第65話 ルネサンス黎明期 『砂竜を捕獲に行こう!その5』


 オレたちが『無名都市』に戻った時には、すでにハスターとバイアクヘーはいなかった。


 地下水路から帰国したのだという……。


 そして、地下都市である『無名都市』の岩肌にある暗い洞窟の入り口から、『無名都市』に案内される。


 その間、砂竜ガレオンはおとなしく外でお留守番だ。




 「ジン様……。天井にお気をつけくださいませ。我らクローラー族に合わせて天井は低く作られておりますゆえ。」


 アメミットがそう注意する。


 そのとおり、非常に天井が低く作られた洞窟を少し腰をかがめながら進んでいく。


 先に扉が現れ、そこの下の方に丸い穴が見える。


 アメミットが這いずりながら、そこへ近づき、何やら合言葉めいたことを言った。




 「風!」


 「ハスター!」



 扉が開いていく……。


 風といえば、谷じゃないのか……?




 出てきたクロコ・クローラー種族の者が、アメミットに挨拶し、オレたちを中へ案内する。


 この地下都市は、居住空間や調理場、ワイン醸造所、礼拝堂、階段などから成る多層構造になっていた。


 さらに通気口や水路といったインフラを備えた巨大居住空間で、クローラー種族は危険が迫ると家畜を連れ、生活必需品を持ってこの地下都市の地下水脈部分に逃げ込み、丸い石の扉で入り口をふさぐと、脅威が去るまで籠城、または地下水路から海へ脱出することができる。


 クローラーたちは家畜として、上半身が羊で下半身が魚の海羊(シーシープー)を飼っていた。


 なかなかに文明的な生活をしている様子で、知能も高いと思われる。





 「けっこう入り組んでるんだな。」


 「ええ。最も深い場所までは、100ドラゴンフィートほどありますね。全部で40階層になっていて、その最下層には地下水路があります。

地下水脈につながっていて、ナンム海までつながっています。」


 「ふぇぇー。すごいな。カッパドキアも真っ青な地下都市だな……。」


 「ああ。カッパ・ド・キアですか。あの水棲種族の河童の支配しているという『高天原国』の都市ですな? ジン様は行ったことがあるのですか?」


 「え? 河童が棲んでるカッパ・ドキアだって!?」


 「ええ。カッパ・ド・キアといえば、そのことじゃないんですか?」


 きょとんとしたワニ顔しやがって……。




 それにしても、河童か……。やっぱ『高天原国』は、日本を色濃く反映しているような気がする。


 東方のコタンコロの作戦が上手く行って、道が開ければ行ってみるか。


 


 「しばらく歩くと、宮殿のある広い場所に出た。


 「女王ヤヒロ様の宮殿でございます。」


 オレたちはすんなり中へ案内され、ヤヒロの待つ女王の間へ通された。






 「おお! ジン様。砂竜を討伐するどころか、手懐けられたとか? さすがでございますわね。」


 「ああ。ま、お互いの利益になったってことだね。」


 「ええ。ハスター様から聞き及んでます。これから交易が開始されると?」


 「そうだな。ま、これからよろしくね。」




 「しかし……。クローラー種族は『海王国』の庇護を受けてるんだったね。」


 「はい。さようです。ハスター様はさきほどお帰りになられましたが、大使をよこすと仰せでございました。」


 「ああ。それはオレも聞いてるよ。オレのほうも後で誰かヒトをよこすよ。」


 「それにしても、地上の様子がこの地下でもわかるの?」


 「それは、魔鏡がございますゆえ。」




 魔鏡だって!?


