第87話 クエストを受けよう! 『人材確保です!』


 この日の夕食は、オークの丸焼きをまるごとみんなに振る舞うことにした。


 近所のコボルトの親子、正香さんと角太郎も呼んだ。

 また、今回のスワンプマン事件で働き手を亡くした家族も集めた。


 みんなへの慰めの意味ももちろんあるが、ただの慈善活動というわけでもない。

 宅配業を行うにあたって、従業員の人材確保のためというのもある。




 黒猫のカーロに話したところ、黒猫たちは配達に協力してくれることになった。



 「ほんとに、マタタビ酒を毎日飲ませてくれるのかにゃ!?」


 とか言っていたけど、もちろん飲みすぎて次の日の仕事に差し障りが出ない程度ということは注意しておいた。




 さらにスワンプマン事件で、未亡人となった奥さんたちが100人近くいる。


 全員とは言わないまでも、このうちいくらかでも宅配業を手伝ってくれるとオレたちとしても大助かりだ。


 もちろん希望するならだけどね。無理に働いてもらうということにはしたくない。




 当面の資金は、砂金を集めておいたおかげで十分に足りる。


 え? 女性に重い荷物が運べるのかって!?


 まあ、普通はそうなんだよな。旧世界でも運送業をしていたのは、屈強な男性が多かったイメージだ。




 だけど、そこは超科学の技術が問題解決してくれる。


 小分けにして運ぶ宅配用の箱は、アイの空間収縮技術工法と同じ技術で作られた空間折りたたみ式の箱なのだ。


 わずか手のひらに乗る軽い箱が、なんと、『10タタミ(10畳) ✕ 高さ30マフィート(3m)』分の空間容量分の荷物が運べるんだ。


 重さもこれまた、内部に反重力シールドを張っているため、どっち向きに向いたとしても重さを感じることはほとんどないようにできているとのことだ。




 ホントにアイ先生さまさまというわけである。


 オレのいた旧世界の時代ではまだ為し得ていなかった超科学の粋を集めた超技術を持っているのが、アイなのだ。


 まあ、死んでいたオレを蘇らせただけで、その技術のすごさがわかるってものだけど。




 そして、試しに聞いてみたんだけど。


 オレを蘇らせたように、赤岩さんや、サタン・クロースや、『アドベンチャーズ』のトムたち、ドッコイ兄弟たちは蘇らせられないのかってね……。


 答えは限りなくノーに近いイエスだそうだ。




 まず肉体を完全修復させなければいけない。


 サタン・クロースのように粉微塵になってしまった肉体など、仮にそれが可能だったとして、その記憶情報の復元も必要となる。


 相当膨大なな量の演算能力を駆使しなければいけない。


 そして、さらに問題なのが、やはり魂問題となるわけだ。




 魂のゆくえはどこに行くのか……。


 信じられないくらいたくさんの何次元にもまたがる同時存在性のあるミクロの素粒子が広大な空間に時間も距離の制限もなく離散してしまっているものを集めて修復しなければいけない。


