第116話 目指せ!Sランク!『首謀者』


 森の闇の奥から、雄叫びを上げてアンズーが踊りだしてきた。


 その周りには1千の数から成るライオンヘッドの獅子の集団……。


 そこにウィル・オー・ウィスプが1千あまり空中に浮かび、構えている。日本人のオレから見たらヒトダマ!?




 「マスター! あの青白い光の塊について、生命反応があります! 知能が感じられます……。エネルギー生命体と判断致します!」


 「ヒトダマ!? 鬼火とか……? 生命体なのか……。」



 何らかの生命体というのか……。そういえば、プラズマ生命体という説があったな。ガイア理論とか地球の核はプラズマ生命体だったとか……。


 いや、今はそんな事考えている場合じゃあない。


 目の前にそのプラズマ生命体かエネルギー生命体かはわからないが、その実物が迫ってきているんだ。




 「ジンの旦那! 気ぃつけなはれや! ライオンヘッドは災害警戒レベル4、Aランクの魔物でっせ! しかもあのボスライオン・アンズーは特A級やで!」


 「さんきゅ! サルワタリ!」


 「さ……さんきゅ??」


 「あぁ……気にしないでいいよ。」




 「災害警戒レベル4、Aランクの魔物ってどれくらい強いんだ? たしか砂竜がそうだったっけ……?」


 「そ……そうでおましたなぁ……。あれ? それやったらあんまり心配なかったりしまんのかいな……。」


 「まあ、いい! どれほどの魔物でも……理不尽な脅威は、蹴散らすのみだ!」




 オレは腰にぶら下げていたアダマンタイト製の剣をスラリと抜いた。


 『円柱都市イラム』の街でチコメコアトルさんに提供してもらったあの剣だ。


 アダマンタイト……この世界ではランク1・一級の素材だという。オリハルコンより硬いが魔法との相性はオリハルコンのほうが上とのことだが、魔法が使えないオレにはまったく関係がない。




 そして、このアダマンタイトの剣の周りに超ナノテクマシンで極薄の真空の層をまとわせ、恐ろしいほどの切れ味になるっていうわけだ。


 まあ、剣技が使えるわけでもないのだけどね……。



 要はイメージだよ。イメージ。超ナノテクマシンと連動させ……。


 ヘルシングさんが見せてくれた剣技を脳裏に描き、繰り出す。


 惑星直列……十字架のイメージを超ナノテクマシンに伝え、オレは叫んだ!




 「喰らえっ! グランド・クロス!!」



 キラッ……



 ズガドカグワッシャアアアァーーーーーァアアッン……!!





 「へ……?」


 「なんやなんやっ!」


 「マスター! お見事です!」



 別の場所で戦っていたオセロトルさんやケツァルパパロトルさんもびっくりしている。


 『ジャガーの戦士団』のみなさまがたも思わず戦いの手を止めてしまった。


 ……ゾンビの軍団だけは平然と目の前の戦いを続けているようだったけど。




 超ナノテクマシン総出力で生み出した膨大なエネルギー(核爆発にも匹敵する)を一瞬で目の前のライオン集団にクロスさせ、スパークさせたのだ。


 その爆風はアイがガードしていたので、問題なかったのだが、森林が地平線の向こうまで荒れ地になっていたのだ。


 ウィル・オー・ウィスプの大群も、ライオンヘッドの大群も、特A級と言っていたボスライオン・アンズーでさえ、一瞬でかき消えてしまった……。




 危ねぇ……。この威力、やばすぎる。


 この世界で初めて目覚めたときにやらかした火炎放射の比じゃないぞ、これ。



 「ぎゃぎゃぎゃぁ! なんじゃこれー! 痛い痛い痛い!!」


 ん?


