吸血鬼の陰謀
第123話 吸血鬼の陰謀『チチェン・イッツァ到着』
『テオティワカン砦』から『チチェン・イッツァ』の街までは約700ラケシスマイル(約1100km)の距離にある。
うっそうと茂った森の中を進むのだ。平坦な道を行くよりもさらに時間がかかる……はずだったが……。
なぜか、地平線の向こうまで、いや森平線の向こうまで森林の大木が取り除かれ、進むべき道がまっすぐに見えている。
「さすがはワタクシの愛しのマスターでございます。これも考えてのあの技、『グランド・クロス』でございましたのね?」
「そうなんでっか!? これも見越しておりなはったんやったとは……。ジンの旦那はどこまで計算されておるんや!?」
「ジン様はどこまでも考えているのであるゾ!」
「ジン様はすっごく考えているのだー!」
「わしもこんなに走りやすい道なら、全速力で行けますぜ!」
……そうなんだ。スタンピードの時にオレが張り切って放った技のせいで、地平線の向こうまでは道ができていたっていうわけだ。
それもなぜか計算ずくだと思われたらしい。
ま、いいか。
「ところで、『チチェン・イッツァ』はどんな街なんだい?」
「げひひ。そやなぁ。エルフのネオマヤ種族の街で、ククルカン・クグマッツっておヒトが統治してるんや。ネオマヤ種族で絶大なる権力を持ってるさかい、気きつけなはれや。」
「ククルカン……さんかぁ……。」
やはり『チチェン・イッツァ』といえば、マヤの最高神ククルカンを祀るピラミッド『カスティーヨ』が有名だったもんなぁ。
『カスティーヨ』はスペイン語で城塞の意味だ。ククルカンのピラミッド、『ククルカンの神殿』とも呼ばれる。
北面の階段の最下段にククルカンの頭部の彫刻があり、春分の日・秋分の日に太陽が沈む時、ピラミッドは真西から照らされ階段の西側にククルカンの胴体(蛇が身をくねらせた姿)が現れ、ククルカンの降臨と呼ばれているのは有名な話だ。
チチェン・イッツァとは、マヤ語で「チチェン=泉のほとり」と「イッツァ=人」という意味なんだ。ユカタン半島に多く点在するセノーテ(聖なる泉)を中心にして都市が繁栄したことから、そのように呼ばれていたようだ。
しかし、この世界は神話と旧世界が入り混じったものになっているようだな。
何者かの意思が働いているのか?
もし、そうだとしたら、いったい誰なんだ?
それにしても、魔物の気配が全然しなくなったな。
(マスター。やはり昨日のスタンピードのせいで魔物は一気に離散したものと推測されます。主な魔物は昨日の戦いで掃除ができたのでしょう。)
(そうか。しかし油断は禁物だぞ?)
(ご安心ください。すでにこの先の『チチェン・イッツァ』までの道は索敵済みでございます。)
(さすがはアイだ。たよりになるな。ありがとな。)
(きゅうぅううん!!)
(どうした?)
(いえ……。なんでもございません。)
(そっか。)
日が暮れないうちにオレたちは『チチェン・イッツァ』に着くことができた。
さすがに途中で道は途切れ、森林に差し掛かったが、ムカデ爺やはするすると樹々を抜けて進んだので、特に問題はなかった。
しかも、森林の樹々は徐々に回復し、オレの技で吹き飛ばした部分をすでに覆い隠さんとばかりに伸びてきていたのだ。
セイバの木と呼ばれている森林の樹々はすぐに再生する特殊な樹木らしい。
『チチェン・イッツァ』は総面積960エイカらしいので、えっと、1トキオドム=12エイカだから、80トキオドムで東京ドーム80個分……ってどのくらいの広さだ?
(イエス! マスター! 1東京ドームが46755平方メートルでございますので、3740400平方メートル=約3.7平方kmですね。)
(つまり……?)
