第63話 ルネサンス黎明期 『砂竜を捕獲に行こう!その3』


 「な……なんなんだー!? ゴ……ゴーレム!?」


 アメミットが驚き、目をまんまるにしている。


 突然、目の前に現れた巨大な土偶にびっくりするのも、まあ当然か。




 「グロロォロロロロロノロロォオオオ!!」


 砂竜のボス・ガレオンがアラハバキに襲いかかってくる!


 だがー。


 アラハバキが砂竜に向かって真正面から飛び蹴りを食らわす!




 まるで、怪獣と戦うあの宇宙から来た戦士のようだ。


 「いっけぇーーー! アラハバキ!」


 「Sure(シュア)!」


 ん……? 今の英語のSure(シュア)だよね。違う掛け声にも聞こえるが気のせいだろうか。




 砂竜とアラハバキがその巨体同士で大乱闘を繰り広げる。


 アラハバキが砂竜を投げ飛ばすと、砂竜はすぐに立ち上がり、アラハバキに向かって突進してくる。


 アラハバキがそれをがっしりつかみ、まるで大相撲の横綱同士の大一番のように、がっぷり四つに組み合った。


 砂竜もアラハバキもどちらも一歩も引かない……。




 「さあ! のこった! のこった! のこぉーった!!」


 思わず、オレはそう言って、勝負に見入ってしまっていた。


 「マスター! 近いです! もう少しお下がりを!」


 ミニ・アイがそう忠告してくれる。




 「このヒトら……。やっぱ魔神だ……。砂竜にまたく恐れることがないだなんて、明らかにおかしい。」


 アメミットは一人恐怖にさらされ続けていたのだ。


 サイコ・ロープで束縛されているアメミットは身を縮こまらせる。




 アラハバキが上手投げを決めた。


 だが、砂竜がしっぽをぶんっと振って見事にくるりと受け身をとって立った。


 そして、そのしっぽをアラハバキに叩きつける。


 アラハバキにしっぽを巻きつける。


 ギリギリギリ……。


 アラハバキが力を入れてその場に踏ん張り、踏みとどまる。




 「アンギャァアアアーーーッ!」


 砂竜がアラハバキをしっぽで持ち上げ、そのまま地面に叩きつけた!


 アラハバキが地面に転がったその上から、砂竜がジャンプして体当たりをした。


 ……フライングボディプレスかよ。




 体を入れ替え、立ち上がったアラハバキが、向きを変えアラハバキの方に向いた砂竜に対し、走り出して頭からジャンプした。


 ジャンピング・クロス・チョップだ!


 その両手を交差してチョップを決める。


 砂竜が吹き飛ばされた。




 うん……。見てて楽しいけど、そろそろ捕らえないとね。


 「アラハバキ! 捕獲しろ!」


 「ラジャー!!」


 アラハバキがそのオレの指示を受け、砂竜の背後に回り込んだ。




 そして、そのまま背後から砂竜を抱え込み、弧を描くように後ろに反り返り、地面に叩きつけた!



 ズガガァガーーーン!!




 今のは、バックドロップだ!!


 アラハバキはホノリの格闘術と、イシカのメカ攻撃の両方を兼ね備えているのか。




 「グギュギュユギュゥ~~!」


 砂竜がようやく暴れるのをやめた。


 オレは、アラハバキが砂竜を抑えてる間に、超ナノテクマシンのサイコ・ロープで縛り上げた。




 「ふぅ。砂竜、ゲットだぜ!」


 「マスター! さすがです!」


 「やったである!」


 「やったのだ!」


 いや、オレは見てただけなんだけど……。




 「わ……、わたしはもう解放してくださーい!」


 アメミットが叫ぶ。


 あ、忘れてた。


 オレは、アメミットの束縛をほどき、解放してやる。




 「ありがとうございます。いやはや、すごかったですね。イシカ様にホノリ様はゴーレムだったのですね。」


 「じゃ、オレたちは用事が済んだからさ、もう帰るわ。」


 「あ、いや。そ……そうですか。できれば我が街へ寄っていただければ、お礼など差し上げたく存じますが……。」


 「うーん。いらないけどな。別に君たちのために砂竜を捕獲したわけじゃないしな。」


 といったことをやり取りしていると、『無名都市』の方から、何かが近づいてくるのに気がついた。




 空を飛行しながらやってきたのは、蟻が大きくなったようななんとも言えない背中の蝙蝠のような翼を持った有翼生物と、その生物の上に乗った黄色の衣をまとった暗い影の謎の男だ。


