第106話 目指せ!Sランク!『キングオーク』


 リオ=グランデ=デ=ミトラ川を左手に見ながら、オオムカデ爺やが足早に駆け抜けていく。



 「ジン様ぁっ!! 振り落とされんようにのぉ!!」


 ムカデの爺やが声をかけてくる。


 だが、オレたちは超ナノテクマシンのおかげで衝撃波を受け流しているのだ。まったく振り落とされる要素はなかった。




 「なんと! わしの動きにも悠然とかまえて乗っていられるとは……! やはり……恐ろしいヒト!!」


 この時、ムカデじ爺やが白目をしていたかどうかはどうでもいいことだ……。




 道中、荒野の魔物、野オークや、黒いアレ……ゴブリンが遠巻きに見えたが、オオムカデにさすがに襲いかかってくるものはいなかった。


 そんなこんなで、『エルフ国』の支配エリアであるホッドミーミルの大森林の入り口に早くも到着した。


 ここからは、木々を避けながら進むことになるので、ムカデ爺やもグネグネとその巨体をくねらせながら進むことになる。




 「ジン様。亥の方角や! その方角へまっすぐで『テオティワカン砦』に着くはずや。」


 サルワタリが方向を示したので、オレはムカデ爺やに指示を出した。



 「あ。そういえば『テオティワカン砦』って、僕、聞いたことありますよ。ノヴァステカ種族の砦で、森水争乱(エルフカイマキア)の際、トラロック様直下の『エルフ国』農業文化集団の活躍した砦ですよね。」


 「ほう。アーリはんはなかなか物知りやなぁ。そのとおりやで。トラロック長老と高貴な緑の貴婦人チャルチウィトリクエ様、農業・文化と関係深いケツァルコアトルはん、植物の再生担当大臣シペ・トテックはん、彼ら農業文化集団がその戦いの兵糧を支えたんやで。」


 「へぇ……。じゃあ、食料はそこで手に入れられそうだね。」


 「そやな。問題あらしまへんで。」




 森に入ってしばらく進むと、森に棲む豚の魔物、森オークが弓の攻撃を仕掛けてきた。


 が、オオムカデに対しては効果がなかった。


 うっとおしそうに矢を振り払うムカデ爺や。そのスキを縫ってオレたちの近くに飛んでくる矢も超ナノテクマシンの防御シールド、サイコガードの前には無駄なことだった。




 「マスター! あの豚どもを叩き潰しますか?」


 「ん……。いや、別にかまわないだろう。驚異でもないし……。」


 「マスターはお優しい。敵意を示したものにも寛大なご処置……。」


 「無駄に争うのはねぇ。無駄だと思うんだよ。」


 「ジン様は戦うべき時を知っておられるのですね。」


 アイ、そんな大げさなものじゃないんだよ……。




 「あっちの方には、ミトラ砦があったんやけど……。先日の爆発でなくなってしもうたな。」


 サルワタリがその方向を指差した。


 ああ……。ミトラ砦か。『赤の盗賊団』のレッドキャップ種族の砦だったな。


 ズッキーニャは、ちゃんと勉強してるかなぁ……。




 (お答えします。ズッキーニャはモルジアナが毎日、魔法について教えています。また、時々、『楼蘭』の街で買い物したり、ロプノール湖で水浴びしたりと問題なく過ごしております。)


 (そっかぁ……。身の危険とかないよね?)


 (それも心配ありません。専用の守護者サタン・レイスが常に離れずの護衛を担当しております。)


 (そっか。そういやそうだったね。)


 (はい。それにサタン・レイスの精神はあのサタン・クロースをコピーしておりますゆえ、たとえその身が消滅の危険にさらされてもズッキーニャを保護することでしょう。)



 ん……? サタン・クロースの精神をコピーしただって!? さらりととんでもない爆弾を投下してくるね……アイ先生……。




 しばらく進んでいたら、ムカデ爺やが急に止まった!


