第142話 七雄国サミット『天球神殿』


 『天球神殿』、それはとてつもなく荘厳で気高き神殿だ。


 その向こうには微かに雪を残した巨大な山頂が見える。


 手前の橋から下を覗くと深い渓谷……。




 『天球神殿駅』で、魔導列車を降りて、各国代表団たちが降りる。


 みんなが神殿のほうを見ると、誰かが歩いてやってくるのが見えた。


 若くて美しい女性だが、その腕は異様に毛深い。





 「みなさま。ようこそ『天球神殿』へ。私はカリストと申します。」


 その女性カリストがみんなに名乗った。



 「おお。カリスト女史。先日ぶりじゃの。」


 エルフの長老タイオワが声をかけた。


 先日、タイオワの元へカリストとエウロパが調査に来ていたので、そのことを言っているのだろう。




 「ええ。タイオワ長老。先日はありがとうございました。では、みなさま。こちらへどうぞ。」


 カリストが先導して『天球神殿』にみなが移動する。


 神殿の本殿へと至る道を覆いつくすように咲くジギタリスの花が美しすぎて幻想的な景色を生み出している。


 ジギタリスは和名を『キツネノテブクロ』と言い、藤の花に似ている。


 ゼウスが、妻ヘラと夫婦喧嘩をしたときに怒って投げたサイコロが地上に落ちてジギタリスの花が生えたと言われている。




 「おお。いつも美しいのぉ。」


 「ほんに……。綺麗ですねぇ。」


 ブラフマーとサラスヴァティが景観に感動している。




 「ふわぁ……。綺麗だねぇ。」


 「ほぉ……? おまえも景色に感動するんだな……。」


 「当たり前だ。俺を何だと思ってるんだ?」


 「おまえは『花よりダンジョンで弁当』のタイプかと思ってたのでな。」


 「にゃーんだと!? にゃ……俺にも美を愛でる心はあるのだ!」



 ニャルラトホテプとハスターも道すがら揉めてはいたが、その景色の優美さには圧倒されていたようだ。


 マグヌムは元の霧の姿に戻っている。




 「この景観を見られるだけでもはるばる『法国』までやってきた甲斐もあるというもの。のぉ? オシリスよ。」


 「まさにそれですな。ラー陛下。」


 「ふん。俺の『ニアンククヌムとクヌムヘテプの墳墓』のレタス畑の美しさのほうが勝ってるな。」


 「セトは相変わらず負けず嫌いよの。」



 地底にいつもいる『地底国』の者たちもなんだかんだ景観に見とれているようだった。




 「上様。げに美しきこの眺め、誠に良きものですなぁ。」


 「うむ。ラナケートゥよ。我が『穢土(えど)の街』にも庭園のようなものが欲しいものではあるな。」


 「恐れながら、上様。そのような戦に役に立たぬものは我ら『幕府』には不要かと。」


 「うむ。アチャラナータよ。おまえは真面目だのぉ……。」



 大日将軍率いる『南部・幕府』の面々も『法国』の神殿の荘厳さに心打たれるものがあるとみえる。


 穢土の街も壮大ではあるが、機能的なのだ。




 「マルドゥクよ。我が天空の城とも決して見劣りせぬであろう?」


 「たしかに。父上。『法国』の魔学力がこれほどとは……。」


 「うむ。マルドゥクもナンナも学ぶところが大きかろうて。」


 「は! アヌ龍王陛下。その御心、ありがたき幸せでございます。」


 「まさに、ナンナの言う通り。私も精進致します。」



 どうやら、『龍国』はこの機会に次世代の勉強に、マルドゥクとナンナを連れてきたようです。


 だが、謙遜してはいるが、エンキは魔学者の中でもトップクラスの者であり、十分に本国でその知恵を活用した城を築いているのであろうことは十分うかがえた。






 「ほうほう。これは美しい庭ですな。王よ。」


 「ああ。『法国』の権威、いまだ衰えず……といったところか……。」


 「……。」



 巨人たちが続いて、『天球神殿』に入っていく。




 『天球神殿』は見上げんばかりの白く輝く壮大なる美しさの神殿で、神殿の白く輝く大理石は、神殿の壁の外のジギタリスの花の道からでも輝いて見えた。


