第154話 幕間・その4『アイとコタンコロの冒険』


 アイです。2週にわたってお送りしておりますw


 西方の記録は、地図制作班のマッド・マッパーとタダタカ、ピリー・レイス、そしてハヌマーンとセイティーンに任せることにしました。


 なぜならば、ワタクシの下僕の三匹の魔物、『猿』『豚』『河童』の最後の一匹、『河童』の情報を『豚』ことヂュ・バージェが知っていたのです。


 そこで、ワタクシと『豚』がそちらへ行くことにし、西方調査は『猿』に任せたというわけです。







 ワタクシはそこで、任務を終えたばかりのコタンコロを呼び寄せました。



 「コタンコロ! 参上つかまつった!」


 ふわっさふわっさと羽ばたく巨大なフクロウが高速でやってまいります。




 「アイ様! あのフクロウの魔物はいったい?」


 「ああ。ヂュ・バージェ。あなたは初めて会ったかしら? コタンコロよ。マスター直下の下僕です。」


 「おお! かの御仁の直属の下僕ですかい! そいつはすごいでんなぁ!」



 「うむ。我はコタンコロ。お主はアイ様の下僕、豚であるな?」


 「左様でさぁ。よろしく頼んます! 兄貴!」


 「む……。兄貴……。我のことか……。まあ呼び名はどうでも良いである……か。」




 「では、参りますよ? コタンコロ! ヂュ・バージェ!」


 「心得た!」


 「あいあい!」


 アイと『豚』を乗せて、コタンコロが大空へ舞い上がる。


 このまま、『河童』がいたという『高天原国』の都市『カッパ・ド・キア』を目指す。




 目指す街は、『高天原国』の南西にあるタウルス山脈の麓から遠くない位置にあった。


 カルスト状の山が尖った尖形の奇妙な岩山を形成しているが、その奇岩群は『妖精の煙突』と呼ばれていて、実際は地下からの排気を行っている。


 そう、『カッパ・ド・キア』はこの地下に広がる地下都市なのである。




 『カッパ・ド・キア』は36箇所ある地下都市のうち、最大はデリンクユ、カイマクル、オズコナークと呼ばるものが『カッパ・ド・キア』を代表する地下都市と言われ、それらの中でも群を抜いて巨大なものである。


 2万人収容のデリンクユ、1.5万人収容のカイマクル。


 そのほとんどが地下水で満たされており、水棲人の河童が棲んでいるという。




 「うーん、水の中の都市のようですね。コタンコロは数時間は息を止めていられるので問題ありませんね。ワタクシは水分子を水素と酸素に分解して呼吸することができますので、もちろん問題ありませんが……。」


