第125話 吸血鬼の陰謀『トキイロコンドル』


 オレたちはサルガタナスさんの家『マヤハウス』を出て、『エル・カラコル』天文台にサルガタナスの案内で向かうことになった。


 天文台というくらいだ。空を見る施設なんだろう。ちなみにカラコルとはカタツムリの意味だ。


 右手に千本柱の間、『カスティージョ(ククルカンの神殿)』を見ながら、正面ゲート方向へ歩いていく。




 『チチェン・イッツァ』内にたくさんの露店が出ている。


 主に道沿いにたくさん並んでいまて、売っている物も様々。


 例えば、ドクロの形をした商品やジャガーを模した置物、黒曜石のブレスレットなど。値段もお手頃で高すぎるという事もないようだ。銀貨1、2枚程度。



 手前のお店は『エルフ国』伝統柄のストールや織物、服類で統一しており、奥のお店は魔法に関する物や仮面を売っているのが見える。


 宝石や魔石関連の露店もアクセサリーに加工されたものなど、これはどこの露店でも見かける。


 『チチェン・イッツァ』は銀を使ったアクセサリー類はどこでも売っていて特産品のようだ。しかも安く手に入るみたいだ。せっかくでだから、ここでお土産用に買っていくのも良いなぁ。




 このように、『チチェン・イッツァ』内には様々な店があって目を楽しませてくれた。


 露店の数も全部を見切れないほど並んでいるので、露店もしっかり見たい方は、十分に時間を取って『チチェン・イッツァ』へ行くことがオススメだな。


 オレ、これじゃ、まるで旅行業者みたいじゃあないか。






 何でも売っているお店もあれば、統一しているお店もあるようで、ここの街が商売が盛んだということがわかるんだが……。


 そういえばこの街のあちこちに壊れた建物が見え隠れする。



 「マスター。スタンピードの影響と推測されますね。」


 「やはり、この街にも来たのか……。」


 「そうですねぇ。昨日、魔物の群れが突然この街を襲ってきたの……。恐ろしいライオンヘッドの群れや、猩猩、ギガントタランチュラ、混成の魔物の群れでそれは大変でしたわ。」


 「どうやって防いだんだ?」




 「この街の防衛軍『ククルカンの蜥蜴』が守ってくれたわ。」


 「へぇ……。『ククルカンの蜥蜴』っていうのか。」


 「ええ。ククルカン様の配下クラウン・バジリスク様の率いるリザードマンたちの軍なのよ。」


 「リザードマンかぁ。」




 「あ、この売店のところを左に曲がってね。ここから南側は旧『チチェン・イッツァ』市街地になるわ。北側は新市街地なのよ。」


 「そうなのか。歴史のある街なんだね。サルガタナスさんはさすがよく知ってるね。」


 「そやで。ジンの旦那。ここは『エルフ国』創成期から存在する街なんやでぇ。」


 「なるほど。サルワタリもさすがによく知ってるな。」


 「げひひ。そりゃ商売でっからな。」



 サルワタリも負けじと補足してくれる。サルワタリもさすが情報屋だけあって、よく知ってるね。




 右手に『高僧の墳墓』と呼ばれる墓地を通り過ぎ、左手前方に大きいドーム型の建物が見えてきた。


 「あれが『エル・カラコル』よ。」


 「うわぁ。近くに来たらなんだか圧倒されるね。」


 「マスター。この天文台は、2ドラゴンフィート弱(約9メートル)の岩の上に建てられ、高さは2ドラゴンフィートと10マフィート(約13メートル)。中心部に螺旋階段が作られており、ドーム部には縦に細長い窓の作られた厚い壁で構築されております。なお、この窓は天体観測における重要な照準線になっており、西側は春分と秋分の日没、月が最北端に沈むときの方向2つを確認することができるようです。その他、基壇となっている岩の北東隅は夏至の日の出、南西隅は冬至の日の出の方角をそれぞれ差しているとのことです。」


 アイがよどみなく説明してくれた。






 めちゃくちゃ説明すごいんだけど……。あれ? なんだかアイがオレの方を見て物欲しそうな顔をしてるな。


 これって、さっきオレがサルガタナスさんやサルワタリを褒めたから?


