第145話 七雄国サミット『会議の行方』


 「では、会議を再開いたしましょう!」


 『皇国』の光の皇子(みこ)フォルセティがふたたび会議の進行を宣言した。


 しばしの中断を経て、各国の者たちの頭もリフレッシュされたようだ。




 「では、『エルフ国』の責任の所在の是非はいったん置いておいて、次の議題を検討してみましょうか?」


 フォルセティが議題を進めていくことを提示した。



 「それならば、新しいSランク冒険者候補について意見を聞きましょう。」


 『法国』のヘルメスが発言した。




 「ふむ。ジンと申す者である。アテナの報告によると、この者の働きは英雄に値すると言っておったな。」


 ゼウスがジンの働きを評価する。


 「はい。アテナはジンの功績により、『赤の盗賊団』討伐が為されたと言っても過言ではないと申しておりました。」


 ヘルメスも同意する。



 「うちのアテナがそこまで褒めることはなかなかないことですわね?」


 ヘラも意見を合わせる。


 『法国』としてはジンに対して印象はすこぶる良いようだ。






 「うむ。我が『龍国』でもジンのことは聞いておる。まあ、順当に次のクエストを達成すればSランク認定して問題なかろう?」


 龍王アヌがジンを推す意見を述べた。



 「余も賛成である。この際、宣言しておこう。余とジンの『ルネサンス』でサファラ砂漠を開拓する計画をしておる。『海王国』としてはジンをバックアップし、今後は砂漠地帯を『海王国』が住み良いエリアにしていくことを約束しようではないか!?」



 すると、ここでハスターがジンとの共同開発で砂漠エリアの開拓をすることを宣言したのだ。


 サファラ砂漠はどこの国家にも属していないエリアだ。


 だが、それは不毛な地帯だからであり、開拓することは不可能と考えられているからだ。




 「ほんに砂漠の開拓がうまく行くのであれば、ハスター殿下におまかせしても良いのではなかろうか?」


 ブラフマーが『海王国』の発言に許諾の意を述べる。


 「いや……! サファラ砂漠のエリアは不可侵なのではないのか?」


 だが、『南部幕府』のアチャラナータが異を唱えた。




 「んんーー? どうなんです? フォルセティ?」


 ロキが尋ねる。


 「どうですね。どこの国家にも属していないのはたしかですね。しかし、正確には不可侵のエリアではありませんね。侵攻する魅力のないエリアであるから……というのが正しいのでしょう。」


