第55話 ルネサンス黎明期 『楼蘭帰還』


 コタンコロが悠然と進んでいくと、前方に、砂漠の真ん中にオアシスが見えてきた。湖があって、緑もいっぱい生い茂っている。


 石造りの家が十数軒、立ち並んでいるのが空から見えてきた。


 『楼蘭』の町だ。




 つい先日もこうやってこの町に来たんだよなぁ。


 あの時は、アーリくんを乗せて―。


 で、今はジュニアくんとジロキチを乗せてだけどね。




 『楼蘭』の町に降り立ったコタンコロの姿を見て、町の月氏の人々が我先にたくさん姿を現した。


 みんな、歓迎してくれている。


 いっぺんにたくさんの月氏の人々が集まってきた。


 ん? ん? 前に来たときより多くないか?




 「あれ? ジュニアくん。『楼蘭』の町って、こんなに人数いたっけ?」


 「ああ。たぶん、子どもが生まれたんでしょうね。月氏種族はたくさん子どもを生む子だくさんの種族なんです。」


 「へぇ。それじゃ人数が増えて大変なんじゃないか?」


 ねずみ算式に増えるっていうか・・・。






 「まあ・・・。それでも弱い種族なので、魔物に殺されたり、旅の途中で死んだりと、成人するのも少ないんですよ。」


 「そっか・・・。それは悪いこと聞いたかな。」


 「いえいえ。ぜんぜん構いませんよ。さあ! 旧鼠(きゅうそ)長老のところに行きましょう!」




 「ジュニア様! ジン様! おかえりなさい!」


 「よくぞご無事で!」


 アーリくんとモルジアナが一目散に駆けて近寄ってきた。


 アーリくんのしっぽがぶんぶんに振るわれている。


 あ! モルジアナのしっぽも揺れてる・・・。




 「うん。ただいま。ジン様のおかげで無事『血の復讐』は成し遂げたよ!」


 「そうですか! おめでとうございます! ジュニア様! それに、ジン様・・・。ご助成、まことに感謝します!」


 「ジュニア様! おめでとうございます! ジン様! 本当にありがとうございます!」


 アーリくんもモルジアナも本当に嬉しそうだ。




 「ジン様だけではないよ。アイ様、ヒルコ様、コタンコロ様、イシカ様、ホノリ様にもすごくお世話になったんだ。月氏はこの恩を子々孫々(ねねそんそん)まで忘れてはいけないよ。」


 「ジュニア様・・・。ご立派になられましたね。まさにその通りでした。ジン様、アイ様、ヒルコ様、コタンコロ様、イシカ様、ホノリ様! ありがとうございます!」


 「ありがとうございます!」「ありがとうございます!」


 ジュニアくん、ジロキチ、アーリくん、モルジアナをはじめ、集まってきていた月氏種族のみんなが一斉にお辞儀をした。


 その光景は圧巻だった。




 「いやいや! みんな! 頭を上げてよ。ジュニアくんもアーリくんも! オレたちはほんの少し手を貸しただけだよ。それに・・・。ジュニアくんの強い気持ちがなければ、カタキは討てなかっただろう。これはジュニアくんの功績だよ!」


