第104話 目指せ!Sランク! 『ルート選択』


 「まあ……。そんなところで立ち話もアレやさかい……。店の奥にどうぞ。」


 『キトル』の『ヤプー』店長・サルトビがそう言って店の奥の応接室に案内する。


 他にも従業員が何名かいて、てきぱきと椅子と長テーブルを用意した。




 「では……わしらも話がしやすいように……。精神同調呪文を唱えるとするかのぉ? では、イワザルのぉ! ほい! キカザルのぉ? わかるかの……?」


 「あい? おお……。あれかいの?」


 ミザルの爺さんがそう言って二人に声をかけ、イワザルだけはコクコクと頷く。





 『せっせっせーの、よいよいよいっ!!』


 すると三匹が手をリズムに合わせて手をトントンと、ハイタッチをしだしたのだ。


 『夏も近づく八十八夜、トントン♪ 野にも山にも若葉が茂る~トントン♪ あれに見えるは茶摘みぢやないか、トントン♪ あかねだすきに菅(すげ)の笠~トントン!』




 なんだって……!? これって『茶摘み』の手遊び歌じゃあないか……?


 ていうか、『せっせっせーの、よいよいよいっ!』……って来れば……。


 おちゃらかおちゃらかおちゃらかほい、おちゃらか勝ったよおちゃらかほい!おちゃらか負けたよおちゃらかほい! ……じゃあないの……?



 オレはそっち派なんだけどな。


 たしかに『茶摘み』派の人もいたけどさ。あ、あとアルプス一万尺……とか、「おーてーらーの和尚さんがカボチャの種を蒔きました~」派とか……。




 どれが主流派だったんだっけなぁ……。


 (マスター! 地方や育った地域などでも違ったようですよ。)


 (おお! アイ先生。そうなのかぁ……。)


 もう、この世界にはこういう手遊び的なものは残ってはいまいと思っていたが、意外! こんな形で残っているとは……!




 三匹の猿のような爺さんたちが、めちゃめちゃ早いリズムで小気味よく、トントンと手を合わせて手遊びをしているかのような……。


 それをじっと見ていたら、ちょうど呪文の詠唱も終わったのか、三匹が輪になって少し輝いたかのように見えた。


 うん。何かでつながったように見える。……オーラ的なヤツ?




