第64話 ルネサンス黎明期 『砂竜を捕獲に行こう!その4』
緊張が続いたが、急にハスターが大声で笑い出した。
「わっはっはっは……! まあ良いわ。それより、砂竜のボス・ガレオンを捕まえたか……。
こちらも今日は砂竜を討伐することが目的であった。そうなると、よくやってくれたと褒めるべきだな。」
ハスターはそう言って、こちらを向いてニヤリと笑う。
「ジンよ! 余からも褒美を与えよう。」
「え……? いや、いらないですよ。オレたちはオレたちの目的で砂竜を捕獲しに来ただけなので。」
「ふむ。謙虚だな。して、その目的とやらは何なのだ?」
「いやぁ。砂竜を移動の手段にしようと思ってね。」
「な……なんだと!? 砂竜を移動に使うだと?」
ハスターは驚いた様子だ。
「興味深い……。実に興味深い……。移動手段ということは、交易だな?」
「さすがですね。その通りです。『楼蘭』の特産物を交易で大々的に行いたいものでね。」
「なるほど。では、交易路には余の配下である『無名都市』も含めよ。『海王国』もそちの商圏に入ろうではないか?」
「おい! ハスター様がこうおっしゃっておる! 喜んで受けるがいい!」
お供のバイアクヘーががなりたてる。
うーん。バイアクヘーの態度はムカつくところもあるが、『海王国』とも交易ができるのは、こちらとしても願ったり叶ったり、えっとタタリモッケだっけ? ……なんだよな。
「もちろん。それはこちらこそお願いしたいことです。」
「うむ。では、余の配下の者から、『無名都市』に大使を遣わす。後ほど、商売の話をするがよい。」
「わかりました。では、『無名都市』にオレのほうも誰か常駐させるとしますね。」
「よかろう。では、バイアクヘー。帰るぞ。」
「ははっ! ……貴様ら、命拾いしたな!?」
バイアクヘーは捨てゼリフを残し、ハスターを乗せ、また『無名都市』のほうへ飛行していった。
「じゃあ、オレたちも『楼蘭』へ帰るとするか。」
「イエス! マスター!」
「帰るである!」
「帰るのだ!」
オレたちはそこから帰るのだった……。
「いやいや! 私を置いてくのかいっ!」
アメミットが盛大にツッコんできたので、かわいそうだから、『無名都市』まで送っていってあげることにした。
「グルルルルルルッ!」
あ。砂竜が目覚めたようだ。
「マスター! 翻訳モードにいたしますか?」
「ああ。頼む。」
翻訳モードに切り替えられたことで、砂竜の言葉がわかるようになった。
「オレはジンだ。おまえは砂竜のボス・ガレオンだな?」
「な……!? 我の言葉がわかるのか!?」
「ああ。知能はあるようだな。えっと。嫌ならいいんだけどさ。オレの下に来て仕事してくれないか?」
「なんだと? 我に取引を申し出るというのか?」
「ま、そういうことだな。報酬は……美味い飯だ!」
「我はグルメだぞ? サンドワームとかゲテモノは食わん。牛の丸焼きを所望するが用意できるのか?」
牛が好きなのか……。砂竜って意外と人間と同じなのかな、食の好み。
「ああ。もちろん、かまわないぞ。ちょうど、うちには美味しいマツサカウシもコウベウシも飼ってるからな。」
「ほう! そんな種の牛は聞いたことがないの。ぜひ味わいたいものだ。」
「なら……。YOU! うち来ちゃいなよ!」
「ああ。では、世話になろう。」
こうして、砂竜のボス・ガレオンがオレたちの仲間になった。
竜種は意外と知能が高いこともわかった。
「しかし、ジン様は、いったい何者なんだ? この我を簡単に身動きできなくするなど、上位竜種でもそう簡単にはできんぞ。」
「ん? オレか? オレはただの人間だよ。」
「人間種だと? そんなバカな! ただの人間種がこの砂竜に敵うはずもない。」
「ガレオン! マスターに対して詮索はよしなさい!」
ミニ・アイがそう言うと、周囲の超ナノテクマシンが、ざわつき出した。
