第153話 幕間・その4『アイの冒険・その4』
さて、マスターから『霧越楼閣』の西方の調査と、地図の作成を命ぜられたワタクシ、アイです。
その上、ワタクシの下僕の三匹の魔物、『猿』『豚』『河童』を探し出し、連れ帰る……それも使命なのです。
そして、ようやく1匹目の『猿』のハヌマーンとその娘セイティーンを探し出し、仲間にしたのです。
旅の道連れは、ワタクシと、地図作成バイオロイドのマッパ・マッパー。
測量と地質調査の記録担当のバイオロイド、タダタカ。
上空からの立体測量担当の幽霊型ナノテクマシン、ピリー・レイス。
『猿』ことハヌマーンと、その娘セイティーンです。
そして、ワタクシたちの行路と合わせ、はるか上空の人工衛星『マゼラン』が常に位置を把握し、情報を送受信する仕組みになっている。
ワタクシたち一行は『豚』のかすかな痕跡をたどり、戦闘民族サラマンダーの国『火竜連邦』へやってまいりました。
サラマンダー、火竜種族はとにかく好戦的で、戦士としての誇りが何より大切という思想もあり、それぞれが帝を名乗り、皇王を名乗っているのだ。
その中の皇帝のひとり、東の木帝である伏義(ふっき)・太皞(たいこう)皇帝の支配するヴォウルカシャの森にその『豚』の痕跡がかすかに測定できたのだ。
アイたち一行は、ヴォウルカシャの森の中に『烏斯蔵(うしぞう)』という街に到着した。
「さて、ここで反応が強く現れていますが、どこにいるのでしょう?」
「アイ様の加護を頂いているワシのように身体が死ぬわけもありませぬからな。どこぞで身動きできなくなっていると思われますな。」
「父ちゃんみたいにか?」
「そうよ。セイティーン。それにあの『豚』には検知機能を搭載したGPSマーカーを持たせていたはずですが、それに反応しないということは……。」
「ああ。父ちゃんの頭の輪の『緊箍児(きんこじ)』みたいにか!」
「ヂュ・バージェ(猪八戒)のヤツめがアイ様の呼びかけに応じぬはずはありえませんからなぁ。」
一行が街の中を探索する。
街にはたくさんの店があり、多くの店に火蜥蜴のレリーフが置かれている。
街一面に広がるかわら屋根の瓦は、この付近の土を利用して造られたもので、黒と白い粒子が混じったような、グレーがかった色をしている。
街の全景を見下ろせば、瓦の海とも思える光景が眼下に広がっていた。
街を行く人々の服装は、中華風の格好で、種族はほとんどがサラマンダーである。
アイたちの姿は珍しいらしく、じろじろと見られる。
街の中をみんなで見て回ったが、なかなかヂュ・バージェの姿は見つけられなかった。
「父ちゃん……。おなか空いたよ。」
「ん……? ああ、そうだなぁ。アイ様。すみませぬが何か食事を取りたいと思いますが……。」
「そうですね。では、あの『高老荘』という中華飯店に入りますか?」
「そいつはキテマスねー! 美味そうですねー! ひゃっはっはー!」
「よろしゅうございますな。」
「わたくしめも……。異論ございません。」
地図作成班員のマッド・マッパー、タダタカ、ピリー・レイスも賛同する。
「お客さん! 『高老荘』へ、いらっしゃいアルよ!」
奥に厨房があり、そこをお店の大将っぽい火蜥蜴が料理をしている。
出迎えたのは娘のようだ。
「なにがオススメなのです?」
「ええ。うちの看板料理は最高の『チャーシュー』アルね!」
「なら、それを5人分もらおうかしら?」
「へい! まいどありアル! 爸爸(パーパ)! 『チャーシュー』5個ね!」
「あいよっ!!」
待っている間、他の火蜥蜴の客たちの話し声が聞こえてくる。
「いやぁ。ここの大将・高太公(こうたいこう)の『チャーシュー』は最高だな。」
「看板娘の高翠蘭(こうすいらん)ちゃんの笑顔がたまんないよなぁ!」
「だな!」
「しかし、繁盛してるなぁ。この店は。」
「ああ。なんでも肉を取っても取っても回復する魔法の豚を手に入れたようだぞ。」
「へぇ! あの『皇国』のセーフリームニルみたいだな。」
「アイ様。どうやら評判の良い店のようですな。」