 まさか嫉妬したのか……。




 「アイさん! 物知りですねぇ。職業・賢者は伊達じゃあないわね。」


 「ほんまでっかいな。わてより情報通って……。わての顔つぶれまんがな。あ、わての顔もともと潰れたような顔してるやないかって? それは殺生やで!」


 「マスター? いかがしましたか?」




 「あ……。アイもさすがだぞ! アイのおかげでオレは本当に助かってるよ?」


 「まぁ!! マスター! く……くふぅ!!」


 アイがそれはそれは嬉しそうだ。……感謝してるのは本当だよ。アイ。




 「トキイロコンドル様ってどんな人なんだ?」


 「そうねぇ。『ケツァール商会』の首領ドンで、この街の有力者ってところね。アマゾネス種族ともつながりのある『エルフ国』で影響力のある人物なのは間違いないわね。」


 「それはすごい人なんだね……。って、そんな偉い人のところにのこのこ行って大丈夫なの? つか会ってくれるのか?」


 「まあね。蛇の道はククルカンって言うわ。その道にはその道のつながりってものがあるのよ。」


 「おお……。言葉の意味はなんとなくしかわからないけど、なんだか頼もしいなぁ。サルガタナスさん。」




 「ジン様。心配するでないゾ! ジン様にはイシカがついている!」


 「ジン様。安心するのだ! ジン様にはホノカがついているのだ!」


 「マスター! ワタクシもいますよ!」


 「お……おぅ。ありがたいな。」




 サルガタナスさんが天文台の警護をしている鳥の頭をした鳥人(?)に声をかけている。


 あ、こっちに向かって手を振っている。


 許可が出たみたいだな。なにかのコネがあるのか。やはり、情報屋は味方にしておいて正解だったな。




 中に入って中心内部の渦巻きのような螺旋階段を上ると、少し広い部屋があり、そこにかのトキイロコンドル様がたいそう立派なイスに腰を掛けていた。


 彼もまた人間の体と鳥の頭を持つ者で、翼をひろげた体長は7マフィート(約2メートル)ほどだ。自然と民をつなぐ王のような存在とのことだ。


 自然界、つまり森林や川から資源を採り、『エルフ国』の住民へつなぐ商売の王様ってところだろう。




 「お初にお目にかかります。トキイロコンドル様。オレはジンと言います。冒険者『ルネサンス』のリーダーをしています。」


 「ほお……。貴殿が噂の『ルネサンス』のジンか。」


 「オレの噂をお聞きとは……。良い噂であればいいのですけどね。」


 「くはは。『円柱都市イラム』での盗賊退治や、かのナナポーゾの件、さらには……『黄金都市エル・ドラード』でも商売を広げておること。『エルフ国』周辺でわしの耳に入らぬことなどあるまいて。」


 「さすがですね。では、単刀直入に申しましょう。『爆裂コショウ』を仕入れたい、それだけです。」




 トキイロコンドルの眼がキラリと光った。



 「なるほどな。貴殿はそれが目的か。」


 「ええ。なぜか最近、急にこの街から『爆裂コショウ』が出荷されなくなったと聞いています。ぜひ、商売の再開をお願いしたいのです。」




 「残念ながら、今はそれがかなわぬのだ。」


 「どうしてですか!?」




 「それはな、『爆裂コショウ』の群生地が何者かによって占拠されておるからだ!」


 「なんだって!?」




 「トキイロコンドル様。それはいったい何者なんですか?」


 「うむ。詳しくは不明だが、帰ってきたものの報告によれば……、青いひげの男であったという……。」




 青いひげ……。青ひげの男か……。


 いったい何者なんだ?


 そして、何が目的だというのだろう……?



~続く~



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