 建物のスケールは印象深く景観を支配するように設計されており、執政院の宮殿近くにある3つの大きな塔でさえ、比較的小さく見えた。


 各国の代表団たちが最初に行ったことは、神殿の丘の南側にある正門に向かうことであった。




 神殿には10の入り口があり、南に4つ、北に4つ、東に1つと、美しい庭園から執政院内閣府の庭までを東西に導くニカノール門と名付けられた入口があった。その門は、西から東へと向かう南側にはフュエル門、初めの門、水門があり、東から西へと向かう北側にはエホヤキンの門、オファリング門、女性の門、歌の門があった。東側にはニカノール門があり、大部分の来訪者はニカノール門を通って神殿に入ることになる。


 この執政院領域内には、全ての者の入場が許可された美しい庭園があった。身分の上下でさえ関係なく、様々な任務を果たすために入ることができた。


 また、オリュンポス山の住民のための床屋のみならず、観光客のための場所もあった。神殿の最大の庭では、恒常的に歌や踊りや音楽を見聞きすることができた。


 執政院内閣府には、内閣に属するものしか入ることが許されなかった。聖職者の庭における儀式は、ここから見る事ができた。






 また、神殿聖域があり、その入り口からベールをかけられた至聖所の間には、燭台、香を焚く祭壇および様々な道具のような器具が置かれていた。


 オリュンポスの高山に住んでいる『法国』の超英雄族は、この山頂の宮殿にて、絶えることのない饗宴で日々を過ごしているのだ。




 『法国』の執政院内閣府は、以下の構成になっている。



 『法国』の執政大統領であり、アテナの父でもあるゼウス・オリュンポスその人。


 文部魔法大臣でゼウスの元奥方、メティス・オーケアニデス。




 法務大臣であり、正義を司るゼウスの二番目の妻のテミス・ユースティティア。


 防衛大臣でゼウスとメティスの娘、気高き女性戦士パラス・アテナ。


 国土交通大臣かつ各国の商業ギルドの統括でもあるヘルメス・トリスメギストス。



 官房長官はゼウスの正妻ヘラ・ガメイラ・ズュギア。


 軍務大臣であり、ゼウスとヘラの子供で、戦いを司る兜を着用した精悍な男アレス・ウォール・カタストロフィアス。


 総務大臣は、慎み深く愛に溢れたヘスティア・ウェスタ。




 経済産業大臣は、ゼウスとヘラの子ヘパイストス・ヴァルカン。


 水産大臣兼海軍元帥のポセイドン・エナリオス。


 美容大臣で最も美しいと讃えられたアフロディテ・ウーラニア。



 厚生大臣でゼウスと黒衣の女神レトの子で月の女神アルテミスの双子の兄、太陽のフォイボス・アポロン。


 森や自然の守り手、環境大臣アルテミス・カリステー。


 労働大臣は、ゼウスとテーバイの王女セメレの間に生まれた子、『法国』のブドウ酒の醸造を一手に引き受けているデュオニュソス・バッコス。


 全ての作物を司る農林大臣デメテル・テスモポリス。


 地下に眠った金銀を始めとする鉱物や宝石などを司っている財務大臣ハデス・プルートーン。




 執政大統領ゼウスと14名の選ばれた大臣たちと官房長官で構成される執政院。


 今回の『七雄国サミット』に参加するべき大臣は、防衛大臣、軍務大臣、総務大臣、法務大臣、経済産業大臣、そして官房長官だ。



 だが、この会議の席に、防衛大臣アテナの姿はなかった。




 「くぅ……。アテナちゃぁーん。本当に参っちゃうわ。」


 「ゼウス様。あ、いや、大統領閣下。姉上……、いや、アテナ様から代理にと推薦された者がおりますが、いかがいたしますか?」


 ヘルメスがゼウスに問いかけた。




 「ええ? 代理? いったい誰だよ?」


 「はい。ハデス・プルートン財務大臣です。」


 「なんじゃとぉ……? ハデスのヤツめか。クリュメノス(名高き者)、エウブーレウス(よき忠告者)とも呼ばれておるからのぉ。アテナめ。人選だけは間違いないの。」


 「はい。では、ハデス様も同席をお認めになるということでよろしいか?」


 「うむ。仕方あるまいて。」




~続く~



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