 「これでわしらは三人で一心同体! 目も見えるし、耳も聞こえるし、話すことももちろんできるのじゃ!」


 「そいつはすごいな。三人そろってなきゃダメみたいだね?」


 「そのとおりなのじゃ!」




 ちょっと落ち着いたところで、サルトビがお茶を煎れてくれた。


 コムギト種の麦茶だそうだ。ヤプー種族はお茶が好きらしい。


 お茶と一緒にヌガーを出してくれる。 砂糖と水飴を低温で煮詰め、アーモンドなどのナッツ類やドライフルーツなどを混ぜ、冷し固めて作ったものだ。


 うん。お菓子は美味い。




 「うん! イシカはこのお菓子は好きであるゾ!」


 「おお! ホノリはこのお菓子が好きなのだー!」


 「ええ。これ美味しいですね。サルトビさん、このお菓子どこで手に入るんですか?」


 「ホントに美味しいですね? アーリ様。」


 「マスター。『イラム』で食べたミナ・サマーにも似ていますね。」


 「そうだな。さすがは情報屋……。美味しいお菓子の情報も掴んでいる……ってわけか。」




 三猿さんたちはしばらくオレたちがお菓子をパクついているのを見ていたが、その後いつまでも食べ終わらないオレたちを見て、おもむろに話し始めた。


 「話はこのサルワタリから聞きましたぞ……。ジン様。あなたがたは情報を使った新しい商売を計画されているとか……。」


 「ああ。そうなんだ。『イラム』ではもうすでに場所の確保はできている。」


 「ほお……? それはお手の早いこと。……よろしいですじゃ。我々『ヤプー』のネットワークも協力するとしますじゃ!」




 ネットワークか……。どういったものかは企業秘密ってわけか。まあいい。



 「なるほど。じゃあ、そっちの話はおいおい進めていくってことで……。今は、『爆裂コショウ』がある場所を知りたいんだ。」


 「ほうほう。そう来たか……。あれは『チチェン・イッツァ』の名産であったな。じゃが、その『チチェン・イッツァ』からの連絡は今、途絶えておるのは知っておるかの?」


 「それはアスモデウスさんから聞いている。『爆裂コショウ』はその『チチェン・イッツァ』へ行かなきゃ手に入らないのか?」




 「いや。『爆裂コショウ』の群生地はわかっておる。『チチェン・イッツァ』の奥地、ケルラウグ川の川岸に群生しておるのじゃ。」


 「おお!? そうなのか? じゃあ、決まりだな。そこへ採集に行こう!」


 「そうじゃの……。それが間違いなかろうて。」


 「じゃあ、さっそく向かうとするか!」




 「ジンのだんな……。ちょっと待ってぇな。そこまでの行き方……、知ってらっしゃるんかいな!?」


 「ん……? ああ! そうだった! ……うーん。誰か道案内できるガイドを紹介してくれないか?」


 「げへへ。心配しなはんな。わてが案内しまっさかい!」


 「え!? サルワタリが……?」


 「はいな。わてはこう見えて、あちこち旅したことがありまんのやで。」




 そうか。じゃあ、助かるな。


 じゃあ、ガイドを探す手間が省けたし、早速、出発だな。



 「だんな。『爆裂コショウ』の群生地へは『チチェン・イッツァ』へ寄って行くのが最短や。で、その『チチェン・イッツァ』へ行くには2つのルートがあるんや。」


 「2つのルート?」


 「そや。1つは『カミナルフユ砦』を経由し、『樹上都市トゥラン』を経て、『チチェン・イッツァ』へ向かうルート。こっちは補給が2回できる上に、ネオマヤ種族最大の都市『トゥラン』を通るため、比較的安全なルートやな。」




 「なるほど。比較的安全なルートってことだけど、補給地を2回経由するということで時間がかかりそうだな。」


 「そのとおりや。だが、このルートではおそらく、そないに危険な魔物は現れんやろな。」


 「で、もう一つのルートっていうのは?」




 「はいな。2つ目のルートっちゅうのは、少し遠いんやけど北の『テオティワカン砦』を目指し、そこから『チチェン・イッツァ』へ向かうルートや。補給地は1回だけや。長距離の移動になってくるけどな、その分早く到着することが見込めるかもな。まあ、危険はつきものやけどなぁ。」


 「なるほどね。比較的安全で慎重だけど時間がかかるルートか、危険を承知で時間短縮が図れるルートってわけか……。」


 「そうや。さすがはジンのだんなや。飲み込み早いやないか。」




 「ジン様! イシカがついているのである! 直接、『チチェン・イッツァ』へ一直線に向かっても良いぞ?」


 「ジン様! ホノリがついているのだ! まっすぐに『チチェン・イッツァ』へ一本道で向かっても良いのだ!」


 イシカとホノリがさらに第三のルート、まっすぐ向かうっていうことを提案してきた。




 「マスター! それもひとつではあります……が、補給が一度もできないのは、何かあった際、対応が難しいと判断いたします。」


 アイはまっすぐに向かうのは反対のようだな。あらゆるリスクを計算し、想定するアイがそういうのだ。まっすぐ行くのは無しだな。




 「じゃあ、『テオティワカン砦』経由のルートで行こう。安全策もいいが、オレたちはできるだけ急ぎたいという事情もある。」


 「たしかに、ジン様のおっしゃるとおりですね。『チチェン・イッツァ』になにかあったとしたなら、『爆裂コショウ』の群生地もどうなっているかわからない。」


 「ええ。アーリ様の言う通り。間に合わなかった……ということは避けたいですね。」


 アーリくんとオリンもオレの意見に賛成のようだ。




 「げひひ。ほな決まりやな。じゃあ、わても準備しまっせ。三猿のみなはんは……ご苦労でしたな。」


 「うむ。サルワタリよ。おまえに任せたぞ?」


 「ちぇっ……。なぁんか『キトル』の依頼やっちゅうこと忘れてまへんか? みなはん。」


 サルトビのやつもしぶしぶ承諾したようだ。




 「なぁに。サルトビよ。これからこのジンのだんなの商売でどえらい儲けができるっちゅうのを、わては読んでるんや。おまはんもニッコニコの笑顔になること間違いなしやで!」


 「おまはんがそこまで言うなら、わしもその波に乗らせてもらうわ。『商売』の神様は前髪しかないっちゅうしな。」


 「そやそや。迷宮最下層のゴーレムのごとく、どっかと腰を据えて待っといたらええねん。」





 そして、オレたちは旅の準備をして、サルワタリの案内で、『テオティワカン砦』を目指すのだったー。




~続く~


©「茶摘」(曲:文部省/詞:文部省)


※地図『キトルからチチェン・イッツァのルート図』をアップしました。

外部サイトですが「みてみん」で「キトルからチチェン・イッツァのルート図」で検索してね!

https://32086.mitemin.net/i484846/




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