第105話 目指せ!Sランク!『いざチチェン・イッツァへ』


 「本当に我が連れて行かなくてよいのか? ジン様……。」


 そう念を押して聞いているのは砂竜のボス・ガレオンだ。


 オレたちは今、『キトル』の『イシュタルの門』を出た平原にいる。この『キトル』の街に来た時は、ガレオンの背中に乗って早くたどり着いたのだが……。





 「ガレオン。あなたじゃあ、森林の木々をなぎ倒していっちゃうでしょう?」


 「ぐぬぅ……。そ……それはまあ、アイ様の言われるとおりではあるのだが……。我は何をしていればよいのだ?」


 「うん。それはこのアーリくんとオリンの言うことを聞いてくれればいいよ。」


 オレはそう言って、アーリくんとオリンに手を向けた。




 「そうですね。僕はどうやらホッドミーミルの大森林の魔物にはとてもお役に立てそうにありませんので、ジン様のご指示で『キトル』の街で今後のガイトウテレビの商売に役に立つよういろいろ仕入れて『イラム』の街に戻るから、ガレオンさんもよろしくお願いしますね。」


 「ガレオン様。アーリ様ともどもよろしくおねがいします。」


 「グロロロロォロロッ! 任せておけ!」



 あれ? そういえばアーリくんたちって砂竜の言葉がわかるのか?


 (お答えします。アーリとオリンにはワタクシの睡眠学習で砂竜語のインストールが完了しております。)


 (おお! 未来的学習方法! そっか、なるほどね。アーリくんって砂竜と喋れるようになったこと気がついているのか……?)


 (おそらくは気がついていないでしょう……。)



 アーリくん……。それは無意識に英語でネイティブの人と話してるって感じだよね……。いや! 気がつけよ!!




 まあ、ガレオンが一緒なら魔物も平気だし、任せちゃって大丈夫そうだね。


 (はい。セキュリティのセコ・王虫(オウム)もつけておりますゆえ、ご安心を。)


 (セコ・オウム!? セコ・オウムしてますか? ……ってやつか。)



 ま、ならよけいに安心か。




 「で、我を連れて行かぬのはわかったが、その『チチェン・イッツァ』にはどうやって行くと言うのだ?」


 「それはね……。あいつだよ!」


 「んん……? おおおっ!!」




 オレが指差した地面が大きくひび割れ、オオムカデが現れた。


 そう。オオムカデ爺やだ。オオムカデ爺やがアイの指示で、ガレオンの後をついてきていたってわけだ。


 うんうん。おとなしく待っていたようだね。




 「おぬし……。我と同じでジン様に心服したというのか?」


 「わしも、おのれの分はわきまえておるのじゃ。ジン様やアイ様に逆らうはずはあるまいて。」


 「おお! おぬしもやっと我と同じ高みに立ったものだのぉ?」




 「まあ、エサをもらったしの。あれ、ほれ、何と言ったかの……。」


 「グガランナ牛か?」


 「それじゃ! そのグガランナ牛、あれは最高じゃったのぉ。まあゴブリンも捨てがたいがの。」


 「いやいや!! おぬしとはやっぱり味の趣味が合わんの……。しかも、グガランナ牛よりマツサカ牛のほうが断然美味いんだぞ!?」


 「マツサカ牛……いいのぉ。わしも食いたわい。」




 二匹の魔物はなんだか知らない間に仲良くなったようだ。


 「で、爺や! オレたちを乗っけてってくれるか!?」


 「もちろんじゃ。それにジン様の考えは正しいの。たしかにこの砂竜のヤツは砂漠でも平地でも超高速で走ることは得意じゃが……。森林地帯や湿地地帯などはわしのほうが得意じゃ。なんせ。木々の隙間を縫うように移動できるからの。湿地でも問題ないしのぉ。」


 「ふん! まあ、それはたしかじゃのぉ……。我はではおとなしくアーリ、オリンと一緒に任された仕事をしておるとするわ! がーっはっは!」




 「して、ジン様。わしのこと、爺やと呼びなさったが……わしはオオムカデじじいじゃ。じじいと呼び捨てで良いぞ?」


 「いや……じじいってなんだかめちゃくちゃ失礼な言い方だなぁって感じだから、おまえの名前は『オオムカデ爺や』に改名したんだ! よろしくな!」


 「な……!? なんと! そんな理由で改名とは!?」



 「なんですか? あなた……。マスターのお気持ちに逆らうと?」


 アイの目がキラリと光る……。




 「いえいえ! 逆でございますじゃ! わしも自らでつけた名前じゃあないのでな。みながそう呼ぶから名乗ってただけじゃからの。ジン様のお優しい気持ちに、むしろ感激じゃて!」


