七雄国サミット
第141話 七雄国サミット『魔導列車』
魔導列車『シルバーピレン』がオリュンポス山を登っていく。
遠くから見ると、螺旋状に上空に登って行くように見えていることだろう。
しかし、乗客たちからはきれいな美しい山を登る山岳鉄道のようなものなのだ。
車掌のフェリーマンが動力炉の前で、炉の魔鉱石に向かって呪文を唱えている。
『お山の中行(ゆ)く、汽車ぽっぽ ぽっぽ ぽっぽ 黒い煙(けむ)を出し、しゅしゅしゅしゅ 白い湯気ふいて、機関車と機関車が、前引き 後(あと)押し、なんだ坂 こんな坂、なんだ坂 こんな坂、トンネル鉄橋 ぽっぽ ぽっぽ、トンネル鉄橋 しゅしゅしゅしゅ、トンネル鉄橋 トンネル鉄橋、トンネル トンネル、トン トン トンと のぼり行く~!』
『シルバーピレン』が轟々と音を立てて進んでいく。
1号車に座するは『エルフ国』のタイオワ長老とその護衛の双子の戦士たち、それにオベロン都市警備隊長とその妻ティターニアも同席している。
2号車は『北部帝国』のブラフマー皇帝とその妻サラスヴァティー、その子ナーラダ。それにお付きのサヴィトリ。
3号車は『南部幕府』のヴァイローチャナ将軍とラナケートゥ、それに護衛のアチャラナータ不動明王、御庭番衆のプラジュニャーである。
続いて4号車は、『巨人国』のウトガルティロキ巨人王に、護衛のアトラス、ブロッケン。
5号車は、『龍国』のアヌ龍王に、魔学者エンキにその息子マルドゥク、首相エンリルの息子ナンナ。その他は護衛の『龍国警備隊』のゾフィエル、ホクテル、ミナメルの三龍だ。
6号車には、『地底国』のラー王に、守護者セト、裁判長オシリスが同行している。船頭ケプリは留守番のようだ。
そして最後尾の7号車は『海王国』の一団、邪悪の皇太子ことハスターと、暗黒のファラオことニャルラトホテプが座していた。
もっとも、ニャルラトホテプは本体ではなく精神を乗っ取った闇のデーモンであったが……。
さて、3号車ではー。
「それにしてもあのブラフマー皇帝陛下がすんなりと我が幕府の支配権を認めていただけるとはな……。少し拍子抜けしたぞ?」
「ほんに上様の申すとおりであったな。腕がなまってしまいますわ。」
アチャラナータがその武威を示すことができなかったのが、さも残念な様子で頷く。
「そうですねぇ……。おそらくは……、皇帝陛下としても、我ら『幕府』が今後、『火竜連邦』方面か『エルフ国』方面に侵攻することを暗に求めていらっしゃるのではないかと思われますね。」
「ほお? ラナケートゥよ。陛下のあのにこやかなる様子は仮面をつけてらっしゃると?」
「いえいえ。そこまでは申しませんが……。かの『帝国』のシヴァ大元帥がおられますからねぇ……。」
「ふむ。なるほど。ラナケートゥ閣下の仰せのとおりかも知れませんな。」
プラジュニャーがそれに賛同する。
「まあよいではないか? もし、『帝国』の意思が『火竜連邦』や『エルフ国』との戦争ならば、余もその意は同じくしておるのだからな……。」
「たしかに……。上様の仰せのとおりである。」
「御意。」
「おお! それよりも、この魔導列車の窓の外の景色をご覧あれ! げに美しき外界の眺望ぞ?」
ラナケートゥがみなに外の景色を見るように言ったのは無理もない。
オリュンポス山への標高の高い山岳地域をさっそうと走る魔導列車からの車窓風景がなんとも壮大で美しかったからだ。
これにはヴァイローチャナも今しばらくのときは世の中の雑事を忘れ、ただただその眺望に見入るのであった。
4号車ではー。
「ウトガルティロキ王よ。こたびは某(それがし)を護衛役で連れていただき、誠に感謝の言葉もありません。」
「うむ。よい。貴様は先の大戦での罪をもはや清算したのだ。残してきた娘にも会いたかろうて。」
「は! ありがたきお言葉!」
