第118話 目指せ!Sランク!『捜索』


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 レムリア大陸のはるか上空にある浮遊大陸『マゴニア大陸』に『龍自由連盟』の首都ニビル・シティがある。

その雲海湾の真ん中にある『天空城ラピュタリチス』。


 その玉座に八大龍王一龍アヌが座している。


 そこへ、慌ただしく駆け足で入って来る者がいた。




 「龍王アヌ様! 星の戦士団『龍国警備隊』マネルでございます! 緊急にて失礼ながらご報告致します!」


 「うむ。いかがした!?」


 「は! 我が『龍国警備隊』のタロエル、レオネルとアストラエルの連絡が途絶えました!」




 「なんじゃと!? タロエルたちは例の魔力震の調査に向かったはず……。いったい何があった?」


 「何があったかは詳しくはわかりませんが、西の氷海で消息を絶っております。遭難したかと思われます。」


 「遭難だと!? しかも西の氷海じゃと……? いったいなぜそんなところに?」





 『龍国警備隊』のタロエル、レオネルとアストラエルたちは南の『エルフ国』、『円柱都市イラム』の方面へ調査に向かったはずなのだ。


 まったく見当違いの方向で行方不明、遭難になるなど、龍王アヌも理解し難かったのだ。


 すると、参謀エンキが意見を述べる。




 「龍王アヌ様。しかし今は原因よりも救助を先行させるべき時……。西の氷海となると……。海龍のチカラを借りるのがよいかと思われますが。」


 「おお! なるほどの。しかし、その正確な位置がわかるか? 我が『龍国』の探知レベルで、タロエルたちを発見することが可能か?」


 「父上! 我が『龍国』の魔学レベルは世界一でございます。私エンリルにお任せくだされば、タロエルたちを容易に救い出してみせましょうぞ!」


 首相エンリルも勢い発言する。そこにはエンキに対する対抗心も見え隠れするのだったが……。




 「他国のことなれど、我が主も人命をまずは優先させるべきとお考えでしょう。その者らの探査に我もご協力いたしましょう。」



 そこで声を発したのはコタンコロだった。


 コタンコロは先刻、『龍国』と『ルネサンス』との交易の許可をもらったばかりだった。


 すぐに辞するのも失礼と、今少しの期間、大使として滞在中であったのだ。



 「おお! コタンコロ殿! 可能だと申すか? はるか海底に沈んでいるやもしれぬ者らの位置を……。」


 「おい? しかも、その位置がわかっても実際探しに行く海龍どもに伝えねばならぬ。深海まで潜った海龍どもには伝令呪文『鳩ぽっぽ』でさえ届かぬぞ?」


 エンリルは懐疑的な反応を見せる。


 それはそうだ。『鳩ぽっぽ』の呪文は魔力で操る鳩を利用した伝達呪文なのだ。鳩が深海に潜れるわけはない。




 「我が主の第一代理人であるアイの分身体を呼びましょう……。」


 コタンコロは自身の中の超ナノテクマシンによって、その両の目からアイの姿を立体映像で投影させる。


 光が像を結び、アイの姿を映し出した。




 「お初にお目にかかります。龍王閣下。ワタクシはアイと申します。マスター・ジンの代理人にて、コタンコロを統括するものでございます。」


 「おお!? これは……!? 遠隔視魔法『お猿と鏡』か!」


 「こたびはコタンコロが大変お世話になっております。」


 「き……きさまは……!?」


 エンリルもびっくりして言葉にならないようだ。




 「ほほう……。これはご丁寧な挨拶を……。アヌ様。探査魔法技術において、エンリル様の申す通り、我が『龍国』ももちろんひけをとらない自負はございます……。が、ここは緊急事態であり、かつ龍命優先であります。ぜひ、アイ殿のおチカラをもお貸しいただき、タロエルたちの捜索に当たるのが最善かと思われます。」


 「なるほど。エンキの言うことに一理あるわい。アイ殿と申したな……? うぬのチカラを貸していただけると言うならぜひお借りしたい。そして、無事、彼らを救出できた暁には……。」


