第86話 クエストを受けよう! 『クエスト達成報告』
オレはその日、コボルトの赤岩さんのお通夜(?)に参列した。
この『円柱都市イラム』の慣習なのかはわからないけど、死者を悼んで、最後のお別れをするのだそうだ。
その後は共同墓地に葬られるのだ。
何かの神様に祈るというわけではないらしい……。
少し聞いたことがあったが、死者の魂は『ソウルランド』という魂の行く場所があって、そこに行くのを見送るとのことだ。
遺体からいつの段階で魂が離れるのか、そこはよくわかっていないと聞いた。
オレのいた旧世界でも魂のありかや、その存在については議論があって、賛否両論だったと思う。
だけど、アイは明確にその存在を肯定していたな……。
科学で解き明かされたのか……。魂の存在を。
しかし、真実はどうあれ、ヒトが亡くなってその死を悲しむのは、世界が変わっても同じだ。
オレはその後、『黒猫館』に帰ったが、食欲はなかった。
まあ、なにかと面倒見の良い、体内の医療用超ナノテクマシンのおかげで、少々食べなくても健康に問題はない。
アユ・タウロスさんも何か察したのか、オレに優しく声をかけてくれ、そっとしておいてくれた。
黒猫のカーロだけは、あいかわらず、騒がしかったけど、マタタビ酒を与えたら、コテッと黙って寝てしまった。
アイだけは、オレのそばから片時も離れなかったけど。
まあ、今はミニ・アイの姿だけどね。
****
次の日―。
オレたちはベン・シラさんからの使いが来て、シバの女王の宮城に呼ばれたのだった。
「ジン殿。久しいな。」
「ベン・シラ様もお変わりなく。」
黒衣の宰相は相変わらずの威厳を持って、オレに声をかける。
今日はシバの女王への謁見はないようだ。
まあ、ことあるごとに謁見していては女王の体が持たないだろう。
「ジン殿から申請のあった、中央の円柱に新しい魔鏡を設置する件、シバの女王様の許可が降りた。自由に使いたまえ!」
「ありがとうございます!」
「して、魔鏡をあの場所に置いて何をしようと言うのか? ジン殿。」
「ええ。『街頭テレビ』というものを設置するのです。」
「ガイトウテレビ? ほう。このベン・シラも聞き及んだことがないわ。」
「情報の発信をする魔道具……といったところです。」
「ほお?」
「今後、この街には風よりも早く世界中のあらゆる情報が集まることとなるでしょう。そして、情報を発信する中心にもなっていきましょう。」
オレの話を聞いてしばらく黙っていたベン・シラさんだった。
「よく調べないうちに非難してはいけない。まず考えしかるのちに咎めよ。聴き終わらないうちに答えてもいけない。他人の話に割り込むものではない。ジン殿。貴殿には感謝すべきかもしれぬな……。」
「……っ!?」
ベン・シラさん……。今の短い説明で理解したようだな。
この御方は恐ろしいほど賢い御方だ……。
絶対に敵に回すべきではないな。
「ふむ。もちろん、税はいただくがな。ジン殿。下がって良いぞ。」
「はい! ありがとうございます!」
オレはそう言ってその場を辞した。
(マスター。あの者は、マスターのチカラを測っておるのでしょう。そして利があれば味方になってくれましょう。心配いりません。)
(アイ。それなら助かるな。まあ、アイがそう言うのなら心配ないかな。)
こうしてオレたちは無事、『街頭テレビ』の許可をもらったのだった。
オレたちはその足で、冒険者ギルドへ向かった。
昨日のスワンプマン事件の件と、クエスト達成報告のためだ。
まだ昼間なので、『デュオニュソスの酒場』は開いてなかった。
ウサギの獣人も奥に控えているのだろう。
オレだったら、女性のウサギの獣人を雇い入れて……なぁんて考えたりなかったりたたりもっけ。
アイさん……。そんな目を見開いてこっちを見ないでください……。
あ、フルーレティさんだ。
「こんにちは! ジン様。」
「フルーレティさん。クエスト達成の報告に来たよ。」
「ああ。バロン男爵からギルドにも報告がありましたよ。はい。無事、依頼達成です!!」
