第155話 幕間・その4『回想』


 オレたちはからくもジャック・ザ・リッパーたちの手から、『爆裂コショウ』の群生地を奪還することに成功した。


 そして、『ヤプー』の二人とジロキチたちを『チチェン・イッツァ』へ戻し、青ひげ男爵討伐へ向かうことにしたのだ。


 ジロキチたちが『爆裂コショウ』調査と採集クエストの達成報告をしてくれるだろう。




 『楼蘭』に残ったヒルコが、どんどんオレのアニメ・コレクションを街のみんなに見せて、その魅力を伝えていっている。


 今や、『楼蘭』でアニメやマンガを知らないものはいないだろう。


 オレの自慢のコレクションだ。


 ネズミのアニメ帝国……、そう言われるのも時間の問題か……。


 いや、アレとは関係ないからね? 著作権とか知らないよ?




 それにしても、吸血鬼とか、いったいどうなってるんだ? この世界は……。


 どうやら、吸血鬼の王が『ラグナグ王国』という国家を築いているらしい。


 たしかに、ヤツラは『赤の盗賊団』の時や、今回の『コショウジャック』など裏から人を操って悪さをしていた。


 そういうのは許せない……と思う。




 そして、『ヴァンパイア・ハンターズ』のヘルシングさんたちは、吸血鬼=『悪』として、滅することを是としている。


 その主義は理解はできる。


 もちろん、種族として害を為すとみなされるのだろう。


 オレのいた元の世界で言う殺人鬼のようなものか……。




 特に、ジュニアくんと関わり合いを持った今では、やはり悪い敵と考えてしまう。


 やはり、オレとしては放置したくない。


 彼らの種族が他の人類……というか世界の種族たちにとって害を及ぼす敵ならば、それを排除するのにためらう必要はないのだろう。


 しかし、どうもこういった『正義』対『悪』の構図は苦手だ。




 前にアイが言っていたとおり、『正義』の反対は……、また『別の正義』なのだと思う。


 だけど、そうは言ってもオレはヘルシングさんたちに協力したいと思った。


 これは本当にオレのエゴだろう。


 オレはオレの仲間と思った人々に感情移入してしまっているし、見過ごせるわけはない。





 ああ……。昔の世界のままなら、警察とか国に任せてしまえば良かったんだろうなぁ。


 でも、オレには頼りになる下僕たちがいる。


 チカラを持った者がそのチカラを使わずに、見捨ててしまうのは、やはりなんだか後ろめたさを感じてしまうんだ。


 本当はこんな殺伐とした戦いなんかしたくないし、大好きなアニメやマンガの世界に浸っていたい。




 本当に変な世界になってしまったものだ。


 『魔法』という不可思議な能力も当たり前に存在しているし、魔物もうじゃうじゃいる。


 つか、ヒトのほうが珍しい。


 純粋なヒトをオレはまだ見たことがないしな……。




 ところで、オレの進めている商売はちょっと上手く進んできている。


 そう。オレの考えてた商売は主に3つなんだけど。



 ひとつめの、運輸業についてだが、すでに『楼蘭』の街と南の『海王国』の『無名都市』、『楼蘭』と『円柱都市イラム』については砂竜のボス・ガレオンの配下の砂竜たちを使って、定期便が開通している。


 単純に、オレは美味い料理を食べたい。


 そのためには、新鮮な世界各地の食材を運ぶ手段を確立しないと実現しないのだ。


 最終的には、科学の粋を集めて、最速の空輸便を実現させないといけないと思うけどね。




 いや……? 待てよ……。


 『魔法』で転移の呪文というものもあったよな。


 かつての世界では実現しなかった物質転送装置のようなものも、この世界では可能なのかも知れない。


 まあ、今のところそんなものがあるとは聞いていないので、転移系の呪文も何かしら制限があるのかも知れないが、可能性を追求するのはいいことだろう。




 また、ジュニアくんたち商集団『アリノママ』には、各都市の細かい配達に協力してもらっている。


 月氏の宅配業、『ネズミマークの宅配便』だ。


 うん……。そう、元いたオレの世界でのアレのまるパクリだよ。


 悪いか? もうこの世界にはないんだから、いいだろう?






 ふたつめの商売は、情報産業だ。


 かっこよく言っちゃってるけど、ニュースボード代わりの『街頭テレビ』を各都市に設置したのと、『楼蘭』では、個人個人が持ち運べる携帯型のタブレットを無料で配布したんだ。


 この『街頭テレビ』のニュースは、『情報屋ヤプー』と『フェアリーブック』に協力してもらっている。


 タブレット型のものは、まだ『楼蘭』だけだけど、徐々に広げていこうと思う。


 魔道具の箱と言われているけど、何かいい名前があればつけたいけどな。




 最後のみっつめの商売は、その情報伝達産業に必須のコンテンツ業なんだけど、これは実験的に『楼蘭』の街で配布した『魔法の箱』ことタブレットでみんなが見られるようになっている。


 まず配信しているのは、何を言ってもアニメの映像作品だ。


 こういったコンテンツを作るクリエイターや編集者が必須になってくるけど、今は全部アイ先生にすべてぶん投げちゃっている状態だ。


 もちろん、これからは、外部からそういった人材を確保していかないと成り立たない。


 しかし、まずはこの新しい文化を広めていかなければ、この新しい職業の成り手もいないってものだ。






 交易については、『海王国』のハスターさんと取り決めした物産の流通が上手く行っている。


 それと、最近、アイが新しく西方から持ち込んだという『カカ王』から作られたチョコレートが絶賛、爆売れ中と聞いている。


 チョコレートケーキもあるというのだ。



 ああ……。オレのいない間にそんな美味しいものが開発されただなんて……。


 今度、『楼蘭』に帰還したら絶対すぐに食べてやる!




 主に『楼蘭』からは、その『カカ王』や、『サソリパウダー』、『ココヤシ酒』、『スナイモ』が輸出されている。


 『無名都市』からは逆に『クラーケン』、『サザエオニ』、『ワカメ・ワーカー』、『シー・シー・プー』、『マイコニド(きのこ類)』などが輸入されていて、『クラーケン』から作る『クラーケン焼き』や、『サザエオニ』のつぼ焼き、『ワカメ・ワーカー』の入ったミソ・スープなどが新しい料理として、みんなに食べられるようになった。




 『円柱都市イラム』からは、『グラランナ牛』や『サテュロス羊』、『黄金シャチ』、『ハオマ葡萄』などが輸入され、美味しく頂いている。


 『東方都市キトル』からは、主に香辛料と香水だ。香辛料は『エルフ国』の樹上都市『トゥラン』からのものが多く、香水は『キトル』産の4種が人気が高い。


 さらに『黄金都市エル・ドラード』から入ってきているのは、『コムギト種の小麦』や、『黄金羊』、魔鉱石、『シダの花』などなど。



 たくさん流通するようになり、人々の往来も増え、『楼蘭』の街は急速に発展している。


 砂漠の真ん中に突如、栄えた街が出現したのだ。


 ドバイとか、アフリカの都市のようだな。




 それにしても、『魔法』というものは不思議な能力だな。


 アイに言わせると、すべて科学で再現できるというが、その法則は『物理』では理解できない。


 ま、この世界では『魔法理』というものがあるようだけどね。






 オレはまだこの時、気づいてはいなかったんだ。


 この世界の『七雄国』と呼ばれる国々が、『不死国』に対して戦争を仕掛けていこうとしていることを……。


 そして、オレたちもその渦中にいて、まさに巻き込まれようとしていることに、まったく気がついていなかったのだったー。




~続く~



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