「そのようね。セーフリームニルって豚は有名なの?」
「あたしも聞いたことあるよ。『皇国』のその肉はアンドフリームニルという料理人が作る料理らしいね!」
そんな話をしていると、店の娘が料理を運んできた。
「はい! 『チャーシュー』5人前、お待たせアルよ!」
「おお。来た来た。」
「うわぁ! 美味しそう!」
みんながはしゃいでる中、アイだけが少し黙ってその『チャーシュー』を観察していた。
「この……、『チャーシュー』から、『豚』の痕跡を感知したわ!」
「え? アイ様。そりゃそうですよー。『チャーシュー』って焼き豚なんですからぁ~!」
「セイティーン。そういう意味ではないわ。」
「アイ様。それは……。ヂュ・バージェのことですか?」
「そう……。この『チャーシュー』はヂュ・バージェの肉が使われている!」
「「ええぇ!?」」
一同はその後、一口も手を付けずに、黙ってしまった。
「ちょっと! そこの娘!」
「あ、はーい! 何アルか? お客さん。」
店の娘がやってきた。
「この『チャーシュー』の素材は何を使っているのかしら?」
「え? ああ。昔、父が捕まえたハイオークの肉アルよ!」
「そのオークって……、どこにいるの?」
すると店の厨房から大将が叫ぶ。
「おいおい! お客さん! それは企業秘密アル! 翠蘭(すいらん)! しゃべるなアル!」
「わかったアル!」
「商売の邪魔だ、帰った帰った!」
そう言って、店を追い出されるアイたち。
外に出されたアイたちだが、アイはすぐにハヌマーンに指示を出した。
「この店を調べなさい! 『豚』を捕まえて飼育していると推測されます!」
「了解しました!」
店の裏の倉庫のような建物に調査に忍び込んだハヌマーン。
その奥に鎖でぐるぐる巻にされて捕らわれた豚が一匹いた。
「おお! ヂュ・バージェじゃあないか!? 大丈夫か!?」
「あ……、ああ……? あんさんはハヌマーンの兄貴じゃあないか!? 懐かしい……。」
「いったいどうしたのだ? お主もアイ様に授かった魔道具を持っておったろう!?」
「それが……、あの真珠を取られてしまったんじゃ……。ここの主人の高大公のヤツめに……。」
「そうだったのか……。とにかく、ここから出してやろう!」
「おっと! そうはいかねぇぜ! やっぱりこの盗人たちめ! 来ると思ったぜ!?」
振り返るとそこにいたのは高大公とその手下たちだった。
「しまった……! 見つかったか……。」
取り囲まれたハヌマーンとヂュ・バージェ。
だが、そこに宙空からアイがふわりと降りてきたのだ。
「ワタクシの下僕によくぞ手を出したわね?」
そう言って、アイが周囲の超ナノテクマシンに命令を下した。
「死になさい!」
ドッバァアアーー……ン
一瞬にして、周囲の火蜥蜴たちは血という血を吹き出して倒れたのだ。
その様子は赤い噴水が乱れて噴出したような、ある種の美しささえあった……。
「超ナノテクマシンによる内部からの破壊……『爆刹那』……。せめて美しく散りなさい……。」
「おお……。淡島様。お久しゅうございます……。」
「ふむ。ワタクシの授けた真珠を取られたというのね?」
「は……。死よりも恥ずかしい恥辱です。」
「まあよいわ。それに……、真珠はおまえに似合わないかもね……。『豚』に真珠って言うものね。」
「そいつは聞いたことありませんが、手に余るほどの魔法具であったかと存じあげます。」
「じゃあ、新しくこのセコ・王虫(おうむ)の『骨』を渡しておくわ。」
「感謝します!」
「豚を盗んで骨を施す……とは、このことかしらね?」
「は……、はぁ。」
こうして、アイは二匹目の魔物『豚』を探し出し、配下に加えたのだった。
ところで、『チャーシュー』の素材を盗まれ、店主がいなくなった『高老荘』は娘の高翠蘭があとを継ぎ、いかがわしいお店とリニューアルされ、人気店となったそうなのですが、それはまた別のお話……。
~続く~
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