 龍王アヌはここで一呼吸する。




 「何か龍の褒美を取らせよう。」


 「な……!? 父上! こんなヤツのチカラを借りずとも、私がタロエルたちを見つけてご覧に入れますぞ!」


 「ええい! これは余の決定事項である! エンリルもエンキもアイ殿、コタンコロ殿に協力を仰ぎ、最善を尽くせ! 良いな……?」




 龍王アヌがギロリとその眼をみなに向けた。


 緊張感が漂う……。



 「は! このエンキ。身命をとして任務に当たらせていただきます。」


 「はい。お任せください。龍王閣下。すでに……。ワタクシの人工衛星がその彼らの生命反応を探知しております。」


 「期待しておりまするぞ……? アイ殿。」




 エンリルは恐ろしい形相をしてアイとコタンコロを睨んでいたが、やがて前を見て、エンキのほうを一瞬見た後、踵を返すように振り返った。


 「では、決まったならすぐに捜索に取り掛かる。しいては……海龍王ティアマトへ連絡を!」



 「「はい!」」


 エンリルの部下の龍たちが一斉に返事をし、広間から立ち去っていく。




 「では、我らも現場へ急行いたしましょうぞ。」


 「そうですね。コタンコロ。……では、龍王閣下。エンリル首相。エンキ様。失礼致します。今後とも宜しくお願い致します。」


 そう言って、アイの立像は消え、コタンコロは敬礼をした後、広間から去っていった。





 「父上……。本当にあのような怪しい連中と組んで良かったのですか!?」


 「ふむ……。エンリルよ。おまえはわかっておらんのじゃ……。あのアイと申した者がここに姿を見せたことの本当の恐ろしさをな……。」


 「どういうことです!? 父上!」


 「エンリル様……。この『龍国』の主城『天空城ラピュタリチス』には多重魔法結界が展開してあることをお忘れか……?」


 エンキがエンリルにやんわり指摘する。




 すると、瞬間にエンリルも悟ったようだった。



 「そ……そうか! あのアイとやらが、この『天空城』に簡単に侵入してきたと……。虚像だったとしても、その魔力を一切感知できなかった……。」


 「そのとおりじゃ。そこが恐ろしい……。あの者がその気になれば、いつでも余の気づかぬうちに、我が城に侵入可能ということじゃ……。もちろん余の首も簡単に取れるじゃろうな。」


 「そうでしょうなぁ……。あんな化け物がどこの国家にも属さず埋もれているとは、まだまだこの世界もわからぬものですな。」


 エンキもそう言って、遠い目をするのであったー。




 ****



 青白い光の塊がものすごいスピードで、その砦に飛んで戻ってきた。




 ドヒュゥウウウゥゥーーーン!!



 そして、その光の塊が人の姿を取った。


 「エリザベート様! エリザベート様!」


 その主人であろう御方の名を呼びながら、砦の中を走り回る。




 壮大な基壇の上に長いがそれほど高くない建造物が建てられている。


 『総督の館』と呼ばれるその館内は暗く、光が届かない闇にあった。


 そこを人の姿を取ったルガトが、自身の主人を探しているのだ。




 「エリザベート様……!」


 そう声を発したルガトは全身に悪寒が走った。


 背後に強烈な魔力を感じたからだ。しかも殺意の塊のような恐ろしい魔力を……。




 「騒々しい……。妾は騒々しい輩が嫌いだということを忘れたのかえ?」



 ルガトが振り向くと、ゴシック様式の派手なドレスに身を包んだ妖艶な少女が立っていた。


 いつの間に背後に……?


 ルガトがまったく気が付かない間に後ろに回り込んだであろうその少女が、また口を開いた。




 「いっぺん死んじゃう?」



 ぞわ……。




 全身の身の毛がよだつ感覚を味わうルガトは、声をまったく発することができなかった。



 「……っ!」




 「まあいいわ……。前線に出たはずのおまえが……。ここに舞い戻ってくるとは……。何があったんですえ?」




 その眼に魅入られ、ルガトは一切合切を包み隠さず話すのであった。



 「くふ……っ……! 面白い……。血が騒ぐじゃああぁりませんか……。」



 その少女は残酷な笑みを浮かべるのだったー。




~続く~


©「お猿と鏡」(曲:チェコスロバキア民謡/作詞:宮林 茂晴)



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