第84話 クエストを受けよう! 『犯人捕縛!』
アイから思念通信が入った。
(マスター! 起きてらっしゃいましたか。ご報告いたします!)
(おお! 何かわかったのか!?)
(イエス! マスター! スワンプマンを精製していたものの正体がわかりました!)
もう犯人、わかっちゃったのか……!?
これは、オレの出番、また無かったってことか……。
(アイ……。で、誰だ? その犯人は!?)
(はい。今そちらに向かっています。しばしお待ちを。)
(あ……。はい。)
これ、じらすパターンのヤツか!
その後、すぐにイシカとホノリ、それにミニ・アイが監視小屋に帰還してきた。
二人の謎の人物(?)を連れて……。
ひとり目は、ウサギの姿をした獣人(?)で、身長は子供かと思うくらいの、オレの半分くらいの大きさで見た目は可愛い感じの者だ。
ふたり目(?)は完全に悪役顔だ。オオカミ(?)のような姿で、サングラスをかけて完全にアニメで出てきたら悪役ってわかるヤツだった。
「えっと……。オレはジンという者だ。冒険者をしている。あなたたちは、何者ですか?」
オレは丁寧に尋ねた。
「え……っと、それはこちらも聞きたいのだがね。あなたがこの恐ろしい女の主人かい?」
ウサギのほうが口を開き、逆に質問してきた。
その瞬間―。
アイからすごい殺気がしたような気がした……。が、気のせいか……?
「あなた……。質問に質問で返すなって、『奇妙な聖典』を読んで学んでこなかったのかしら? ナナポーゾさん?」
「は……はいぃ!! 失礼しました! ええ……。俺様はナナポーゾだ! ハイ・エルフであるゾ!」
「ほら! おまえは? 名前持ってるの?」
アイがもう一匹に語りかけた。
「は……ははぁ……。コヨーテですぅ! コヨーテ・スピリットって言いますぜ!」
ふむふむ。とにかく二人はナナポーゾにコヨーテというんだな。
しかし、ハイ・エルフか……。貴族みたいなものか。
「ナナポーゾさんに、コヨーテさんだね。で、どうして、あなたたちはあの泥人形……スワンプマンを作ってバロン男爵の農園を襲っていたんだ?」
「いやいや。俺様たちは別に農園を襲わせたわけじゃないんだよ! ただスワンプマンの実験をしていただけさ!」
「そうですぜ! ナナポーゾの兄貴はただ実験してただけなんだぜぇ!」
「ん? どういうことかな?」
「このスワンプマンを生み出した魔法が、レベル7の光魔法『テン・リトル・インディアンズ』という魔法なんだけど、古に失われた呪文なんだ!」
「珍しい呪文……ということか?」
「そうなんだよ。その詠唱呪文はもう古い文献にも載ってないし、ましてやその呪文のしらべも今となっては語り継がれてなくってね……。」
しらべ……ってメロディのことか……。
『One little, two little, three little Indians.Four little, five little, six little Indians.Seven little, eight little, nine little Indians.Ten little Indian boys!』
え? アイが突然、英語の歌詞で歌い出す。
ああ、それはマザーグースの『テン・リトル・インディアンズ』だわ……。
「なんだと!? そのしらべは……!?」
「アイ! それって、あれだよね? ワンリトル、ツーリトル、スリーリトル、インディアンズ♪ ……って歌だよね!?」
「イエス! マスター! そのとおりです。マスターの子供の頃の『童話の聖典』にありましたわ!」
なつかしいなぁ。その歌……。母さんが歌ってくれたっけ……。
教育テレビの『みなさんの歌』の番組でやってたなぁ。
よぉーく覚えてるよ。
すると、ナナポーゾさんがこの世界の言葉、『七雄国』の言葉で歌い返した。
『一人、二人、三人、いるよ。四人、五人、六人、いるよ。七人、八人、九人(きゅうにん)、いるよ!十人のインディアンボーイズ!』
すると、あたりの地面から泥人形がむくむくと浮かび上がってきて、這い上がってきた。
彼らに意思はなく、一糸乱れぬ形でアイとナナポーゾの歌に聞き入ってただ立ち尽くしていた。
ナナポーゾが歌い終わり、魔力を断つと、その泥人形たちが音を立てて崩れ落ちた。
「こ……これだ! このしらべだ! 我が意に従うスワンプマンだ! 成功だ! ……ってなぜこのしらべを知っていたのだ!?」
「これは我がマスターの家に古くから伝わる聖典に記録されていたのですわ。」
「ジンさん……だったね? あなたがたは魔道士の家系なのか……? ふーむ。今度ぜひお宅にお邪魔したいくらいだけどね。」
「マスター。このナナポーゾは『エルフ国』の者だと言っております。身元確認をしましょう。」
「ああ! 俺様は『ユグドラシルの長老』が一人、タイオワ様に仕えし者だゾ!」
『ユグドラシルの長老』だって!?