 なにか上空から声が聞こえる。




 青白い光の塊が一つ、残っていた。


 「ウィル・オー・ウィスプか!?」



 するとその光の塊が人の形を取り出した。



 「俺の配下のウィル・オー・ウィスプたちをよくも、消滅させてくれたな!?」


 牙を持った青白い蛾のような姿をした男だ。




 「おまえは何者だ!?」


 「ふん……。小僧……。貴様が今の魔法を使った魔法使いだな? 俺の名はルガト。ルガト・ククチだ。」


 「ルガト……。おまえがこのスタンピードを起こしていたのか!? いったい何が目的だ!?」


 「目的か……。そんなこたぁどうだっていいんだよ! 血をよこせぇえええっ!!」




 『待てど暮せど来ぬ人を、宵待ち草のやるせなさ。こよいは月も出ぬそうな!』


 そう呪文を唱えた瞬間、ルガトの姿がまったく見えなくなった。



 「アイっ!! 光線解析モードだ!」


 「マスター! すでにモード切り替えております! 光を曲げて透過していると推測されます!」


 「なんだって!? 前のサタン・クロースやジロキチの使った『遮蔽魔法・陰』とはまた違うのか?」


 「そのようです。完全に光を遮断しています。エネルギー解析に移ります!」


 「まかせた! じゃあ、それまでの間は……これだ!」




 オレはそう言って、超ナノテクマシンに周囲の防御の指示を伝える。


 と言ってもただ思念を伝えるだけだが。



 「サイコ・ガード!」




 ヒュンヒュンッ!!


 バチッ!


 バチバチッ!



 なにかの電気の塊か、エネルギーの塊のようなものが、オレたちの周囲を飛び回り、超ナノテクマシンの壁に当たり、反発している。



 (マスター! あれはおそらく霊体でしょう。いかがいたしますか?)


 (霊体か……。科学的に霊ってどうなんだ?)


 (それは、エネルギー同士の素粒子的結びつきによる意識を有した高エネルギー体と言えるでしょう。)


 (つ……つまり?)


 (何らかのエネルギーの塊が意思を持った存在です。)


 (な……なるほど。つまり、物理的攻撃が効かないってことか……。)


 (イエス! マスター!)






 うーん……。どうすればいいんだ?



 「ジンくん。まかせておきなさぁーい。」


 「え?」



 そう言って声をかけてきたのは、ケツァルパパロトルさんだった。


 あ! そうか。ケツァルパパロトルさんは魔術師だから、魔法で対処するのかな?


 それなら対抗できるのか。




 「ケツァルパパロトルさん! なにかアイツに対抗できる手段がありますか!?」


 「そうねぇ……。それは、あたしゃじゃあなくって……。」


 「え……? ケツァルパパロトルさんじゃなくて?」


 「あの方ですよ!」





 ヒュゥウウーーーーー……



 ズバァーーーアアアンッ!!



 「ぐぎゃぁああーーーーーあああぁ……っ……!」




 それは遠くから槍が飛んできて、空中から攻撃してきていたルガトに命中した音だった。


 ルガトが叫び声を上げた。


 槍が刺さったまま、地面に向かって落ちてくる。



 ドサ……。





 「なんだ!? 何が起きたんだ?」



 (マスター! 投槍フクロウ……彼の攻撃です。)


 (あ! そうか……。ミクトランテクートリさんが、遠隔攻撃をしたんだね。)


 (そのとおりです。)




 「ミクトランテクートリさんか……。」


 「ほほお? ジンくん、気がついておったんかい……。」


 「ああ。しかし、あの『太陽のピラミッド』から、ここまでって、恐ろしいほどの遠投だな。」


 「投槍フクロウ・ミクトランテクートリ様の持つ槍は、『ルーン』の槍じゃ。かの名槍『グングニル』にも匹敵すると言われておる。」


 「それはすごそうだな。」




 『グングニル』は知ってるぞ……。ファンタジーでは定番の武器だな。


 北欧神話のオーディンの武器で知られている。この槍は決して的を射損なうことなく、敵を貫いた後は自動的に持ち主の手もとに戻る。また、この槍を向けた軍勢には必ず勝利をもたらすとも言われるチート級の槍だ。


 グングニルの穂先はしばしばルーン文字が記されていたというが……。『ルーン』か。




 「ぐふ…ぐぼっ……。」


 ルガトはまだ息があるようだ。


 あ、ルガトに刺さっている槍が消える……。そうか! 魔法の槍なのか!




 「なんとも……。貴様らを見くびっておったか……。これはエリザベート様にお知らせせねばな。」


 と、そう言うが早いか、ルガトは青白い光の塊になって、呪文を唱えたー。



~続く~


©「宵待草」(曲/多忠亮 詞/竹久夢二)




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