 「気に入ってくれたようでなによりだよ。」


 「ありがたき! わしはこれから『オオムカデ爺や』じゃ! 爺やと呼んでくれぃ!」


 オオムカデはしっぽをバタバタさせていた。




 「ほんま、だんなはとんでもないおヒトでんなぁ……。砂竜のボスでもそらびっくりやけど、オオムカデも従えてしまってるとは……。」


 サルワタリが感心している。


 こうして、オレたちは『テオティワカン砦』を目指して『キトル』の街を後にした。





 ****



 『ブルジュ・バベル』……それは塔の先が天に届くほど高くそびえ立つバビロン地方随一の高さを誇る建物だ。そして、『キトル』の街の名を、あらゆる地に散って、消え去ることのないように示威しているという。


 この塔の頂上には剣を持ち、天を威嚇する像ニムロ・ドラクル(ニムロ竜公)が建てられていて祀られている。


 この街は『龍国』の影響が色濃く残っている。それは今もこの地に『龍国』の支配が続いているという証でもあるのだ。




 塔の最上階の王の部屋……。そこがナボポラッサル王の部屋である。


 王のもとには黄色い衣を着た名状しがたい者が傍に控えている。


 王がその御仁に問いかける。





 「して……。そのジンとやらを呼び寄せなくてよいのか? その者はすぐに依頼を受けて旅立ったと言うぞ? 余の妻シバもうるさく文句を言ってきておる。なぜ、『イラム』の冒険者をこちらに引き抜くのかと……な?」


 黄衣の御仁は聞かれたことに返答する。



 「偉大なる王よ。王がこの地を真に支配されなさるには、武力だけでは如何ともし難いのです。そう。名声も必要不可欠!」


 「そのための『Sランク冒険者』……か。たしかに強国はみなSランクの冒険者をお膝元に抱えておる。『七雄国』はSランク冒険者を何組も抱え込み、さらに『ハ徳勇者』まで控えておるとは戦力バランスの上では圧倒的優位にたっておるというものじゃ。」


 「ですなぁ……。『八徳勇者』は世界にたった七人しかいませんので召し抱えるのは不可能です。それゆえに『Sランク冒険者』なのですよ。」




 「ふむ……。それはそうじゃな。現在、『Sランク冒険者』は世界に23組。もうひと組くらい増えてもかまわんじゃろうて。」


 「もちろん……。ナボポラッサル王こそ、この地の王に相応しき御方と心得ております。そのためのいわば足がかりです。」


 「それなら、なおさら、ジンに一度挨拶くらいはさせておくべきだったのではないのか……?」




 黄衣の者は不敵な笑みを浮かべて答えた。



 「ふふふ。問題ございませんよ。手はずは整えておりますゆえ……。ご安心召され。急がばバーサーカーにやられるとも申します。私めにお任せあれ……。」


 「うむ。アンスピカブル・ワンよ。これからも余を支えて参れ。」


 「御意。」




 王の間のすぐ外で護衛の任務をしていた『キトルの竜騎士団』のシャズはその場を離れ、屋上階へ向かう。


 「バビロンの王がアンスピカブルに何やら吹き込まれ、独立を企んでいる様子……。これは『龍国』のマルドゥク様へご報告せねば!」



 屋上階へ出るとそこには、天を威嚇する像ニムロ・ドラクルが立っている。


 その前で彼はなにやら呪文を唱えた。




 『鳩ぽっぽ鳩ぽっぽ、ぽっぽぽっぽと飛んでこい、お寺の屋根から下りてこい、豆をやるからみな食べよ、食べてもすぐにかへらずに、ぽっぽぽっぽと鳴いて遊べ!』


 レベル3の伝令呪文『鳩ぽっぽ』である。



 「……本国のマルドゥク様へ……。バビロンの王が……!」



 ……とそこまで言いかけたその時……。シャズの身体が、膨らみ鱗のようなものに覆われ、手足から骨が無くなり流動体のように変形してしまった……。





 「ふむ……。マルドゥクの犬め……。」



 あわれな犠牲者の、その背後には黄色い衣をまとった名状しがたい者が佇んでいたのであったー。



~続く~


©「鳩ぽっぽ」(作詞 東 くめ/作曲 瀧 廉太郎)

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