両腕が……。
消失している!
ストーンカの戦斧の雷撃の衝撃波で両の腕がふっ飛ばされたようだ。
見ると、ストーンカは後方へかなりの距離を移動していた。
その足元には二本の焼け焦げた線路のような跡がついている。
まさか、あの衝撃を後方に吹き飛ばされつつも耐えたというのか……!?
オレは昔見たタイムトラベルの超有名な映画のワンシーンを思い出した。
焼け跡の二本の線が炎をあげているのだ。
「アラハバキーーー! 大丈夫か!?」
「し……、心配ないのだ……である!」
あのものすごい威力を電磁砲で相殺したのだ。
しかし、その代償も少なくない。
アラハバキにも命に別条はないようだが、あの魔牛のヤツもダメージは負ったようだがまだ動けるようだ。
「マスター! 時間です!」
アイがそう言った瞬間、空に大きなフクロウが舞い、恐竜騎兵隊たちのほうへ、超音波攻撃を食らわせたのだ!
「クゥアアアーーーーーーーッ……!!」
「うおおおーっ!?」
「ぎゃふん……!」
「ぐはぁああーーーっ!」
周囲を取り囲んでいた『ディノ・ドラグーン』が数千は散らかされた。
だが、ヤツラの勢いはそれでも止まらなかった。
「ご主人様! お待たせしました! さあ! 早く我の背にお乗りください!」
コタンコロがその間にオレたちの前に舞い降りてきた。
「ヘルシングさん! コタンコロに乗ってください! ここを離脱します!」
「おお! コタンコロ殿! ありがたい!」
「すごい! この巨大な魔獣がジンさんの従魔なのか!?」
「これほどの魔物をティムしているなんて……!」
ジョナサンさんとミナさんは驚いていたが、緊急事態のことだから、すんなりとコタンコロの背中に乗ってくれた。
あとはアラハバキと爺やだけだが……。
アラハバキはその両腕を失いながらも、オオムカデ爺やのほうへ進み寄っていく。
オレの指示だからか……。
あくまでも爺やを助けようと行動している。
するとそこでアイの思念通信がまるで時が止まったかのように流れ込んできたのだ。
(マスター! 今、思念通信の速度を極限にまで高めました。マスターの脳に少し負担をかけますが、超ナノテクマシンで脳の回転速度を超高速にクロックアップさせ、光速で思念通信をしている状態を維持しております。)
アイがそう説明してくれたのだが、その間、まわりの景色がまるで時が止まったかのように本当にゆっくりと動いているのが見えた。
(わかった。それで、どうする!?)
(イエス! このままアラハバキを爺やの救出に向かわせると……。91%の確率でアラハバキと爺やは行動不能状態に陥るでしょう。)
(行動不能状態!? それってつまり?)
(死亡と同意義でございます!)
(なんだって……?)
なおも光速思念通信は続く。
(敵が連携してくるとは想定外でございました。さきほどのあのストーンカの攻撃がなければ、アラハバキが爺やを担ぎ上げ、川に逃げ込めたのですが、今、あの魔牛を御覧ください! 動き始めております。さらなる追撃が予測されます。そして……。アラハバキの腕が無くなっており、爺やを担ぐことが不可能となっております。)
(脚でなんとかできないのか!?)
(それが最後の手でしょう。いや、足ですか……。ああ、最後の方法という意味でございます。)
(手なのか足なのか、ややこしいけど、つまりはアラハバキが爺やを蹴り上げて、逃走できるかってことだな?)
(そのとおりでございます。)
しかし、失敗すれば爺やだけでなく、アラハバキまでも犠牲になってしまうというのか……。
こんな判断をこのギリギリの時間で決断しなくてはいけないのか。
アラハバキ……。いや、イシカ。ホノリ。
(ジン様! イシカのことは構わず爺やを助けろと命令するであるゾ!)
(ジン様! ホノリのことは気にせず、ジン様の心のままに指示するのだ!)
イシカとホノリまで光速思念通信の世界に入ってきた。
(我らはジン様のためだけに存在している……)
(のであるゾ!)
(のだ!)
力強いイシカとホノリの思念がまるで心臓が鼓動を打っているかのような心地よいバイブレーションで響いてきた。
(わかった……。アラハバキよ! いや、イシカ! ホノリ! 爺やを助けろ! 命令だ!)
(了解である! なのだ!)
二人の声が聞こえたとともに、周りが動き出した!
光速思念通信が切れたのだ。
****
オオムカデ爺やは息も絶え絶えに、ボーッとした景色を見ていた。
魔力はほぼ空っぽ……。
ここまで全力で走ってきたため、体力も限界。
そして、さきほどの魔牛の攻撃で、身体の真ん中から引きちぎられそうなほどのダメージを受けている。
血もドバドバ出ている。
そして、そんな満身創痍の自分を見捨てずに助けに来てくれたジンとアラハバキの姿が眼に映っている。
だめだ……。
これ以上、彼らが無理をすればこのまま敵にみんなやられてしまう……。
そして、そんなオオムカデ爺やの眼に、魔牛ストーンカが再び、戦斧を担ぎ、振り上げる姿が目に入ったのだったー。
~続く~
©「ドニェープルの嵐」(作詞:タラス・シェフチェンコ/作曲:ウクライナ民謡/訳詞:関 鑑子)
©「かみなりさま」(作詞:吉丸一昌/作曲 :永井 幸次)
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