第54話 ルネサンス黎明期 『ガイトウテレビ計画』
『フウイヌム国』・・・通称『馬国』はオレたちが今いる『円柱都市イラム』の南東の地にあるという。
平和で非常に合理的な社会を持つ、高貴かつ知的な馬の種族の国で、騎馬民族ケンタウロスと仲が悪い。
エリート主義的かつ官僚的で創造性に欠けた、厳密な種族的カースト制度を保持している国だ。
『フウイヌム国』では、ヤプーと呼ばれる種族は邪悪で汚らしい毛深い生物とされていて差別の対象となっているらしい。
ヤプー種族は、ブロブディンナグ国でのサイズの拡大と同様に、人類を否定的に歪曲した野蛮な猿のような種族であり、ヤプーの中には退化した人間性が垣間見える。
酩酊性のある植物の根によるアルコール中毒に似た習慣を持っており、絶え間なく争い、お金の臭いのするものに非常に汚い性格である。
「げひひ。わてはジンのだんなが気に入ったで。わかった。話つけるんやったら、わてが『三猿』たちに会わせまっせ。」
「ふむふむ。じゃあ、その時はお願いするね。とりあえずは、サルワタリにはこの『円柱都市イラム』で変わらず商売しておいてくれ。準備ができたら声をかける。」
「げひひ。ワクワクしてきますわ。わての商売の感覚がびんびんしてますわ。」
「さ・・・さすがはジン様。僕ではこのサルワタリと交渉することはできなかった・・・。」
ジュニアくんがなんだか落ち込んでそう・・・。
「うん。ま、もし、断られてももうひとつの情報屋『ガーゴイル』に話を持っていくだけだからね。オレとしてはどちらでも良かったんだ。」
「げひひ。だんなもヒトが悪い・・・。いや、スーパーヒーローが悪いでんな。じゃあ、だんな、これを渡しておきまっせ。」
そう言ってサルワタリが差し出してきたのは、白金貨三枚だった。
「おまえ・・・。これは?」
「もちろん。今後、事業を一緒にする時のための資金でんがな。手付金ってところやな。」
「へえ。オレがこのまま持ち逃げしたらどうすんだ?」
「だんな。その金はちょうど、ジュニアはんからもらった金でっせ。わては1枚の金貨も損しまへんのや。
そして、わては、その金で将来生まれるであろう金の権利を買ったっちゅうことにもなるんやで。つまりただで将来の大金に投資したようなもんや。
それに・・・わてはだんながそんなおヒトやないって見抜いてますんで。」
「そうか。やはり、おまえは抜け目がない・・・。が、それは今後同じ商売をする仲間と考えると頼もしい。今後はよろしくな。サルワタリ。」
「げへへ。ジンのだんな。こちらこそよろしゅう頼んます。」
オレは改めてこの男・サルワタリが見た目と性格はどうあれ、この世界で役に立つヤツだと思った。
そんな中、バクバクとひたすら、お菓子を食べているのがヒルコだ。
もう十個以上は食べてるだろう・・・。
「相変わらず、このミナ・サマーのお菓子、ホント美味しいね! ジン様!」
ヒルコが無邪気に言ってくる。うん・・・。『賢さ』が必要なのってヒルコじゃない?