「む……むぅ……。わ……わかった。ジン様。貴方様が何者であろうと、従うことには変わりはしない。よろしく頼むである。」
「ああ。わかった。これからよろしくな。」
「砂竜をも従えてしまうとは……。ジン様……恐ろしや、恐ろしや。」
アメミットがこの時、さらなる恐怖をオレたちに感じることとなっていたのには、まったく気にしないオレたちだった。
竜馬でまた『無名都市』に向かうことにする。
砂竜のボス・ガレオンが竜馬もオレたちもみんな乗せて運んでくれるのだった。
竜馬よりも速い! おそらく時速100kmは出ているだろう。
本気出せばもっとスピードを出すことも可能のようだった。
まあ、それはゆくゆく試せばいいんだけどね。
「おお! 砂竜! 速いであるゾ!」
「むむ! 砂竜! 速いのだゾ!」
「きゅいきゅい!!」
竜馬もびっくりしているようだ。
「こここ……これは!? あひゃひゃはやひゃ!!」
アメミットは恐怖でちょっと変な声をあげていた。
「ひゅぅ! これはけっこう気持ちがいいね。ガレオン! いいぞ!」
「がっはっは。我が背に乗ったのはジン様が初めてのことだぞ!」
「おお! そうなのか! いいね!」
こうしてすいすいと砂漠を快走する砂竜でオレたちは、『無名都市』にさっさと着いたのだったー。
◇◇◇◇
バイアクヘーに乗り、『無名都市』に戻ったハスター。
クロコ・クローラー種族の者たちとその女王ヤヒロが迎えに出てきた。
「おかえりなさいませ。ハスター様!」
「うむ。ご苦労。」
「砂竜は無事、討伐していただけましたか!?」
ヤヒロがそう質問する。
「くくく……。砂竜はすでに先に捕獲されていた。余が出るまでもなかったわ。」
「なんと! では、あの……ジン様が? やはりあの御方は魔神……か!?」
「なに? 魔神だと!? ヤツはネズミの町から来たのではないのか?」
「はい。あのジン様はこの砂漠の中心にあるダークネステントから来られたのです。あそこは古代から魔神の棲まう場所と伝え聞いております。」
「くくく……。そうか。ヤツはダークネステントの魔神ゆかりのものだったか……。」
ハスターは邪悪に微笑みながらそう言う。
「ひえ!? ダークネステントの魔神って言うと……!?」
バイアクヘーが驚いてハスターに質問する。
「虚空の魔神……。そう呼ばれておる。何者かはまったくわからん……が、世界を滅ぼす力を持った者であると言われておる。かの魔神王に関係しているやもしれぬな。」
「な……なるほど。では、その魔神と取引することは我々にとって良いことでしょうか?」
バイアクヘーがハスターに問う。
「ふふふ。邪神が出るか、外なる神が出るかってところか……。」
「ヤヒロよ。あとで我が配下のイタカをよこすゆえ、イタカを全権大使としてあのジンとよしみをつなぐのだ。いいな?」
「ははっ! かしこまりました! ハスター様!」
「イタカ様ですか……。彼の者と争いにならなければ良いですがねぇ。」
「ふん。あのジンが、余の考えている通りのものならば、イタカに遅れを取ることはあるまいて。」
ハスターは何ごとか考え事をするかのようなポーズをとり、やがて、頷いた。
「では、余は『キトル』に帰るぞ!」
「は!」
「お気をつけて!」
こうして、ハスターは、地下の『無名都市』の水路から、帰っていったのだったー。
帰る途中、ハスターはつぶやく……。
「ヤツが旧世界からの異物……『オーパーツ』であるならば、次元の変わり目が来るのやもしれぬな……。
……まあよい。余にとって地球などどうでもいいのだからな……。」
ハスターは不敵に笑うと、さっそうと地下水流に乗り、彼方へ消えていくのだったー。
~続く~
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