「それにしても……。この『天球神殿』に至る道の美しきことや否や。古より同じ天球と呼びしものを支えておったお主の目にはいかがに映りしや?」
「ははぁ……。王よ。こんな名ばかりの天球など……。かつての真なる『天球』に比べれば、雑草の茂った薄汚れし山の一つにしか見えませぬな。」
「ふぁっはっはっは! アトラスよ。面白い! やはり真の天球には及ばぬか?」
「御意。」
「フム……。解放サレシモノ、アトラスヨ。我ガ王ノ慈悲ヲ感謝シ、コレカラモ忠義ヲ尽クスノダゾ……?」
影の巨人ブロッケンがボソリとつぶやいたのだった。
7号車ではー。
「ニャルラトホテプ……。おまえはこの美しい景色をちっとは堪能したらどうなんだ?」
一心不乱に魔導列車『シルバーピレン』名物のアテナの聖なるオリーブの樹を使った『ホリアティキ・サラダ(田舎風のサラダ)』をむしゃむしゃ食べているニャルラトホテプに、ハスターが声をかけた。
この田舎風のサラダという意味を持つ『ホリアティキ・サラダ』は、オリーブの実やキラートマトの禁断の果実、悪魔の闇つきキュウリ、アスラウグのタマネギなどさまざまな野菜が入っており、パーン山羊乳のチーズが1切れ、載せられている。
『法国』、それも『オリュンポス山』ならではの料理だ。
「野菜を食べ終わった後に、残ったオリーブオイルにパンを付けて食べるのも美味しいな。これは……。」
ニャルラトホテプはハスターの言葉にも、脇目も振らずに食べている。
「はぁ……。これで『海王国』の外交代表とは呆れ返るわ。」
すると、そこへ鉄道乗務員が入ってきた。
アンデッドぽっぽやと呼ばれる永遠にこの魔導列車に務めている鉄道乗務員たちである。
「あれ……? 1、2……。『海王国』の乗客は3名と伺っておりましたが?」
アンデッドぽっぽやが聞く。
たしかに、ハスターとニャルラトホテプこと闇のデーモンの2名しか姿が見えない。
「ああ。名もなき霧よ。姿を現せ。」
ハスターが声をかけると、彼の周りを取り囲んでいた霧がまとまり出して集合して人の影になった。
「は! 失礼しました。私めはマグヌム・インノミナンドゥムと申します。よろしく。」
霧が答えた。
「へぇ……。姿を現すのか……。姉上……。」
「あら? ニャル。気がついてなかったの?」
「いや。いないものとして扱えってことかと……。」
「まあ? 姉に向かってなんという態度?」
「知らんがな。」
それを見ていたアンデッドぽっぽやは、納得したように言った。
「はい。3名ですね。」
立ち去っていく鉄道乗務員。
その出ていった扉のほうに向かって、ハスターが言った。
「乗車の際に、よくマグヌムがいるってわかったものだな……。」
ニャルラトホテプが言葉を返す。
「んん? そりゃ3名分のコインを渡したからじゃあないのか?」
「あら? ニャル。あなたの後ろに誰かいなかったっけ?」
「え? 姉上。そんなヤツはいませんでしたよ?」
「あらそう? あなたと同じ暗黒の顔をした闇のデーモンがもうひとりいなかったっけ?」
マグヌムが疑問を口にする。
「本当ですか? いや、見ませんでしたがねぇ……。」
ニャルラトホテプは返事をする。
「そっか……。じゃあ、勘違いかしら?」
「うむ。余も3名分しかコインを渡さなかったのだ。もう1名いたら4名になってしまうではないか?」
「そうですよぉ。姉上も目が悪くなったんじゃあないですか?」
「うう……。ニャル。気にしてることを言わないの!」
「はいはい。」
「見間違いだったかなぁ……。」
「ええ。そうでしょうねぇ……。」
ニャルラトホテプの表情は暗黒に歪んだ笑みを浮かべていたのであったー。
~続く~
©「汽車ポッポ」(曲:本居長世/詞:本居長世)
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