第160話 吸血鬼殲滅戦・序『災いからの撤退戦』


 『ジュラシック・シティ』の恐竜騎兵隊『ディノ・ドラグーン』、凶暴種『十の災い』はその名に災いを冠しているのには理由がある。


 それぞれが大いなる災いを武器として戦うからだ。



 今、目の前に攻めてきている『十の災い』は、シアッツ、カルノタウルス、タルボサウルスの三匹の妖精竜種だ。


 シアッツは『暗闇で覆う』という災いを象徴している。


 この天候の荒れているのは、シアッツの仕業であることは明白。





 カルノタウルスは『虻を放つ』という災いを、そして、タルボサウルスは『疫病を流行らせる』という災いだ。


 それが何を意味するのか、予測はつくが……。


 それぞれが災いの名を冠する戦士なのだ。


 『エルフ国』やその周辺国家でも相当、恐れられている存在ということだ。




 「喰らえ! 俺様の呪いの魔法『はなさかじじい』だっ!!」


 『うらのはたけで、ポチがなく、しょうじきじいさん、ほったれば、おおばん、こばんが、ザクザクザクザク。』



 タルボサウルスが呪文を唱えると、地面からなにか得体のしれないものが噴出してくる。


 あれが呪いか!




 「むぅ!? 魔力増幅呪文『アメイジンググレイス』っ!!」


 『Amazing grace!(how sweet the sound) That saved a wretch like me! I once was lost but now I am found,Was blind, but now I see.

驚くべき恵み(なんと甘美な響きよ)!私のように悲惨な者を救って下さった。かつては迷ったが、今は見つけられ、かつては盲目であったが、今は見える。』


 ヘルシングさんがその呪いに対し、聖なる魔力を増幅させる。




 「聖奥義『スターツ・シヴィターティス・ヴァチカーネ』っ!!」



 ヘルシングさんが大剣を真上に掲げると、その剣から一筋の光が天を突いた。


 そして、上から雨が降るかのように、光の線が無数にこの地に降り注いだのだ。


 タルボサウルスが唱えた呪いの効果が、打ち消されていき、恐竜の戦士たちがその光の雨に触れた途端に、苦しみだし、バタバタ倒れていく。


 いわば、聖なる呪い……。オレたちはなんともないが、闇に身をやつした者たちには効果が絶大のようだ。




 「くぅーーっ! ならばこれでどうだっ!?」


 『千草、八千草、乱れ咲きて、花を褥(しとね)の夢おもしろと、おのずからなる虫の声々! チンチロリン チンチロリン! スイッチョ スイッチョ! ガシャガシャ ガシャガシャ! ガシャガシャ ガシャガシャ! 月ある夜半は秋の野面(のもせ)の楽隊おかし!』


 カルノタウルスが呪文を唱えた。




 「あの呪文は! 知ってるぞ! あのエメラルドゴブリンバチが使っていた呪文だな!?」


 「イエス! マスター! あれは『虫の楽隊』! 害虫を生み出す呪文でしょう!」



 アイがそう説明したまさにその瞬間にも、目の前のカルノタウルスの周囲に、無数の大群の虻が湧き出てきたのだ。


 ものすごい数の虻……、それは脅威だ。




 「イシカが命じる! 害虫は駆除すべきである……と!」


 「ホノリは賛同する! 害虫は滅すべしなのだ……と!」



 イシカとホノリはその虻の大群に怯むことなく突っ込んでいった。


 そして、二人が腕を組み、回転しながらものすごい熱を発していく。


 その熱せられた拳と脚で周囲を旋風のように回転したのだ。




 大量発生した虻たちも瞬時に滅せられていく……。


 だが、いかんせん数が多い。


 完全には消滅させることはできない。



 「おのれぃ! くわぁーーーっ!!」



 タルボサウルスがその手に持った巨大な剣で、イシカとホノリに斬りつけてきた。


 だが、二人はまるで舞いを舞っているかのように、一瞬にして、その絡ませた腕を離し、二手に分かれ、その斬撃を避ける。




 「ジョナサン!」


 「ミナ!」



 ジョナサンさんとミナさんもまるでワルツを踊っているかのように回りながら、周囲の『ディノ・ドラグーン』を切って落としていく。


 軽やかすぎて、あの二人だけ何を戦場でイチャついてんだよ!


