第144話 七雄国サミット『会議の開始』
「只今より! 会議を開始します!」
フォルセティが開催の宣言をした。
「まずは議題を確認しよう。」
『法国』の執政大統領ゼウスが発言する。
「では、私からこの『七雄国サミット』の目的を説明致します。
1つー。先日の『円柱都市イラム』近郊での魔力爆発についての詳細について。
2つー。責任の所在とその処遇。
3つー。新たなるSランク冒険者候補アシア・ジン率いる冒険者パーティ『ルネサンス』について。
4つー。その他、何かこの場で動議しておきたい件があればなんなりと。
……といったところでしょうか。」
「うむ! その1つ目の議題の件であるが……。」
『エルフ国』の長老かつこの都市の警備隊長オベロンがおもむろに言い出す。
オベロンは考えていた。
『エルフ国』のはみ出しものとは言え、魔力爆発を起こしたサタン・クロースは『エルフ国』のレッドキャップ種族だ。
その責任を取らされ、賠償を求められたら『エルフ国』にとって非常に由々しき事態になる。
このことは同じ『エルフ国』の長老でもあるタイオワとは事前に認識を合わせている。
なんとか責任を回避するのだ。
「先日、『ミトラ砦』が魔力爆発によって消滅した。その禁呪『魔王』を使いし者は我が『エルフ国』の半端者の種族レッド・キャップの首領サタン・クロースだったことが判明しています。……が、レッド・キャップ種族は『エルフ国』ではすでに見放された種族であり、こたびはこの一部の者の身勝手な行動が引き起こしたものであることは明白であると心得ます。」
オベロンが説明をする。
「ほお……。あのサタン・クロースかい。ふふ……。それはそれは……。」
ニャルラトホテプが不敵に笑う。
かつての『エルフ国』と『海王国』の戦争で因縁があったのやもしれない。
「そうじゃ。あやつは『エルフ国』の鼻つまみ者じゃった。断じて『エルフ国』の国家の意思ではないことを言っておこう。」
『エルフ国』の長老タイオワがきっぱりと言った。
ここできっぱりと言う意味は、『エルフ国』の国家としての責めを回避するためである。
「しかし……、そのように申すところは『エルフ国』の自分勝手な見解に過ぎないのではないか?」
ここで反論してきたのは『海王国』の皇太子ハスターだ。
「たしかに……。ハスター殿下のおっしゃる通り……。『エルフ国』として、そのような狼藉者を排出したことにこそ責任を負うべきではないのか?」
賛同する意見を言ったのは『龍国』のすべての技術・魔術・知識のマスターとして知られる知恵の魔学者エンキだ。
「うむ。エンキの言うとおりである。『エルフ国』はその責めを甘んじて受けるべきであろう!」
龍王アヌもエンキの意見に同調する。
「ぐ……。それは……。」
「ううーん。そう言われてしまうと、つらいところねぇ……。」
妖精王オベロンと妖精女王ティターニアは夫婦揃って、困り顔になってしまった。
「そうですね。ハスター殿下やエンキ博士、アヌ龍王閣下のおっしゃることはよくわかります。ですが、国家としての侵略の意思がそこに在りしや否や?」
『法国』の叡智と魔術の象徴ヘルメスがここで、核心たる質問を呈した。
「うむ……。たしかに。そこは最も重要な要件であるな。」
『北部帝国』のブラフマー皇帝がヘルメスの質問に同意した。
「そうね。さきほど『エルフ国』のタイオワ長老は国家の意思を否定しましたけど、もう少し詳しい事情はわかっておりませんの?」
ブラフマーの妻サラスバティー皇后がさらに疑問を投げかけた。
「それはじゃな……。」
ゼウスが口を開こうとしたその時ー。
「そこについては、ある筋より余の耳に入ってきておる。ラナケートゥ! 説明してやれ。」
『南部幕府』のヴァイローチャナ将軍が、ここで口を挟んできた。