ミナ・サマーはヌガーとよく似たお菓子で、砂糖と水飴を低温で煮詰め、アーモンドなどのナッツ類やドライフルーツなどを混ぜ、冷し固めて作るお菓子だ。
茶色くて固く、歯に粘りつくような食感が特徴である。
「マスター!成分の解析が完了いたしました。『霧越楼閣』でも味わえるように致しましょう。」
「僕もこのお菓子、好きですね。」
「拙者もいただくでございやす。」
「我もいただきます!」
「イシカもいただくであるぞ。」
「ホノリもいただくのだ。」
「げひひ。ほんまに美味いでんなぁ。」
このお菓子は本当に美味しい。
そして、オレたちはカフェ『はーむず』を後にした。
別れ際、サルワタリがこう言っていた。
「ジンのだんな。もし、『三猿』さんらに協力を得られたら、騎馬民族ケンタウロスともつなぎをつけてもらうとええで。運輸業を考えてるんやったら、アレはいい足になるで。」
「なるほど。覚えておくよ。ありがとな。」
「げへへ。だんな。けちくさいこと言わんといてぇな。もうわてら、共同事業仲間やろ?」
「ああ。そうだな。じゃ、街頭テレビができたら・・・。さっそく仕事してもらうからな?」
「げひひ。あ、ガイトウテレビっちゅう商売なんやな。だんな。しかしやな、秘密はなるべく最後まで隠すんがええんやで。」
「お・・・おぅ。しまったな。一本取られたな。」
「まあ。ええで。わてを信用してくれただんなのそういうところ、嫌いやないで?」
◇◇◇◇
そして、オレたちは『円柱都市イラム』を後にした―。
コタンコロの背中に乗って、『円柱都市イラム』が小さくなっていくのを見ていると、短かったがこの街の日々が楽しかったと思い起こされた。
「うわぁ! た・・・高い!! でも・・・きれい・・・。」
ズッキーニャが空からの景色に驚いている。
そうか。前に乗せて運んだ時は意識を失っていたからな。
実質、初飛びみたいなものか。
「こんなにも、世界は広いんだね。」
周囲の圧倒的な雄大な景色に、ズッキーニャは感動しているようだ。
『イラム』の街から、サファラ砂漠方面へ一直線に向かい、先に『霧越楼閣』に寄ることにした。
ズッキーニャを『霧越楼閣』のアンドロイド、メンテ・ナースとドクドク・ドクターに預けて、オレたちは再び、『霧越楼閣』を出発する。
そして、ジュニアくんに道案内をしてもらい、砂漠の町『楼蘭』を目指す。
まずは、無事ジュニアくんがカタキ討ちできたことを報告しなきゃな。
「ジン様・・・。あのジン様の邸宅って、サファラ砂漠に伝わる伝説の『砂上の楼閣』ですよね? 誰もたどり着くことができないという・・・。」
「そ・・・そうでございやすね。ジン様って・・・いったいどういうお人なんでございやすか・・・。」
ジュニアくんとジロキチがオレに質問してきた。
そ・・・そんなふうにオレの自宅が言われていたとは、まったく知らなかったな。
「ワタクシたちがずっとお守りしてきたのです。マスターは目覚められたばかりですゆえ、あまり詮索はしないでいただきたいですわ。」
アイがそう言って答えないでもいいように言ってくれた。
「ああ。オレはずっと・・・。ずっと長い間、眠っていたらしい。つい最近、起きたばっかりで世間知らずなんだ。だから・・・。」
オレは少し過去のことを思い出し、言葉が途切れてしまった。
「ジュニアくんもジロキチもオレにいろいろ教えてほしいんだ。お願いするよ。」
そう言ってオレは二人に頭を下げた。
「いやいやいや! 頭をお上げください! 単なる好奇心でした。申し訳ないでチュ!」
「拙者も個人的なことに深入りするつもりはないでございやす! なにか深い事情があるでございやすね。」
「ああ。ありがと。今後、話したくなったら・・・。ちゃんと話すよ。」
「ぜんぜん! かまいませんよ! ジン様はジン様なんだから!」
「で、ございやす! 我らはもはやジン様が好きでございやすから、ついていきたいと思ってるだけでやす。過去は関係ございやせん!!」
ふたりとも泣きそうな顔で、真剣にそう言ってくれた。
オレはそんな二人を見ながら、この新しい世界でようやく、友と呼べる存在ができたのだなと感じたのだった―。
(マスターのお心・・・。ワタクシには計り知ることは叶いませんが、どうぞ、ワタクシたちもお忘れにならないでくださいませ・・・。)
(ああ。アイ。もちろん。君たちはオレの家族同然だからな。)
(か! 家族同然! といことは・・・。やはりワタクシは妻! あぁ・・・。はぁん・・・。)
「僕もジン様の過去は気にしないよ!」
ヒルコがそう言う・・・。・・・って、ヒルコはオレの過去っていうか素性も知ってるくね?
「イシカも当然だぞ!」
「ホノリももちろんなのだ!」
うん・・・。イシカとホノリはわかってないな。ただノリで言ってるな、これ。
そして、コタンコロは何も言わず、悠然と翼を広げ、『楼蘭』に向けて飛び続けるのであった―。
うん。この黙示録戦争後の世界も、悪くないだろう―。
オレはそう思ったのだった。
~続く~
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