まあ『エルフ国』の人なら、ランダさんに聞けばわかるか。
「イシカ! ちょっとランダさんを呼んできてくれ。」
「了解である!」
まだ北の監視小屋で、スワンプマンの氷漬けを交代で見張るための引き継ぎをしていたランダさんを、無理やりイシカがかついで南の監視小屋に戻ってきたのは1分後だった。
ランダさんがあまりの速度に泡をふいていた。
ああ……。保護モードで運ぶよう指示するの忘れてた……。
ちょっと休憩をとったランダさんに、ナナポーゾさんとコヨーテさんの面通しをしてもらった。
「あ……。間違いないです。ネイチャメリカ種族の長老・タイオワ様のところにいたナナポーゾですね。」
「お……おお! 魔女ランダさんじゃないスか!? そういや『円柱都市イラム』で商売してるんでしたねぇ?」
「おまえはコヨーテか……。また怪しげな二人がそろって何やってるんだ?」
「あ。ランダさん。あのスワンプマンは、このナナポーゾさんの実験で作り出されたものだったんだよ。」
「なんと!? ナナポーゾ! またおまえは妙な実験だとかいたずらだとか……タイオワ様に言ってお仕置きしてもらうぞ!?」
「おい! タイオワの爺さんには黙ってろよ!? ランダ、貴様もハイ・エルフの俺様になんという態度だ!?」
「いやいや。今回はバロン男爵の農園に被害が出ているんだ。バロン男爵からタイオワ様に口添えしてもらうぞ! 覚悟しておけ!」
「そ……そんなぁ……。弁償するから、勘弁してくれーーーっ!」
「当たり前だっ!! ……はっ! ジンさん。これは誠に感謝します。こんなに早く術者を特定し、捕まえてくださるとは……。いや、驚きました。」
「いや。オレというより、アイが優秀だったからだよ。」
「マスター……。そんな、もったいなきお言葉……。」
「ジンさん……。自分の手柄も部下を立てて、謙遜されるとは、人間ができている御方だ。『魔協』には私からも悪いようにはならないよう口添えさせていただくわ。」
「それは、ありがたいな。オレは悪い魔法使いじゃないよ?」
「では、このナナポーゾとコヨーテの二人は私が護送します。冒険者ギルドには私の方から報告しておきますので、後から報奨金を受け取ってください。」
「わかった。それじゃあ!」
オレたちは無事にクエストを達成したのだ。
そして、オレたちは『円柱都市イラム』に戻るのだった……。
「……あれ。誰か忘れてるような……。」
「マスター。気のせいじゃないですか?」
「ジン様。気のせいであるぞ!」
「ジン様。気のせいなのだ!」
「そっかぁ……。そうだな。」
「……っくしゅん!」
「アーリ様。起きてください。もうお昼ですよ?」
置いて行かれた二人が起きたのはそれから数刻後のことであった―。
~続く~
©「テン・リトル・インディアンズ」(曲;アメリカ民謡・マザーグース/高田三九三:訳詞)
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