 ……なぁんて思ってしまうぐらいだ。




 「グォロロログゥオオオオオーーーーンッ!!」


 不滅の怪牛の魔物ストーンカがその大きな身体に抱えた巨大な戦斧を振り回した。



 キィ……ン


 耳がつんざくような衝撃音がしたかと思うと、その衝撃波がオレたちを襲ってきた。




 「うぉおおお……!」


 「ぐっ……!」



 その勢いで川の方へより押されてしまった。


 ふと川の方を見ると、なんとその上流の方から、いわゆる首長竜のような魔獣の大群が近づいてきているのだ。




 「きゃぁーっはっはっはぁ! 私めは、凶暴種『十の災い』が四の竜モササウルスだ! 『川の水を血に変える』を信条としている! 死になさい!」


 そう言って迫ってきていたのだ。


 モササウルス!!


 ヤバい!






 「くぅ……! アイ! あと何分……、いや、何秒だ!?」


 「あと37秒後、コタンコロが到着します!」


 「なかなか……。厳しい状況じゃあないか!?」




 「あっ! あれは!?」


 ミナさんがなにかに気づいてこちらに声をかけてきた。



 そちらの方を見ると、オオムカデ爺やがくねりながら近づいてきているのが見えた。




 「爺やぁーーーーっ! こっちだ! 早く来ぉーーっい!」


 オレは思わず叫んだ。




 「イシカ! ホノリ! いったん下がって、『フュージョン』をっ!」


 アイがイシカとホノリに大声で指示を出した。



 「あいあいさー! 了解であるゾ!」


 「おっけー! 了解なのだっ!」


 二人は急いでこちらに引き返す。




 そうか! イシカとホノリが巨大土偶戦士アラハバキの姿になって、オオムカデ爺やを担いで、川を渡ればいいのか!?


 さすがはアイ。


 あの瞬間にここまで読んでいたとは……。



 (うふ……。)



 ん? なにか聞こえたような気がしたけど、気のせいか……。




 「ジン様ぁああーーーーーっ! 爺や、参上しましたぞぉーーっ!」


 オオムカデ爺やが叫んでこちらに向かってくる。



 よし!


 これは間に合いそうだ。


 あと20秒くらいか……。


 爺やと合流したら、コタンコロも到着するだろう。


 オレたちは空へのがれ、爺やをアラハバキが運べば、全員でこの窮地から脱出成功だ!




 そうオレが考えた瞬間ー。



 「グォロロログゥオオオオオーーーーンッ!!」


 不滅の魔牛ストーンカがその巨大戦斧を空高く担ぎ上げ、ジャンプしたのだ……!




 そして……。



 ドカカァァアアーーーーッ!!




 その戦斧は大きく弧を描きながら、勢いよくオオムカデ爺やの胴体真ん中あたりに叩き降ろされたのだ……。



 ブシュウゥウウウウゥウウウーーーーッ……



 オオムカデの身体から赤い鮮血が周囲に噴水の水が散布されるように噴き出した。






 「爺や……。爺やぁあああああーーーーーーっ!!」


 オレは思わず叫んだ。


 アイはすかさず、イシカとホノリに声をかけた。



 「アラハバキ! フュージョン強制執行っ!!」





 イシカとホノリは二人揃って返事をする。



 「「了解した!」」



 そして、そこに一瞬で巨大土偶アラハバキがそこに出現したのだ。



 アラハバキが砂を爆裂に巻き上げ駆けつけてきた。


 そして、オレ達がいた場所に急ブレーキで止まったー。




~続く~


©「アメイジンググレイス」(曲/アメリカ民謡 詞/ジョン・ニュートン)

©「はなさかじじい」(曲:田村虎蔵/詞/:三郎)

©「虫の楽隊」(曲/田村虎蔵 詞/桑田春風)



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