第117話 目指せ!Sランク!『不死国の暗躍』


 『山が川が呼んでいる、みんな元気に出かけよう、森はみどり草に木に風にいのちがみなぎるよ、胸をはれ胸をはれ、あおげはるかな青空、道はひろくひと筋に進む我らを招くよ!』


 ルガトが呪文を唱えると、青白い光が一直線にはるか彼方の空に向かって飛んでいった。



 「飛行呪文や! 逃げやがりましたで! あいつ!」


 サルワタリが叫ぶ。


 飛行呪文……?




 (マスター! レベル5の風と闇の混成呪文です。)


 (そうか。……でも、あいつ、最初から飛んでたよね?)


 (そうですね。それなら、逃げ帰る呪文……でしょうか。データ不足でございます。)




 あたりを見回すと、ちょうど『ジャガーの戦士団』のジャガー戦士たちが森オークとマタンゴの群れを制圧していた。


 ギガントバジリスクとレッドパイパーの群れもイシカが全部倒し、ギガントタランチュラと大蜘蛛たちの群れもホノリが片付けていた。


 大蛇も大蜘蛛も猛毒を持っていたのだが、対したイシカとホノリはアンドロイドなのだ。毒が効かないので相性が良かったようだったな。




 正面は地平線が見える荒れ地になってしまっていた……。


 まあ、もちろんオレの放った『グランド・クロス』のせいなんだが。


 『テオティワカン砦』の方から、誰かがやってくる。




 ピューマの姿の男である。



 (マスター。投槍フクロウ・ミクトランテクートリさんのもとにいた男でございます。)


 (ああ。ピューマの人、たしかにいたね。)






 「ジン殿でありますか? 私はミクトランテクートリ様の部下、カン・コーと言います。ミクトランテクートリ様がお話を伺いたいとおっしゃっております。ぜひ、こちらへ。」


 「わかりました。じゃあ、伺いましょう。」


 「ジン。すごかったな。さっきの攻撃……、とんでもなかったな。」


 「オセロトルさん。あれは……、えっと、ヘルシングさんの技の見様見真似でして……。」






 「ヘルシング……? ヴァン・ヘルシングか!? Sランク冒険者の吸血鬼ハンター、ヘルシングだな。なるほど。それであの威力か……。納得したわ。」


 「ははは。やはりヘルシングさんって知られているんですね。」


 「そりゃそうだ。吸血鬼の国、『不死国・ラグナグ王国』が目の敵にしている者ナンバー1だからな。」


 「そうなんですね。」



 ケツァルパパロトルさんもゾンビ軍団『ミクトランの骨部隊』を引き連れ、帰ってくる。


 「ジンくん。さっきのはとてつもない威力であったな。」


 「あはは。ケツァルパパロトルさんのそのゾンビ部隊もやばいですけどね。」




 オレたちはまた『テオティワカン砦』の東門からまた砦の中に戻った。


 一番大きい『太陽のピラミッド』から、フクロウの姿の男が降りてくる。



 「ジン……だな? 我はアトゥラトゥル・ミクトランテクートリ。投槍フクロウと呼ばれておる。さきほどの働き、あっぱれであった。」


 「ありがとうございます。」


 「ジンの仲間の者たちもよくやった。」




 「イシカも頑張ったであるゾ!」


 「ホノリも頑張ったのだー!」


 「ほーほー。イシカとやらもホノリとやらも活躍は見ておったぞ。よくやったな。」


 「投槍フクロウ様。あたしゃも近くで見ておりましたが、この者らの働きは眼を見張るものがあったのですじゃ。」


 「ほーほー。ケツァルパパロトルよ。そなたもよくしのいでくれたの。」


 「いえ。当然ですじゃぁ。」




 「それにしても、最後のあのウィル・オー・ウィスプは何者だったんじゃの?」


 「ルガト・ククチと名乗ってましたね。」


 「マスター。エリザベートとも口走っておりました。その者の配下であるかと推測されます。」


 「なんだって!? エリザベートと言ったのか?」


 「はい。たしかにエリザベートと言っていました。」




 うん。たしかにエリザベートって言っていたな。


 そして、逃げ帰った先は……。



 (マスター。あの光の塊が飛んでいった先を特定しました。『チチェン・イッツァ』から北西の方角へ確認しております。)