 「魔鏡!? それってどういうものなの?」


 「それは、遠くの景色を鏡に映し出すことができる魔道具でございます。」


 「それはすごい! へぇ。それ、オレも欲しいな。」


 「では、交易が開始されたら、ぜひお買い求めくださいませ。」


 「あら? くれちゃったりしないのか……。商売上手だね。」




 「ふふふ。弱き種族はたくましくなければなりませぬゆえ。」


 「なるほどね。月氏といい、クロコ種族といい、商売に長けてるんだな。」


 「ああ。月氏もそうですね。我々とも以前は交易が盛んでありましたね。だが、どこか移動してしまったゆえ、最近数百年は交流はなかったですね。」


 「あ! 『楼蘭』が引っ越ししたからかなぁ……。」





 こうして、オレたちは『無名都市』のクロコ・クローラー種族および『海王国』と交易をすることになり、砂竜も捕獲することができたのだったー。





 ◇◇◇◇


 オレたちは『楼蘭』への帰路についた。


 行きの道はラクダバだったから少し時間がかかったけど、帰りは砂竜ガレオンに乗って帰ったから、半刻程度(1時間)で着いたのだ。


 砂竜は本当に速い。


 ガレオンのヤツも張り切ったのかもしれないけど。





 「ぐはは。砂竜たる我は砂漠で最速であるぞ!」


 なんてちょっぴり自慢げに言ってたな。


 まあ、空から帰ればもっと速いんだけど、地上、特に砂漠ではたしかに最速かもしれないな。


 ガレオンは町の外に待機してもらう。




 「ただいまぁー。」


 「ジン様。おかえりなさい!」


 「おかえりなさい!」


 『楼蘭』の町に入ると、家がずいぶんと建っていて、もう町並みが整いつつあった。




 「ジン様ぁ!! おかえりなさぁーい!!」


 可愛いメイド姿のヒルコがぴょんぴょん跳ねるように駆け寄ってきてオレに抱きついてきた。


 「ヒルコ! ずいぶんまちづくりが進んでるね!?」


 「はい! ライゴウ、テッソ、ミイデラのガテン系月氏が働き者なんですよぉ。」


 そう言ってると、そのライゴウたちがズッキーニャと一緒にやってきた。






 「おお! だんな! おかえりで!」


 「無事でなにより。」


 「おかえりなさい。」


 「お……おか……ぃ……。」


 みんな、笑顔で迎えてくれた。





 「ほら! ズッキーニャもちゃぁんと挨拶しねぇ。」


 ライゴウがズッキーニャを肩車にして持ち上げそう言う。


 「おか……。おかえりなさい!! ジン様!」


 おお! ズッキーニャが大きな声を出した。




 「ああ。ただいま。ズッキーニャ。いい子にしてたかい?」


 「は!! わた……わたしはいい子だもん! 悪い子はダメなんだから!」


 あ……! これはしまったな。ちょっと思い出させる言い方をしてしまったようだ。


 「ああ。そうだね。いい子だね。ズッキーニャ。じゃあ、引き続き建築と守備のほうよろしくね。ヒルコ! ズッキーニャ!」


 「はい! おまかせを!」


 「わかったよー。」


 ヒルコもズッキーニャも返事がいいね。うん。





 『楼蘭』のみんなは今、4つに分かれて働いている。


 まず、旧鼠さんがまとめてる農業部門。


 ここはラクダバの牧畜や、スナイモやココヤシの栽培がメインである。


 今後は、『霧越楼閣』のコタンコロの農場とも連携をしていくのが課題かな。




 次に、ライゴウ、テッソ、ミイデラのガテン系月氏がメインの建築部門。


 ヒルコやズッキーニャもお手伝いしているとのこと。


 もうすでに8割方、町並みは整っている。




 続いては、ジュニアくんとモルジアナ、ジロキチが担当している行商部門。


 すでにジュニアくんとジロキチは『エルフ国』の『黄金都市エルドラド』に向かって旅立ったみたい。


 ジュニアくんはマジメだな。しばらく『楼蘭』でゆっくりしてもよかったのにな……。


 交易ルートを再開し、地道に商売を広げていくのが、今の目標だ。


 ここの部門の者らは『吉祥鼠衆』と呼ばれる。




 最後に宅配業をこれから進める新規事業部門だ。


 アーリくん率いる『大黒鼠衆』が担当する。


 といっても、まだなんにも動いていない状況だ。


 オレたちが砂竜を捕獲しに行っていたからな……。



 アーリくんの家にオレたちはさっそく向かう。




 「アーリくん! 今、帰ったよ!」


 アーリくんの家の扉を勢いよく開けた……!



 「はわわわ……!!」



 アーリくんが若いネズミを家に連れ込んでいた……。



~続く~



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