第124話 吸血鬼の陰謀『ヴァン・パイアの真祖王』


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 巨大な火山、死の火山のすそ野に広がる火山性の大地に『不死国・ラグナグ王国』が存在する。


 その『不死国』の首都である『死者をよみがえらす都・グラブドブドリブ』のほぼ中央にそびえ立つ『悪魔城』。


 城の王の間に、この国の支配者である吸血鬼の真祖ヴァン・パイア・シンが座していた。




 王座の前に、下半身が大蛇という姿の美しい女性がいる。



 「ラミアー女王よ。この国では吸血行為は合法である。遠慮なく過ごすが良いぞ?」


 「これはありがたき幸せ。よくぞ私めの亡命を受け入れてくれました。真祖の王には感謝の言葉もございません。」


 「ふむ。しかし『法国』のゼウスも器量が狭いよの。よほど恐妻家なのか。」


 「はい。そのことはもう忘れたく存じます。」


 「それがいい。ここには美男子もたくさんいるであろう? 自由にするが良い!」




 ラミアーは周囲を見回してまた王の方へ向き直した。



 「それにして真祖様? 『悪魔城』は昼でもこんなに暗いのですね? やはり太陽の光は苦手でございますか?」


 「はっはっは! 吸血鬼と言っても伝承のように太陽の光で灰になってしまうからではない。ただ、余の一族は夜行性であり、夜目が異常に発達しているため、昼間の光がまぶしい……ただそれだけなのだ。」


 「そうなんですの……。てっきり、吸血鬼の種族は太陽に弱いと噂されておりますれば、それはまことかと……。」




 すると、シン王のそばに立っていた男が声を上げた。


 「くだらん! かの伝説の書、ブラム・ストーカーの『吸血鬼ドラキュラ』で、ドラキュラ伯爵が夕日を見つめるシーンがあったそうだ。つまり旧世界のトゥルーヴァンパイア『吸血鬼ドラキュラ』の時代でも太陽光が致命傷を与えるという特徴はなかったのだ。あれは我が一族を貶めるために歪められたデマだ。実際、吸血鬼が陽の光で灰になってしまうのであれば、吸血した人間を下僕とした時、その下僕が昼に活動できなくなってしまうではないか。」


 「おお。現ドラキュラ伯爵家当主、ヴラド・ツェペシュ・ドラキュラ公。そんなに怒るでない。ラミアー女王もそんなことは重々承知しておろう……。」


 「ですね。私めも他人の子を捕らえて殺しただけで、魔族だの吸血鬼だのとあらぬ噂を立てられましたわ。」




 「馬鹿馬鹿しいな! たかが他人を殺したくらいで騒ぐことか! それなら我らは生きて行けぬではないか?」


 ヴラド・ツェペシュ・ドラキュラ伯爵は牙をむき出しにして怒りを顕にした。



 「まあ、そう猛るな。父君の龍人・悪魔公ヴラド龍公がまた心配して様子を見に来るぞ?」


 「これは陛下の御前で取り乱しました。申し訳ございません。」


 「まあ、ドラキュラの名を継ぐものとしての気概は買うがな。」


 「は! ありがたき幸せにございます!」




 「では、私めはこれで失礼させていただきます。」


 「うむ。また顔を見せに来るが良いぞ? カーミラ嬢! ラミアー女王の街案内を頼んだぞ!?」


 「かしこまりました。では、ラミアー女王。参りましょうか。」


 傍に控えていた、美貌ではあるものの非常に虚弱で、その顔色は常に青白いそのカーミラと呼ばれた女性が返事をする。



 「よろしく頼むわね。」


 ラミアーは、カーミラに付き従い、王の間から退室した。




 「ところで、ドラキュラ伯爵公よ。例の侵攻作戦はいかがしている?」


 「は! エリザベート伯爵夫人がジル・ド・レ元帥と、青ひげ男爵に『エルフ国』の都市をひそかに牛耳るように作戦を展開させてはいますが……。」


 「エリザベートはいずこに?」


 「すでに『エルフ国』に潜入しております。」


 「ふむ。順調……というわけか。我が国は今や食糧危機である。世界各国から寿命を終えた不死人間ストラルドブラグたちが追放されてやってくる。余は移民を無制限に受け入れてきたが、食糧が不足しておる。『エルフ国』の潤沢な森林資源は、我が国にとって確信的利益である。」