 目の前に山のような大きさのイノシシ?……が現れたのだ。



 「オークのボス、キングオークじゃ!」


 「デカいっ!」


 「あれは、セーフリームニルやないかっ!?」




 「セーフリームニル!?」


 「ああ、そうや! 『皇国』の至高の宮廷料理人・アンドフリームニルの幻の料理『シシナベ』の素材で有名な捕獲難度Sクラスの魔物やで!」


 「そ……そんなに珍しいのか!?」


 「珍しいなんてもんやないで! 森オークたちが騒いで呼び寄せたんやな……。」




 「グオルルオオオオーーーーッ!!」


 セーフリームニルが周囲の樹々を揺らすほどの声で吠えた。さらに呪文を唱える。


 『吹けそよそよ吹け 春風よ 吹け春風吹け 柳の糸に 吹けそよそよ吹け 春風よ 吹け春風吹け 我等の凧(たこ)に 吹けよ吹け 春風よ やよ春風吹け そよそよ吹けよ』


 木の葉が舞い、暴風が巻き起こる!




 (マスター! レベル4の風魔法『春風』です!)


 (春風だって!? これのどこが春風だよ……。暴風じゃあないか!)


 (春の風は突風をともなうこともございますから。)




 しかし、暴風が樹々をなぎ倒し、吹き飛ばし、オレたちの行く手をさえぎっている。


 くぅ……。暴風や飛ばされてくる大木は超ナノテクマシンのガードで問題はないのだが、ムカデ爺やが前に進めなくなってしまっている……。



 「マスター! イシカとホノリにご命令ください!」


 「あ……ああ! わかった! イシカ! ホノリ! あのイノシシを追っ払え!!」


 イシカとホノリがこっちを見て、ニコリと笑う。




 「了解である!」


 「わかったのだ!」


 二人は我先にムカデ爺やの前に進んでいく。暴風もへっちゃらのようだ。


 飛んできた大木をイシカは手をかざし、火炎放射で焼き払い、ホノリはゲンコツで叩き割って前へ進む。




 ムカデ爺やの頭から飛び降りて、巨大イノシシ、キングオークに向かっていく二人。



 ヒュンヒュンヒュヒュヒュンッ!!



 森オークたちがどこからか出てきて、弓を射掛けてきた。




 二人は飛んできた矢を右へ左へかわし、あっさりイノシシの足元へたどり着いた。


 すると、セーフリームニルは二人を見て、前足で踏み潰そうとする。



 「イシカ!! ホノリ!! あぶない!!」


 オレは思わず叫んでしまった……。



 ズゥウウウウーーーーーゥゥウウウウンッ!!




 山のような巨大なセーフリームニルの足が地面を凹ませるくらいに踏みつけられた……イシカとホノリがぺちゃんこにされた……。



 ……と思ったら、素早くかわしていたようだ。


 イシカもホノリもその隙間から巨大なイノシシのその足の上に登り、ジャンプして駆け上がっていく!




 「おお! イシカ! ホノリ!」


 「無事でしたんやな!」


 「マスター。ご安心ください。あの程度の動き、イシカもホノリも見切っております。」




 「「ワーンパーンチッ!!」」


 イシカとホノリが二人息ぴったりで鉄拳パンチをお見舞いした!


 ……そのネーミング、ダブルでギリギリじゃねぇか……!?


 いや……みんな忘れてくれ……。オレ、誰に向かって言ってるんだ?




 「グオォオオオオオーーーーーーーーッツンンンンーーーーッ!!!」



 ヒュゥウウウウゥウゥウゥウウウウーーーーンンッ…………。


 巨大な山のようなイノシシがはるか遠く地平線……いや、森平線の向こうまで飛んでいく……。




 ああ……。あれだけ巨大なイノシシなら、『イラム』の都市の食糧不足の問題を一気に解決してくれたんじゃ……。



 「ジン様!! イシカがやってやりましたであるゾ!!」


 「ジン様!! ホノリがやってやりましたのだ!!」


 二人はニコニコほほえみながら、身体をもじもじと揺らしている。



 オレは見えなくなったセーフリームニルの姿をいつまでも見つめながら、得意満面に戻ってきてオレの前で褒めてほしそうにしている二人には何も言えなかったのだったー。





 「ジンのだんな。セーフリームニルぐらいの魔物がこんな森の浅瀬に出現するのはちょっとおかしいで? これは森の深奥で何か起きてるのは間違いおまへんで!」



 サルワタリが的確な推測を述べたのだが、オレは『シシナベ』のほうが気になっていたということは内緒にしたのだったー。




~続く~


©「春風」(曲/フォスター 詞/加藤義清)



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