ゼウスはアテナより聞いていた内容を誇らしげに説明しようとしたのだが、出鼻をくじかれてしまい、口をパクパクさせるばかりだ。
「は! このラナケートゥが恐れながらご報告申し上げます。くだんのサタン・クロースらレッド・キャップ種族は、吸血鬼どもに踊らされていたようなのです。これは、『法国』のアテナ防衛大臣殿もその場におられたそうですから、間違いない情報かと存じます。」
『南部幕府』の叡智の者ラナケートゥが淀みなく説明をした。
「うむ。ラナケートゥ殿の言うとおりじゃ。たしかにアテナもそのように証言しておる。」
ゼウスが認める。
「はて……? そのアテナ殿は見当たりませんが?」
巨人王ウトガルティロキがアテナ不在に気づき、辺りを見回した。
「あ……。ああ。アテナは今日は体調不良でのぉ……。」
「そ……、そうですわ。ねえ? ヘルメス。」
「え……。ええ。もうしかたがないなぁ。アテナ様は……。なあ? ハデス。」
「あ? ええ。アテナ様はこのような些事に囚われぬ御方ですので。」
ハデスはそうこともなげに言った。
「ほお? この世界の国々の集まり、『七雄国サミット』が些事と……?」
『地底国』のラー王の後ろに立っていたセトがハデスをキッと睨みつけた。
「はい。いたって結論は簡単ではありませんか? 『エルフ国』の国としての侵攻であれば、どうして『エルフ国』の支配域である『ミトラ砦』を破壊しなければいけないのです?」
ハデスはさも当然のことと言う顔で言った。
「ぬぅ……。」
「それはハデス大臣の言うとおりだな。セトよ。オシリス。お主はどう考える?」
「そうですな。『法国』としては『エルフ国』に国家としての罪はない……とお考えのようですかな?」
『地底国』のラー王とオシリスも今までの話から『法国』の見解を理解したようだ。
「少なくとも……。『法』に背いた侵略行為としての禁呪使用とは捉えていませんわ。」
ゼウスの後ろに座っていた『法国』の法務大臣テミスが力強く発言をした。
「だが……。裏で手を引いていた輩どもがいる……ということではあるな?」
ハスターが今一度、圧倒的な威圧感で述べた。
「……ですね。吸血鬼が暗躍していたことは間違いないでしょうね。」
ここはヘルメスも認めるところではある。
「そうじゃ。そうじゃ。かの『不死国』の吸血鬼どもがまたぞろ悪さを仕掛けてきたのだっ!」
ここはタイオワ長老も強く肯定してきた。
「ふむふむ。なるほど。少し意見が出てきたところではありますね。少し、休憩いたしましょうか?」
司会のフォルセティがここまでじっと静観してきたが、発言をする。
「だよねー。うーんと、一応、まとめると、魔力爆発は『エルフ国』の意思はどうあれ、『エルフ』の種族のサタン・クロースの犯行ということは明白だね? そして、その行動には『不死国』の吸血鬼が関わっている……と。」
ロキも続いて発言する。
「まあ、そのようですな。」
ゼウスも同意した。
周囲の一同もみんな、頷いている。
一同はいったん議論を中断し、目の前の焼き菓子バクラヴァを食べたり、ネクタールを飲んだりする。
すると、そこへ、例の『セーフリームニル』を使った『皇国』の幻の宮廷料理『シシナベ』が運ばれてきたのだ。
鍋を開けると、ふわぁ……っと、美味しそうな匂いが部屋に充満する。
「おいおいおいっ! こりゃたまらないにゃ!」
「ニャルよ。また、にゃ言葉が出ておるぞ?」
「しかしにゃ! これは美味すぎて……、魔界のどんな殺戮者よりも、上手く料理したまさに舌下の破壊者にゃ!」
「はぁ……。貴様、いったいこの会議に何しに来たのだ……。」
ハスターは料理にむさぼりつくニャルラトホテプを見て、深い溜め息をつくのであったー。
~続く~
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