「おおっ!」
「こちらが報酬の5白金貨です。さらに追加の成功報酬のオーク一頭です!」
フルーレティさんが奥を指差したところにあったのは、巨大な豚だった。
この世界では、1ドラゴンフィート(5m)にもなる巨大な豚だ。
「こ……これは! デカいな!」
「はい。バロン男爵の牧場で飼われている新鮮なオークですね。焼いてもよし。煮込んでもよし。最高級ですよ!」
「お……おぅ……。」
ま、今夜の夕食は豚のフルコースで決まりかな。
「ところで、今回の事件の犯人・ナナポーゾはどうなったの?」
「あ! 気になりますよね。すみません。報告が後になってしまって。」
フルーレティさんが髪をかきあげながら、胸を揺らす。
「それでですね。あのナナポーゾは、ああ見えて『エルフ国』の貴族なんです。だから、同じ貴族のバロン男爵が長老タイオワ様と話し合って処遇が決まるみたいですよ。」
「そっか。でも貴族といえど、街の住民に被害が出ているんだ。軽い罰では済ませてほしくはないな……。」
(マスター! もし、ワタクシに指示をいただければ、あの者に地獄を見せて……あ、いえ。存在ごと消滅させてもよろしいですが?)
(いや……。それはバロン男爵におまかせするよ。ただ、あまりに犠牲者にとって救いがない結果になる場合は……。また考えよう!)
(イエス! マスター! ワタクシはマスターに従います!)
「あ! ジン様。ギルド長が少しお話があるとのことです!」
「え? アマイモンさんが? なにかな? オオムカデ爺やのことかな。」
「あれ? マスター。あのムカデの名前は、オオムカデじじいではありませんでしたか?」
「うん。なんだかね。じじいって呼びにくいから……。」
「マスターは本当にお優しい……。わかりました! あのムカデの名前は、たった今からオオムカデ爺やです!」
そして、いつものように奥の部屋に通されたオレたち。
「よう! ジンさん。来たな。」
「アマイモンさん。オレに用事があるんだって?」
「ああ。そうだ。以前に、Sランクに上がる条件として依頼を2つ受けてほしいと言ったと思うんだが覚えてるかい?」
「もちろん。そのために今、ひとつ依頼を達成したところだよ?」
「そうだな。それは報告が上がってきてる。ご苦労だったな。実は……。キトルのナボポラッサル王から、待ったがかかってな。」
「ええ!? キトルって隣の街の?」
「そうなんだ。ここ『円柱都市イラム』は東方の都市『キトル』含めたバビロン地域に属する。『キトル』はその中心都市であり、ナボポラッサル王はシバの女王様の夫君であられる御方なんだ!」
「そ……そうなんですか! でも、なぜ、ナボポラッサル王は待ったをかけてきたんだろう?」
「うむ。それは『キトル』のギルドで依頼を受けてもらいたいとの要請があったからだ。」
「依頼ならどこでも同じじゃないの?」
「いや……。今、『キトル』は南方の都市『ニネヴェ』と険悪な状態だからな。戦力を集めたいという目的もあるんだろう……。」
そうなのか……。『キトル』の都市と『ニネヴェ』の都市が険悪ということは、何か争いになるのだろうか……。
なるべく危うきには近寄りたくはないけどね。
戦争にでもなるのだろうか?
「ジンさん! 安心しろ! 冒険者は戦争の道具にはならない! 自分の意志でクエストを受けるかどうかは決められる! そこは『冒険者ギルド』を信用してくれ!」
「アマイモンさん……。わかったよ。で、オレはどうすればいい?」
「助かるよ。『キトル』に行ってもらって、そこの『冒険者ギルド』を訪ねてくれ。ギルド長のアスモデウスには話を通しておく。あいつは……。オレの昔のパーティー仲間だからな。」
「え? ということはSランクの!?」
「まあ、そうだな。」
オレはなんだか一抹の不安を覚えつつも、『キトル』の街に行くことを承諾したのだった―。
~続く~
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