ありふれた日常 第5話『格言』


 黙示録の最終戦争は実際に起きてしまった……そして、人類は一度滅亡した。


 だが、もう一度世界は創生され、新しい魔法文明が栄えた世界となっていた。


 ところが、そんな中、冷凍睡眠されていたジンはなんと蘇生されてしまったのだ。



 引き取ったサタン・クロースの娘、ズッキーニャの教育担当はモルジアナだ。


 今日も『霧越楼閣』の一室でお勉強に励むズッキーニャの姿があった。





 「さて……。格言について今日はお勉強しましょうね?」


 「はぁーい! モルジアナ先生!」


 「んんー。いいお返事ですね。じゃあ、昨日の復習をしましょう。」


 「ええ……。『血の復讐』?」


 「その『復讐』じゃあありませんよ? 予習復習の『復習』です。」



 授業を見学に来ていたジュニアくんが『血の復讐』と聞いて、なんだか申し訳無さそうにしている。


 そりゃそうか。ジュニアくんの『血の復讐』の相手はズッキーニャのお父さんだったもんね……。





 「では、『魔神に魔剣』はどういう意味ですか?」


 「ええー……。うーん……。」



 魔神に魔剣か……。たしか鬼に金棒的な意味だったっけ?



 「こわいお姉さんに強力な武器を持たせたら最強?」


 「正解です!」



 正解なのか……。




 「はいはーい! 僕も知ってるよ! 『スライムでも見るかのような目』って言うよね?」


 おお。ジュニアくんが勢い込んで手を挙げて言った。



 「あら? ジュニア様。よく知ってましたね。何という意味かわかりますか? ズッキーニャ。」


 「え? うー……ん。あ! アイ様がデモ子ちゃんを見る時の目……みたいな?」


 「正解!」



 「ハック……シャァアアアアアアアーーーッ……!」



 どこかで大きなくしゃみの声がした。




 「そうですよー。アイ様にそんな目で見られたら……。」


 「見られたら?」


 「もう『心臓を魔神掴み』にされたようなものですよ?」


 「それは……。あ! 超こわいってこと?」


 「正解です!」



 すると、いつのまにか入ってきていたヒルコがのほほんとした調子で言う。


 「でもさー、僕ってスライムみたいなものだけど、アイ様が僕を見る目は超やさしいよー?」




 「その通りです! ワタクシはいつも保護対象には優しい目で見ていますので!(キリッ)」


 おっと、いつの間にかアイも来ていたのか。


 まあ、アイは優しいよな。普段は……。



 「まあ!? マスター! それはもうそのとおりですわ!!」


 「お……おぅ……。」


 アイがなんだか嬉しそうだ。




 「こほん……。授業を再開しますね?」


 モルジアナが咳払いをして、話をもとに戻す。



 「他にも『生ける影・アドゥムブラリでさえ漏れ逃さない』とか、『急いては龍を討ち漏らす』とか、『ウロボロスの蛇の絡み合い』などありますね。」


 「はぁーい。」


 ズッキーニャが元気よく返事をする。


 後ろで黙って聞いているサタン・レイスがうんうんとうなずいている。


 「よきかな。よきかな。」






 うーん。オレのいた世界のことわざに変換すると……。


 なんだ?


 (マスター。水も漏らさぬ……、急いては事を仕損じる、あとのひとつは複雑な物事の絡み合いと言った意味かと推測されます。)


 (なるほどなぁ……。)




 「あー! そういえば、僕も格言、知ってるよ?」


 ヒルコがまた手(?)を挙げた。




 「へぇ。ヒルコも何か学んだのかい?」


 オレは率直に興味が湧いた。


 この世界に来て何か学んだと言うなら、ヒルコはすごいな。




 「おまえは今まで食ったパンの枚数をおぼえているのか?」


 ヒルコが誇らしげに答えた。


 いや、質問をしたのか?



 「え……っと、それ、どこの格言でしょうか?」


 モルジアナが知らないことを申し訳無さそうに聞いてきた。




 いや……。モルジアナ。知らなくて当然なんだよ。


 恥じる必要はないよ。



 すると、ヒルコが待ってましたと言わんばかりにさらに言った。


 「質問を質問で返すなぁーっ!! 」




 「わわ……。申し訳ありませんっ!」


 モルジアナが謝る。



 「あれ? モルジアナ。これも知らないのー?」


 ヒルコが逆に申し訳無さそうに、しょんぼりした。



 「え……ええ。でも、ヒルコ様が私に新しい格言を教えてくださろうとしていることは、『言葉』でなく『心』で理解できましたわ。」



 え……?


 モルジアナ、まさか……。




 「モルジアナ! すごいすごい!」


 「モルジアナ。あなたは侮れないわね? さすがですね。」


 「いやぁ……。マジでその言葉が出るなんて!? モルジアナ。すごすぎないか?」



 「え……。ええ……。なんだかわかりませんが、ありがとうございます!」


 モルジアナは何がなんだかわからない様子だが、何かを成し遂げたような爽やかな表情をしていた。




 「モルジアナ先生。すごい。わたしも早く賢くなりたい!」


 ズッキーニャも何かを学んだようだ。



 いいんだよ。ズッキーニャ。ゆっくり学ぶといい。


 そう、徐々に学べばいいんだよ。ジョジョにね……。





~続く~



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