 「ジン様・・・。なんて謙虚なお方・・・。やっぱり僕の目に狂いはなかった・・・。」


 アーリくんもジュニアくんももう、ぶっんぶんにしっぽを振りまくって黒いまん丸い目でこちらを見ている。


 ああ・・・。かわいい・・・。昔、ハムスターも飼いたかったけど、なんだかこれはいい・・・。





 なんとかみんなの興奮を鎮めながら、オレたちはなんとかかんとか旧鼠の邸宅に向かった。


 そして、ジュニアくんたちと一緒に町の長老、旧鼠の邸宅に入っていく。


 「あ、ジュニア様、おかえりなさいませ!」


 「うん、長老を呼んでくれる?」


 「わかりました。」


 鼠の使用人が奥へ行く間、入り口すぐ入った辺りの部屋で待つことにした。




 あいかわらず、ここはひんやりとした空間になっていて涼しい。


 「それにしても・・。早くないですか? 『血の復讐』ってもっとこう年月がかかるっていうか・・・。」


 「アーリ様。ジン様がついて行ってくださったのです。これくらいは驚くに当たりませんよ。」


 「モルジアナ! さすが! そうなんだよ! ジン様たちみなさんの凄さって言ったら、あーだこーだ!」


 「すごい! それでコタンコロ様が!?」


 「そうそう! そこでございやすが、イシカ様とホノリ様がなんと巨大なゴーレムになってあーだこーだ!」


 「すっごいですわねぇ・・・。それで、ジン様が!?」


 「そうなんだよ! ジン様とアイ様がなんといっても・・・。」


 うーむ。オレたちをそっちのけで、ジュニアくんもジロキチもなんだかオレたちの自慢話を二人に聞かせているような・・・。






 「おまたせしました! ジン様! それにみなさん。ジュニアも息災で何よりじゃな。」


 そう言ってバタバタと急ぎ足で入ってきたのがこの町の長老、旧鼠(きゅうそ)だった。


 白い髭の老人・・・いや、老ネズミだ。




 「ふむふむ・・・。ふむふむふむふむ・・・。」


 旧鼠長老はジュニアくんとジロキチの報告を聞いて、ニコリと笑った。


 「よくぞ『血の復讐』を為し遂げた! これより正式にカシム・ジュニアを我が月氏種族の当主とする!」


 声高らかにそう宣言された!




 「では・・・。『スピーチタレントヘヴン』を開催じゃーーーっ!!」


 「おおおおおーーー!!」


 「ジュッニッアッ!! それ! ジュッニッアッ!! それ! ジュッニッアッ!! それ!!」


 「うお! うお! うお! うおうおうおおーー!」


 「あ、それ! あ、それ! それそれそれそれ!!」






 いや、みんなはしゃぎすぎ・・・つか、なんか変な薬とかやってないよね・・・。


 な・・・なんだかテラーのヤツが変なヤツだと思っていたけど・・・。


 月氏の種族の本質はこうなんじゃないかとさえ思ってしまうわ。




 (マスター! 『スピーチタレントヘヴン』、直訳で『弁才天』と推測されます。)


 (え・・・えぇ・・・。前に『大黒天祭り』やったよね? 今度は『弁才天祭り』なの? つーかなぜに七福神!?)


 (弁才天祭りは大漁や商売繁盛・家運隆盛・五穀豊穣・鯨の供養などの祈願のために行われていたようです。)


 (お・・・おぅ。)




 ということで、また祭りの準備である。


 祭り好きな種族だな。


 「ジン様。このたびは我が月氏種族におチカラをお貸しいただき、ありがとうございました。月氏はこの恩を子々孫々(ねねそんそん)まで忘れませんぞ。そして・・・。」


 旧鼠長老とジュニアくんが改まってオレに言ってきた。


 ・・・ししそんそんと言わずにねねそんそん・・・。あ、干支でネズミは『ね』って言うからか・・・。




 「そして?」


 「あいや。我が月氏種族は一同、ジン様に忠誠を尽くさせていただきたいのです!」


 「その通りです。僕は月氏の当主としてそう決めたのです! ぜひ! 僕たちの忠誠をお受け取りくださいませ!」


 「んんーー。いや。そんな忠誠とか言われてもな。オレって別に偉くもなんともないよ?」




 「それでもかまわないのです! ぜひ、これからはジン様のお役に立たせてください!」


 「ううーん。まあ、オレも手伝ってくれると嬉しいのは嬉しいけど・・・。ほら? オレとジュニアくんとジロキチってさ、冒険者パーティー『ルネサンス』のメンバーじゃない?」


 「ええ! そうですね。」


 「だから、その活動仲間っつーことで、今後もよろしくってことでいいかな?」


 「はい! もちろんかまいません!」


 「じゃあ、そゆことで!」




 「おまえたち! マスター・ジン様に忠誠を誓うのなら! ワタクシたちもおまえたちを保護の対象とみなします!」


 「うんうん! 僕も守っちゃうぞー!」


 「我も守備範囲を広げるのであるぞ!」


 「イシカもなんかやるのであるぞ!」


 「ホノリもなんかやっちゃうのだ!」


 ああ。オレのゆかいな下僕たちも認めてくれたようだ・・・。




 こうして、オレたち『ルネサンス』の活動メンバーは大幅に増えたのであった―。


 これに事業協力を『情報屋ヤプー』や『商集団フェアリーブック』も得られたら、さらに規模が拡大するな。


 とりあえず、この町を発展させることも考えていかないとね・・・。




~続く~



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