第83話 クエストを受けよう! 『ナナポーゾ登場』


 バロン農園に朝の光が差しはじめ、辺りが明るくなってきた。


 徹夜で氷呪文を唱えていたランダさんがちょうど疲れ切って倒れ込んだ。


 泥人形はまだ凍結しているが、氷が溶けてしまえばまた動き出して襲ってくるのだろうか……。




 「ランダさん。お疲れ様! えっと引き継ぎで魔法使いが来ることになってるんだよね?」


 「はぁ……。とりあえず、このあとは、魔女ニ・カロンと魔女ラルンを交代制で当番に当たらせるとするわ。」


 「しかし、このスワンプマンを作り出した術者を突き止めないとだな。」


 「それは、引き続きジンさんにお任せしますわ。」


 「そうだな。まだ解決……というわけじゃあないからね。依頼は最後までやり遂げるよ。」




 「アーリくんたちも南の監視小屋に戻ってきてるだろう。オレたちも戻ろう。」


 「イエス! マスター!」


 「了解であるゾ!」


 「わかったのだ!」




 こうして、オレたちは南の監視小屋まで引き返した。


 あ! アーリくんとオリンだ!


 アーリくん……、相変わらずしっぽをぶんっぶんに振ってる……。喜んでるみたいだ。




 「ジン様ぁー! こっちは何もなかったですぅー!!」


 「ジン様もご無事で。……何かありました?」


 「うん。こっちは大変だったよ。」




 オレはアーリくんたちに昨晩の泥人形の出来事を説明した。


 アーリくんたちは南から西の方を見回ってたみたいで、まったく何も気がつかなかったとのことだ。




 「……そんなことがあったんですか!? それは危険な魔物ですね……。」


 「アーリ様。魔物というよりは、魔法で動く『人形』でしょうね。」


 「ああ、そうか。ギルドの試験のときの『マルタドール』のようなものか!」


 「ジン様。そのとおりですわ。」




 スワンプマンか……。術者を突き止めるにはどうしたらいいのか……?


 なにか手がかりはないものか?


 そういえば、泥人形たちは北の方角から来ていたな。


 とりあえず、北の方角を調査に行くしかないか……。




 「アイ! 北の方角を調査してくれ!」


 「マスター。すでに調査済みでございます。襲ってきた泥人形の『泥の成分』を分析しました。」


 「おお! さすがはアイだ! それで!?」


 「ぽっ……。こほん……。北の方向、およそ20ラケシスマイル(約32km)の地点の沼地の『泥の成分』と99.987%の割合で一致しました。」


 「その北の沼地って、昨日の夜、アイが最初に動くものを感知したって言ってた場所だよね?」


 「イエス! マスター! そのとおりです。」




 ふむ……。すぐにでも調査に向かったほうがいいか……。


 しかし、オレたちは昨日から動き詰めだ。少し休憩してからのほうがいいか。


 判断に迷うなぁ……。




 (マスター! ワタクシとイシカ、ホノリで調査に向かいましょう! ワタクシたちは睡眠は不要でございます!)


 (え……? ああ、そんなこと言ってたっけ? でも、いいのか?)


 (もちろんでございます! マスターの手足となって働くことこそワタクシたちの喜び! ねぇ? イシカ、ホノリ!)




 (ジン様! イシカのお任せあれ!)


 (ジン様! ホノリにおまかせなのだ!)