 「ははーん。……と、そういうわけね。アチャラナータくん。……だってさ?」


 ロキがアチャラナータに告げる。


 「くぅ……。」




 「それに……。あのエリアには『虚空の魔神』がおるのではないか……! そんな恐ろしいエリアに手を出す輩が今までいなかっただけじゃて。」


 長老タイオワもそう言って、ハスターを見るが、肝心のハスターは意に介さないようであった。



 「へぇ……。ハスター。君の言ってた面白いことってこういうことだったんだね?」


 「ふふふ。まあな。我が『海王国』の陸上進出がこれほどまでに上手く行くとはな……。ジンに感謝だな。」


 「にゃるほど。にゃるほど。」


 「おまえ……。また、にゃ言葉が出てるぞ?」


 「おっと……。いけない、いけない。」


 ニャルラトホテプとハスターはここで大きな成果をあげたようだ。




 『地底国』は、自国の支配域から遠く離れた地域のことで、特に興味も湧いていない様子であった。


 ラーもオシリスも発言せず黙って見ていた。


 しかし、話の方向性を変えたのは、巨人の王ウトガルティロキであった。



 「ちと言うが、ジンという冒険者のSランク認定の件から逸脱しておるのではないか?」


 巨人の王が指摘する。




 「そのとおりであるな……。巨人の王の申すとおりである。ジンの資格があるや否や……という点に話を戻すが良いぞ?」


 フォルセティがその発言を受け、的確に修正する。


 「くくく……。話がずれても本筋に戻すことができる。目的を忘れない。これは会議で重要なことだね?」


 ロキも茶化したように言う。




 「ふむふむ。じゃが、そのジンとやらには、まだ成果が足りぬのではないか?」


 ブラフマーがここで判定はまだ早いとの示唆をする。



 「ジンの功績を述べよ! ヘルメス!」


 「はい。ゼウス閣下。まず、さきほど確認した『赤の盗賊団』討伐において、ジンの働きが誠に大きいものであったのは明白。続いて……。」


 ヘルメスがここでちらりとタイオワのほうを見た。


 タイオワも苦々しい顔を見せたが、黙っている。




 「実は『エルフ国』のナナポーゾ殿が危険な実験を行い、『円柱都市イラム』の街の住民に被害が出た事件をジンが解決したとの報告も上がってきております。」


 「なんだと……? あのナナポーゾが……!?」


 ウトガルティロキはタイオワのほうを見たが、タイオワはじっと黙っている。



 「それが真なら……、『エルフ国』は先の魔力爆発に引き続きの失態であると言えようぞ?」


 『龍国』のマルドゥクがここで大声でいきり立った。




 「なるほどね……。ジン殿はそれで今いずこに?」


 「はい。東方都市『キトル』のナボポラッサルより、最近巷(ちまた)で『爆裂コショウ』が高騰しておったゆえ、その原因の調査に向かったと報告が来ております。」


 エンキがヘルメスに聞き、それにヘルメスがすぐに答えた。






 すると、そこでハスターが待ってましたと言わんばかりに発言する。


 「その件は『ジャックメイソン』のコショウジャックが原因であったと余は聞き及んでいる。そして、その事件をまたもやジンの『ルネサンス』が見事に解決したとな!」



 「おお!?」


 「ヘルメス……? どうなのじゃ? それは本当か?」


 「いえ……。ゼウス閣下。まだ私はその情報は掴んでおりませぬ。……ハスター殿下。その情報はいったいどこから?」




 黄衣の王は不敵に微笑んだ。


 「蛇の道はククルカンと言うであろう? 余に間違いはない。」



 各国の者たちはざわめいている。


 この場で一番、情報を掴んでいると思われた『法国』の知恵者ヘルメスが知らぬことを、ハスターが知っていると言うのだ。


 だが、『海王国』のハスターともあろう者が、後ですぐわかる嘘をこの場で言う必要がないこともまた自明の理であった。




 「ふんふんふーん♪ ハスターくんが嘘なんてここでつくメリットはないもんねぇ? まあ、その情報網たるや一驚に値するというところだね。じゃあ、まあ、それでいいんじゃない?」


 ロキが空気も読まず、あっさりと認める発言をする。




 「ふむ……。では、ジンは3つの功績があるということじゃな……。しかもそれぞれ国家に関わる重要なクエストということもな。」


 ゼウスが今までの話をまとめる。



 「かーっはっはっはーっ! 面白いではないか! 『龍国』はジンの後見役を引き受けようぞ!」


 龍王アヌがここでSランク認定の許可に必要な後見国として名乗りをあげた。


 「いや、待て。今までの話を聞いてなかったのか? 余の『海王国』が後見に立つのが筋ではないか?」


 ハスターも黙っていない。




 「いや、それならば、我が『法国』も仮にも防衛大臣アテナはともに戦った者同士でありますぞ? 『法国』が後見役となるのが正しい法の道と言えましょう。」


 さきほどハスターに遅れをとった形になったヘルメスもここで名乗りをあげ、挽回に努めようとする。



 「余の『龍国』はジン殿と交易をするほどなのだぞ!?」


 「それなら、余は直接ジンと会って面識があるのだぞ!?」


 「あーあー。面識と言うなら、我が『法国』のアテナも懇意にしていますよ?」


 「ちょいと待ちなよ。お三方。我が『南部幕府』にはジンの仲間であるアイが謁見に訪れておるぞ? 『幕府』も権利があるだろう?」




 「あー。『エルフ国』ももちろんずいぶん関わっておるが……。ここはその権利は他国に譲ろうではないか。その代わり、『エルフ国』の一部の跳ねっ返りが仕出かした件は、個別の罰を与えるということで譲歩するとしよう。」


 ここで『エルフ国』のタイオワが自らその権利を放棄することで、『赤の盗賊団』、ナナポーゾ事件の不祥事について国家の責任は問わないと認めさせる方向に持っていったのだ。


 さすがに老獪なじいさんである。




 ****





 さて、『チチェン・イッツァ』に近い森の中でー。



 「へっ……っくしょんっ!!」



 オレは急にくしゃみをしたのだ。




 「マスター。体調が悪いのでは!? でも、そんなまさか!?」


 「いやいや。アイ。単なるくしゃみだよ。たぶん……誰か噂でもしてるんじゃないか?」


 「ジン殿。『爆裂コショウ』でも鼻に入ったのではないか?」


 「ヘルシングさんまで……。大丈夫ですよ。昔から言うでしょ? くしゃみって、『一にほめられ二に憎まれ三に惚れられ四に風邪をひく』……ってね?」




 オレがヘルシングさんにそう言うと、ヘルシングさんはやれやれと言った表情でこう言った。



 「ジン殿……。それは、『一にほめられ二に憎まれ三に惚れられ四に風のハスター』ってやつじゃあないのか?」




 ええ……?


 風邪じゃあなくて、風のハスター……。


 ハスターって本当にやっかいな御方っぽいね。




~続く~


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