(1.92km四方の正方形と同じ面積でございます。)
(な……なるほど。)
そうなんだよなぁ。東京ドーム何個分です……とか言われても、2,3個分ならまだしも、80個分とか言われても、よけいにわかんないよな。
「しかし、『チチェン・イッツァ』の外壁が、壊れてまんなぁ……。」
「スタンピードの影響かもしれないな。」
「マスター! あそこが門のようです。」
「出入り口の門の近くにレストランがあるね。」
「あー、あれはこの街で一番のレストラン『オックストン』やで。」
「へー。有名なの?」
「そりゃ、もう。世界中から来た観光客はここで一度は食べな損するっちゅうもんやで?」
「人気の店なんだね。オレたちも後で行ってみよう……って言いたいところだけど。『爆裂コショウ』の情報を聞かないといけないからなぁ……。」
「サルワタリ! あなたは情報屋で案内人じゃあないんですか? マスターは情報をお求めなんですよ? ほら! さっさと情報を掴んできなさい! ……その間、ワタクシたちはここで休憩がてら食事に致しますゆえ(キリッ!)」
そう言ってアイがサルワタリにまるでスライムでも見るかのような目で睨みつけた。
「ええ……。そんな殺生な……。わてもご相伴に預からせてほしいねんけど……。」
たしかに、アイの言うことももっともだけど、着いたばっかりでサルワタリ一人に仕事を押し付けるのもなぁ。
あれ? ここには情報屋はないんだろうか?
「サルワタリ! ここの街に『ヤプー』は出店してきてないの?」
「小さな店はもちろんありまんのやけど……。この街は情報屋『ガーゴイル』が勢力大きいねん。」
「なるほど……。だから、『爆裂コショウ』の群生地をサルワタリも知らないんだね。」
「こら、かなんなあ。ジンの旦那。まあええ。ご飯は後でありつかせてもらうさかい……。ちょっくら情報集めに行って来まっさ!」
「おお! 悪いな。サルワタリ。」
「まあ、仕事やからな、しゃーないってもんですわ。」
そう言ってサルワタリは街の通りに消えていった。
オレたちはとりあえず、レストラン『オックストン』に入ることにした。
このレストランは、とても良心的なお値段で、タコスやトルティーヤなどが主なメニューだった。
なんだか頭にものすごい髪飾りをたくさんつけた女性がやってきた。
「いらっしゃいねー。アミーゴ! ワターシはこのレストランのオーナー、神Eと言いマース! ご注文は?」
「あ、お店の人だったのね。なにかオススメはありますか?」
「そうネェ……。ライムスープのソパデリマと、キワのフライにココヤシの牛鬼クリームソースや、小さなキワのグリルパイナップルに盛り付け、それにもちろんタコスもオススメよ!」
「じゃあ、おまかせでお願いします!」
「はーい。ご注文、ありがとうございます!」
キワ料理2種を注文したんだけど、このキワというのはエビやカニに近いな。
大きなキワフライはココヤシの牛鬼クリームソース、これは甘すぎたがおいしかった。
小さなキワのグリルパイナップルに盛り付けは逆に辛かったけど美味しい。
盛り付けられた3種類のタコスはどれも最高だった。
カルニータス(オーク肉の蒸し煮)のタコス、カルネ・アサーダ(牛鬼肉のサイコロステーキ)のタコス、アル・パストール(オーク肉の回転焼き)のタコス。
それぞれが美味しく、バリエーションに富んだ料理で満足な食事だった。
「ジン様ー。これは美味しいであるな。」
「ジン様ー。これは美味しいのだ!」
「マスター。お気に召してなによりです。ワタクシの料理とどちらが良かったでしょうか?」
「いや……。もちろんアイの手料理にまさるものはないよ? でも美味しかったよ。」
「そうですか……。おっしゃぁーー(ボソリ!)」
アイがボソリと喜びの声が漏れていたのはみんな気がついていたけどスルースキルを発動させることにしよう。
あれ? ムカデ爺やはどうしてるかな?
(マスター。ご安心くださいませ。爺やには、先日のスタンピードの際、捕獲しておいた森オークやレッドパイパーなどをすでに与えておりますので。)
(さすがはアイ。よく気がつくね。助かるよ。)
(そんな! もったいなきお言葉!!)
『チチェン・イッツァ』付近の森の中では、オオムカデ爺やが与えられた肉をむしゃぶりついていたのは言うまでもないー。
~続く~
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