 「御意。」





 ****



 『エルフ国』の都市、『チチェン・イッツァ』のほぼ中心地に『カスティーヨ』と呼ばれるククルカンの神殿があり、この街の統治者ククルカン・クグマッツが住んでいる。


 オレが『チチェン・イッツァ』と言えば……で、思い出した知識のまんまその通りなんだもんなぁ。


 逆にびっくりだわ。




 それでそのククルカンの神殿の向こうに『戦士の神殿』や『千本柱の間』があり、そこを通り過ぎた向こうに市場がある。


 情報屋もそこにあるようだ。


 サルワタリが戻ってくるのが見える。




 「おーい! ジンの旦那ぁ! こっちや! 『ヤプー』の者を見つけましたで!」


 「ほぉ。どこにいるんだい?」


 「シュトロク・セノーテという泉の近くの家にいるらしい。」


 「じゃあ、そこへ行こうか。」




 街を行き交う人々は魚系の妖精種族が多く、彼らはチャルチウィトリクエの魚たちと呼ばれている。


 はるか遠い昔、チャルチウィトリクエが統治していた時代にいた人々が魚に変えられたという伝説で、そこからルーツを持つ種族のようだ。


 あとはジャガーの姿をした者も多い。こちらはテオティワカンにもいたので、もう慣れたけど。




 小さな泉、シュトロク・セノーテを越え、森林地区の中に一軒家が見えた。



 「ほら! あそこでっせ。」


 サルワタリがその一軒家を指差した。看板に『マヤハウス』と書かれていた。




 すると、ちょうどその家から一人の赤いドレスを着た美しい女が出てきた。



 「お待ちしておりましたよ。ジンさん……。はじめまして。私はサルガタナス。『ヤプー』の諜報部員ですわ。サルワタリもごぶさたね?」


 「あいかわらず、同じヤプー種族とは思われへんべっぴんさんやな。……ジンの旦那。このサルガタナスはんは、世界中を飛び回って情報を集めてくる『ヤプー』でトップクラスの諜報部員なんやで。」


 「へぇー。そんなすごいヒトなのかぁ。」



 サルガタナスさんか……。サルワタリに、サルトビ、またサルがつく名前かぁ。まあ、宝石類のアクセサリーをいっぱい身につけているところは『ヤプー』っぽいと言えばそうかもしれないけど、こんな美人だなんて外見からはまったくわからないな。


 ピシ……。



 ん? なにか空気が変わった?




 「マスター? それよりも、聞くことを聞きましょう。」


 「あ、そうだった! サルガタナスさん。オレたちは『爆裂コショウ』の群生地を探しているんだ。その場所を知りたい。」


 「あー、そっちなのね? てっきり『不死国』の情報かと思ったわ。まあ、とりあえず、私の家にどうぞお入りなさいませ。」




 オレたちはサルガタナスさんの家『マヤハウス』に入らせてもらった。


 どうやらこの街の住民の平均的な家になっていて、常に留守がちなサルガタナスさんの隠れ宿的な場所でもあるらしい。


 中に緑色の服を着た狩人の姿の女性がいた。



 「あ! サルガタナス様! えっと、この方たちは?」


 「ジンさんとそのお仲間の方、こっちは『ヤプー』のサルワタリよ。……ジンさん! この娘はゾレイ・レラージェ。私の侍従の者ですわ。」


 「これはこれは。ジン様。ゾレイ・レラージェと言います。よろしくおねがいします!」


 「あ、いえ。こちらこそ。ジンです。よろしくね。」




 「……で、『爆裂コショウ』の群生地だったわね? たしかに知っているわ。この街のトキイロコンドル様の支配域で栽培されているわ。」


 「トキイロコンドル様か……。そのヒトはどこにいるかわかるかい?」


 「まあね。『エル・カラコル』という天文台に彼はいるわ。」




 はい。キターーーー! チチェン・イッツァのエル・カラコル、有名なヤツーー!


 オレのいた世界、旧世界で遺跡になっていて神話の世界の遺物は、逆にこの再生された世界では現役だという……。


 なんだか不思議なもんだな。





~続く~



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