 (なるほど。そこに、そのエリザベートってやつもいるのかもしれないな。)




 「まさか……エリザベート・バートリか? いよいよ『不死国』が直接、戦線に出てきおったか?」


 「エリザベート・バートリ!?」


 「そうじゃ。ジンは知らんのか? 『血の伯爵夫人』と恐れられるあの吸血鬼を……。」


 「……『血の伯爵夫人』ですか!?」


 「ああ。自身の美貌を保つため若い娘の生き血の風呂に浸っていると噂されておる。そして、数百人の領内の娘や貴族の娘などを拷問や残虐な方法で殺害したりしているのだ。」



 エリザベート・バートリと言えば、オレのいた旧世界では、ハンガリー王国の貴族で、史上名高い連続殺人者とされ、吸血鬼伝説のモデルともなった『血の伯爵夫人』という異名を持つ人物だったな。まさか、本物の吸血鬼としてこの世界で復活を遂げたのか……。




 「それは……危険な存在ですね。『不死国』と争いになっているということですか?」


 「うむ……。今までは水面下での動きではあったがな。」


 「じゃあ、いよいよ本格的に攻めてきたってことですか?」


 「それはまだわからんがな。だが、こたびのスタンピードといい、そのルガトとやらの暗躍といい、『不死国』が絡んでいるのは間違いなかろう。」




 「そうか。オレたちは、これから『チチェン・イッツァ』へ向かおうと思っているのだけど、大丈夫かな?」


 「なるほど。『チチェン・イッツァ』か。たしかにスタンピードが起きた方向にかの街がある……が、あの街はネオマヤ種族の英雄ククルカン・クグマッツ様の守る街じゃ。そう簡単に陥落されることはあるまい。」


 「そうか。朝になったら、出発するとするよ。」


 「うむ。無事を祈るぞ。ジンよ。我らも再度の攻撃があるやもしれぬ。防衛に備えねばならぬ。」


 「はい。オレもこの砦の無事を祈ってます。」




 「ジンくん……。できればあたしゃたちもチカラを貸してあげたいのだが、すまんのぉ。この砦の防衛があたしゃたちの第一義なんでの。」


 「いえ。食料調達など助かりました。一緒に戦えて良かったです。ありがとうございました。」


 「うむ。なにかまた機会があれば会えると良いの。」


 「そうですね。」




 オレたちはオセロトルさんの『ジャガーの宮殿』で、つかの間の休息をとらせてもらった。


 『不死国』が暗躍をしていることが判明したが、それはおそらく『チチェン・イッツァ』からの商人が途絶えた謎にも関わっているのであろう。


 『不死国』といえば、吸血鬼か……。




 吸血鬼退治の専門家に協力を頼むのも必要かもしれないな。


 ヘルシングさん……。たしかあの『イラム』での『赤の盗賊団』との戦いの後、『キトル』に行くって言ってたっけ?


 『キトル』の街では会わなかったが、出身の『ヴァン国』にでも帰ったのだろうか……。


 いずれにしても、どうにか連絡手段はないだろうか?





 (マスター! 『キトル』の街のアーリとオリンに連絡をとりましょう。それと、もし、必要とあらば、コタンコロを呼びましょう。)



 そうか! 『キトル』に残してきたアーリくんたちに連絡してもらえばいい。


 そして、コタンコロに連れてきてもらえばいいじゃあないか!




 オレはさっそくアイに指示をし、ヘルシングさんに来てもらうよう手はずを整えるのであったー。



~続く~


©「はるかな青空」(作詞:平井多美子/曲/ポーランド民謡)


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