 そして、その系譜と再びコネクト……接続し、再現しなければいけないのだ。


 果てしないほどの膨大な労力と、超量子計算能力を持つアイでさえ、途方も無いくらいの時間がかかるその作業の果てで、なお薄い確率の先に蘇生成功となるようだ。




 もちろん、コピーでいいならそれよりもはるかに少ない労力で良いらしいが……。


 哲学的ゾンビ問題を乗り越えない限り、それは不可能だということか。



 「因果の海の果てに、何らかの超高次元の作用を働かせることができれば、死後間もない場合は可能です。」


 と、アイは答えたのだけれどもね。




 というのも、『イステの歌』に低位の蘇生呪文というものがあるらしいのだ。


 つまり一定条件のもとであれば蘇生可能……なのだろう。



 「魔法でできることは、科学でも再現できます!」


 そうアイは断言した。






 魔法……いったいどういう不可思議パワーなのかはわからないけど、少なくとも『蘇生呪文』を軽々しく使える魔法使い、いや僧侶?はこの街にはいないようだ。


 魔法に詳しい人材がほしい……。


 この世界で目覚めて何度も思ったことだけど、改めて思う。





 「ジン兄ちゃん! ごちそうしてくれてありがと! 本当に美味しいよ!」


 「おお! 角太郎! 腹いっぱい食べてくれな。」


 「うん……。父ちゃんにも食べさせてあげたかったけど……。もういいんだ。おいらがいつまでもふさぎ込んでいたら母ちゃんを守れないからな!」


 「角太郎……。えらいな。君は……。」




 「あったりまえだよ。おいら、父ちゃんの息子なんだもん!」


 「角太郎は学校には行ってるのかい?」


 「……ガッコウってなんだ?」




 マジか!? 学校を知らないのか……。いや、この『円柱都市イラム』にも学校はある。


 たしか、ベッキーの家がある経済特区には学校があったはずだ。


 「ジン様。貧困層の住民は子どもは働き手として期待されているのです。」


 アーリくんが説明してくれた。


 「そうか……。」


 「ええ。『楼蘭』では家族がそれぞれ教育をしておりますわ。」


 オリンが言う。



 ああ。それほど貧富の差がやはりあるということか……。


 教育って大事なんだよね。




 「アユさん! だれか魔法や読み書きとか教えられるヒト、いないかな?」


 チャーシューを口いっぱいにほおばったアユ・タウロスさんが、こっちに向かってきて申し訳無さそうに返事をした。



 「う……ーん。なかなかそんなヒトはいないかしらねぇ。もしいたとしても、みんな仕事してるからそんな暇じゃないのよね。」




 すると、黒猫のカーロがマタタビ酒を飲みながら、オレに返事をした。


 「あちしの魔法のお師匠さんなら、ヒマしてるにゃよ?」


 「え!? カーロ! そのヒト、紹介してくれないかにゃ!?」


 「いいにゃけど、ヒトじゃにゃいよ? 猫又のネコタマコ先生にゃ!」




 「猫又のネコタマコ先生!? まあ、なんでもいいよ! お願いできるかにゃ?」


 「にゃー。あそこで焼豚がっついてる白いメス猫が、ネコタマコ先生にゃ!」


 「なに!?」




 カーロが指差したほうを見てみると、黒猫ばっかりだと思っていた猫の中に、真っ白なスラッとしたスタイルのいい白猫が混ざっていて、マタタビ酒を美味しそうに飲んでいた。


 オレはその白猫に近づいていって、声をかけた。


 「えっと。あなたがネコタマコ先生かにゃ?」




 「ほぉ!? 黒猫語を解するのか? あにゃた……。」


 「ああ。オレはジンだにゃ。この『黒猫館』の借り主だにゃ。あなたに実は頼みたいことがあるにゃ!」


 「ああ……。その前に、にゃーは『黒猫語』じゃにゃくても、『七雄国語』はわかるにゃー。」


 「え? そうなんだ?」




 そういうが早いか、白猫はスラッとした白くて長い髪のスタイルのいい女の人に姿を変えた。


 「ほら! これで、にゃーも『七雄国語』で話せるの!」



 へー。変身できるのかぁ。猫又だって言ってたもんな。




 「では、あらためて、ここで子どもたちに魔法とか、『七雄国語』とか教えてあげてほしいんだ。」


 「にゃんですって!?」



 うーむ……。オレの耳には翻訳モードで聞こえるから、『黒猫語』も『七雄国語』もにゃーにゃー言ってるのに変わりがないんだよなぁ……。




 「お礼はマタタビ酒、毎日飲めるっていうのでどうだ!?」


 「受けたにゃ!」


 「ふっ……。ちょろいな。」


 「にゃんか言った?」


 「いや? なにも言ってないよ?」




 と、交渉の必要もなく、子どもたちへの教育の先生の適任者が見つかった。


 言葉が通じない場合は、アイの翻訳モードで……とか考えてたけど、ネコタマコ先生には必要ないみたい。


 いや優秀な先生が簡単に見つかってよかった。


 オレは自分が受けたクエストを達成したことで起きてしまった悲劇に対しての、オレなりのけじめというか、事後処理のような何かをしたかったのだ。


 スワンプマンのせいで家族をなくした住民がせめて露頭に迷わないようにすることが、オレにできるせめてものことだと思ったんだ……。


 もちろん純粋な善行ってわけじゃなく、打算の気持ちもあるけどね。



 こうして、働いている間の子どもたちを預かる保育所あるいは学校、『寺子屋』のようなものを提供することで、奥さんたちの賛同を得やすくなり、宅配業の人材を確保することに成功し、今後の『ルネサンス』の活動の第一歩を歩み始めたのであった―。





~続く~

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る