 イシカとホノリも思念通信を聞いていたみたいだ。グループチャットのようなものか……。






 「わかった。じゃあ、オレとアーリくん、オリンはちょっとここで休憩させてもらおう。その間、アイ、イシカ、ホノリは北の沼地の調査を頼めるかい?」



 「イエス!! マイ・マスター!」


 「了解である!」


 「了解なのだ!」


 三人(?)は息を合わせたかのようにぴったり元気よく返事をした。






 ****



 マスターはお眠りになられた。


 ワタクシ、アイとイシカ、ホノリはバロン農園の北の沼地へ急ぐ。


 マスターには伝えてはいなかったが、実はこの沼地に生命体2体の確認をしていた。


 責任感の強いマスターのことです。この事実を伝えたら、休憩も取らずにすぐにご自身も向かうとおっしゃったでしょう。


 マスターには休息をゆっくりとってもらいたい。


 ゆえに、マスターには黙っていたのだ。




 「イシカ。ホノリ。沼地はまもなくです。注意を怠らないように!」


 「はい。わかりました! アイ様! 索敵モードに切り替えます!」


 「了解です! わかりました! 戦闘モードに切り替えます!」



 ふむ。よろしい。イシカもホノリもわかっていますね。




 前方に沼地が見えたところで、2つの影を発見した。


 ひとつはウサギ、ひとつはコヨーテでしょうか。


 「急速! 前進です!」


 「「了解!!」」






 「アナタたち! 何者ですか!? 警告します! 速やかに返答せよ!」


 ワタクシは警告をする。


 いついかなる時もこちらの非になる行為は慎むべきです。


 警告を無視すれば……。その時は、実力行使ですが―。




 「な……なんだ? おまえたち!? 何者と、あ! 問われて答えるバカはいない!」


 ウサギがのたまう。


 「そのとおりですぜ! ねぇ! ナナポーゾの兄貴!」


 コヨーテがしゃべった。



 「あ! コヨーテ! 貴様! バカなのか? おまえが俺様の名前を呼んでどうすんだ!?」


 「おお! 今、兄貴だってオレっちの名前、呼んでますぜ!」


 「まあいい。コヨーテ! おまえ、あいつらをどこか追い払ってこい! 実験の邪魔だ!」


 「へーい! ナナポーゾの兄貴! 任せてくださいですぜ!」




 ワタクシは簡単な計算式で確認し、そして、理解しました。




 目の前の二人は、バカであると―。





 ****



 数刻後―。




 オレとアーリくん、オリンは監視小屋で仮眠をとっていた。


 冷凍睡眠から目覚めてから、オレは寝付きがいい。


 なぜなら、眠ろうという意思を示せば、体内の超ナノテクマシンが快適誘導睡眠モードに切り替わり、リラックスした気分になって、コテッと眠れるからだ。


 さらに言うなら超短時間でもぐっすり寝たかのような快眠を得られ、身体の疲れは一気に吹っ飛ぶのだ。




 まあ、身体の疲れといっても、体内の医療用超ナノテクマシンによって老廃物やコレステロール、疲れの原因は常に除去されており、その疲れ自体がほとんどないのだけれどね。


 しかし、習慣なのだろうか、夜になると眠りたくなってくるんだ。


 こればっかりは、人類が長きその歴史にて身に染み付いたバイオリズムによるものだろう……。




 オレはきっかり1刻後(約2時間後)、目がしゃきっと覚めた。


 横を見ると、アーリくんとオリンが寝ぼけながら抱き合っている……。



 「むにゃむにゃ……。オリン……好きだよぉ……。」


 「あーれー! アーリ様。お戯れをーーー……。すやすや……。」




 くぅ……! リア充め!


 しかし、オレにとっては、大きなハムスターが二匹じゃれあって寝てるようにしか見えない。


 何も羨ましくも感じないんだよなぁ……。




 人間タイプの種族、たとえば、スーパーヒーロー族や、エルフの一部などであれば、オレも何かこう(性的に)感じるところはあるんだが……。


 いまのところ、人間種のヒト族にはまだ出会っていない。


 『法国』か『帝国』にはいるとアテナさんが言っていたな。


 いずれ、こちらでの活動が一段落したら、『帝国』か『法国』に遊びに行くのもいいかもしれないな。



 そうだな。『エメラルドの都』の『オズマの法使い』に会いに行くのもいいかもしれない……。





~続く~



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