 「うむ。もちろん我は問題ない。」


 「へい。わたすは無理ですな。」


 『豚』のヂュ・バージェが答える。




 「では、ワタクシと同じように水分解呼吸補助を与えましょう。さ、行きますよ。」


 そう言って、アイがコタンコロと一緒に井戸の中へ入っていく。


 井戸のように見えるの箇所が入り口のようだ。




 「ちょ、ちょ、待ってくださいよ! そんな急に言われても……。覚悟というものが……。」


 二人に置いていかれた格好になった『豚』は急いで後を追って井戸に飛び込むのだった。



 水路が複雑に絡み合う構造をしていて、その中に空気が溜まった空間の部屋というか、住居なのか空間があり、たくさんの空間が繋がり合っている。


 ビーバーの巣のように水中から空気の溜まった空間で居住しているようだ。




 「本当に水中で息が吸えるんですね。すごい!」


 「あ! あそこにいる河童に聞いてみましょう。」



 「そこのお主! ここらで『河童』なる者を知らないか?」


 コタンコロが水路を泳いでいた河童の小童に尋ねた。




 「え? 『河童』ってみんな河童ですけど? それに、フクロウがなぜ水の中に!? それにそちらは天女の如き美しさ! ま、豚野郎はなんだかなぁ……だけど。」


 「この河童の少年は非常に正直でよろしい。」


 「おいら、河太郎(かわたろう)ってんだ。天女様。何か知りたいのかい?」


 「ええ。捲簾大将(けんれんたいしょう)という者です。知りませんか?」


 「ああ! 捲簾大将さんか! あの方は死んじまったよ。なんでもこの地下深くに棲む深海の化け物に食われたとか……。」




 「なんですって!? まあ、『河童』のヤツめが……。加護を断ち切るほどの相手か?」


 アイもそのことを聞いて驚いた。


 頑強な肉体と、医療用超ナノテクマシンで守られた身体を与えていたはずなのに……。




 「あ! でもたしか捲簾大将には娘がいたはずだよ。たしか、深沙(サーシャ)って名前だったよ。」


 「おお! あの捲簾大将に娘がいたとは! ハヌマーンにも娘がおったし、わたすだけが独身かぁ……。」


 「うむ。河太郎と申したか。その娘はいずこに?」




 「たしか、河伯のじいさんに引き取られたはず。ほら、あそこの家だよ。」


 「坊や。ありがとうね。」


 「いえいえ。天女様の役に立てておいらも嬉しいよ。」


 「本当に可愛い子ね。あなたに幸あれ。」


 アイはそっと河太郎にマーカーをつけた。




 河伯の家を訪ねると、家の中には河伯と思われるじいさん河童と、ボディラインがエロい感じの河童の娘がいた。



 「あんたがた、何者さね?」


 「あなたが河伯ね。私はアイ。そして、そちらは捲簾大将の娘、深沙(サーシャ)ね?」


 「はい。そうですけど、父上を知ってるの?」


 「そうね。所有者ですわ。」


 「しょ……所有者!?」




 「どういうことですか? 父上の所有者ってどういう意味!?」


 サーシャは叫んだ。


 突然訪ねてきた正体不明の女性がいきなり自分の父を所有物扱いしたのだ、戸惑うのも無理はないだろう。




 「検知機能を搭載したGPSマーカーを捲簾大将には持たせていたはずですが……。彼が死んだと聞きましたがどういうことなの?」


 ワタクシはとにかく情報を先に聞き出すことを優先し問いかけた。


 無駄なおしゃべりは無駄だから嫌なのです。




 「マ……マーカー? なんなの? それってどういうモノ?」


 「数珠のようなものを持っていなかった?」


 「あ……! ああ! それはこれのこと?」


 「ああ! それですわ。信号を送ったのに返事がなかったのですけど、あなた……。それについて何も聞いていなかったの?」




 そう、『河童』にもあの探知機と支配の機械をつけておいたのだ。


 『定心真言(じょうしんしんごん)』という量子思念電波を発すると、数珠が身体に巻き付き巨大化して束縛するように設計されていて、いつでも『河童』の動きがしばれるのだ。


 そして、ワタクシはこの魔物を調教し、マスターの身体蘇生のための素材集めに従事させたのです。


 だが、それとともに彼に危害を加えるものから守るようにもプログラムしてあったはず。





 「父上は、深海の魔物を倒しに行く前に私にこれを渡して行きました。」


 「なんと!? 自身の身を守るためのものを娘に渡していくとは……。なんて浅はかなことを!」


 「うむ。アイ様。おそらく『河童』は自分よりも娘の身を案じたのではないか?」



 「そうですなぁ。わたすには娘がおりませんが、娘がいたら同じことをしたと思いますな。」


 「おまえは簡単に人に真珠を盗られたではありませんか?」


 「あいやー。こりゃ痛いところをつかれましたな。はっはっは!」




 「その捲簾大将を討ったという魔物の名はなんといいますか?」


 「はぁ。突如現れた深きものども『ディープ・ワンズ』の長ダゴンというものでさ。『海王国』の者だとは聞いておるが、どうも何かを探しにこの地に来たらしいでさ。」


 「ほう……。『海王国』のダゴン……ね? 許すまじき……。きっと父上の仇を取ってみせましょう。サーシャ。」


 「え? 仇を取ってくれるの?」


 「ええ。ワタクシの物を壊した罪は重い。」




 「私も連れて行ってくれませんか!? 父上の仇を取りたい!」


 「うむ。良い心がけであるな。ご主人様もジュニア殿の仇討ちを手助けしたことです。賛成なさるでしょう!」


 「ふふふ……。そうね。マスターもまさにまさにお喜びされることですわ! そして、その行動を取ったワタクシをお褒めいただけるでしょう! ああ!」




 二人がなにか妄想で歓喜に震えているところを横目に見ながら、ヂュ・バージェがサーシャに手をさしのべ、優しく微笑んだ。


 「なら、わたすたちと一緒に行こうな。」


 「はい!」





 こうして、アイは三匹目の魔物『河童』の娘を探し出し、配下に加えたのだった。




~続く~



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