 二人、いや、二匹か……は、オレたちのいるあたりまで近づいてくると、地面に降り立った。


 その有翼生物がすぐにしゃがみ込み、頭を下げた。


 その有翼生物は、体長2・3メートルの巨大な怪物で、一見蟻のようだが触角は短く、人間のような皮膚と目、爬虫類のような耳と口、肩と尻の付根辺りにそれぞれ鋭い鉤爪が付いた手足を左右2本1対ずつ持っている。


 「こちらにおわすはハスター様である。頭が高い! 控えおろう!!」


 その蟻のような有翼生物がそう言った。


 「ハ……ハスター様!! これはまさか皇太子自ら、起こしいただけるとは、何たる幸せか!」


 そう言ってアメミットが頭を下げた。……といってもワニだからもともと頭は下げてたんだけどね。




 「お……おまえたち! いや、ジン様も頭が高いですぞ! こちらにおわすは『海王国』の皇太子・ハスター様であらせられるぞ!」


 アメミットが必死な顔(ワニ顔なので必死かどうか実のところはよくわからない)をして、そう叫んだ。


 「ハスター? ああ、そういえば、最初そんなこと言ってたね。『海王国』の者なのか……。」


 ハスターといえば、オレがよくやっていたTRPGで出てきたクトゥルフ神話の『邪悪な皇太子』、『黄衣の王』のハスターか……。




 「おまえたちは、何者だ? 砂竜のボス・ガレオンを捕縛するとは……!?」


 「オレはジンという者だ。あなたは『海王国』の方ですか?」


 「そうだ。余は『海王国』の王族、ハスターである。」


 「そうでしたか。失礼しました。オレはこの北にある『楼蘭』の町から砂竜の捕獲にやってきた者です。」


 オレは一応、頭を下げた。



 「ほう? 砂竜をその人数で……か。しかも、今さきほど、この周囲に魔力をまったく感知しなかった。そこのゴーレムを操ったか。」


 「そのとおりでございます。」


 「で、あるか……。」




 オレはすぐにこのハスターと名乗る『海王国』の者が非常に危険な存在だということに感づいた。


 さきほどの砂竜は決して弱くはない。


 ただ、アラハバキが規格外だっただけだ。


 そして、このハスターは、お供を一匹連れてきてはいるが、その砂竜を単独で倒せる自信があったと見える。


 さらに、このアラハバキを見てもまったく動じていないところを見ると、アラハバキでさえ少なくとも渡り合う自信があるのであろう。


 それほど、ハスターの態度は余裕さえ感じさせるものだった。




 「む……。貴様……。以前、余と邂逅したことがあるな? 覚えておるぞ? この地に舞い戻りしは如何なる目的か!?」


 なぜだろうか? ハスターがオレと前に会ったことがあるとか言い出した。


 「いや……。オレはこの地に来たのは初めてだし、あなたに会ったのも今が初めてだが?」


 ギロリとその邪悪そうな瞳でオレを睨むハスター。



 しばらくの間、緊張と静寂が続いた。




 「マスターはおまえなどには会ったことはない! おまえの勘違いだわ。」


 その沈黙を破ったのは、ミニ・アイだった。


 「ほお? 人形か魔道具か? いや……、精神波動を感じる。ナニモノだ?」


 「ワタクシはアイ! マスター・ジン様のパートナーにして守護者です。そちらこそ、マスターの御前である! 控えるが良い!」


 まったく相手を歯牙にもかけない毅然とした態度と、堂々とした口ぶりでアイがハスターに告げた。



 いや……。アイさん……。オレはそんなに偉くないから、あんまり相手の機嫌を逆なでするようなことを言っちゃダメだーーー!


 オレはそう心のなかで思った。


 (は! おまかせを! いざとなればコヤツをすぐに消滅させてくれますわ!)


 アイが思念通信で伝えてきた。


 いや……。ぜんぜん伝わってないわ。これ。






 「ふぅむ……。人違いと申すか……?」


 「ハスター様! こいつら嘘ついてるんですぜ! 殺っちまいましょうか!?」


 「しばし黙れ! バイアクヘーよ。」


 「ひぃ! わっかりました!」




 そして、またしばらくの間、緊張と静寂が続くのだったー。



~続く~



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