第53話 ルネサンス黎明期 『情報屋ヤプーとサルワタリ』


 ****


 翌日―。




 オレたちはまた『湖畔亭』の朝食を堪能していた。


 この日の『湖畔亭』の朝食には、平たいコムギトで作られたパン(ホブス)、グガランナ牛のチーズ、ヨーグルト、塩漬けのノアのオリーブ、デブス(ナツメヤシから作る蜜)、ゲーマル(グガランナ牛の乳から作る生クリーム)、『グレイ伯爵茶』が出された。


 デブスとゲーマルはイラム人のエネルギー源となっている。


 『グレイ伯爵茶』は上等の紅茶の種類のようだ。




 「ジュニアくん。この後はどうするんだい?」


 「ええ。ジン様。一度、『楼蘭』に帰ろうかと思います。」


 「そっか。それで、今後の商売はどういうふうに考えてるんだい?」


 「そ・・・それは・・・。」




 そうだよな。お父さんのカタキ討ちにいっぱいいっぱいで、先のことなんて考えてる余裕はなかっただろうな。


 「そうでやすね。父君のカシム様のお残しになられた行商ルート、黄金都市との交易もよろしいかと思いやす。」


 ジロキチが助け舟を出した。




 「なるほどね。で、交易品は『楼蘭』特産の『ココヤシ酒』ってところかな?」


 「そうでやすね。それ以外に『楼蘭』は目立った特産品も商品もありやせんから。」


 「ふーん。じゃあさ、今後、オレの始める商売の品を運ぶのも手伝ってくれると嬉しいんだよな。」


 「え!? ジン様・・・。商売されるんですか?」


 「ああ。そして、このアイデアが上手く行ったら・・・。もっと大量の商品を取り扱うことになる。」




 そう。オレの考えてる商売は主に3つ。


 ひとつは、運輸業だ。


 この世界で今のところ、物流手段は、陸路は竜馬のような馬車だ。


 あとは海運もあると聞いている。


 だが、空輸便はないようだ。


 少なくとも、このバビロン地域や、『法国』、『エルフ国』といったエリアでは間違いない。




 オレはそこに流通革命、物流革命を起こそうと考えている。


 単純に、オレは美味い料理を食べたい。


 そのためには、新鮮な世界各地の食材を運ぶ手段を確立しないと実現しないと考えた。


 具体的には、各国家、各都市を結ぶ空路を開発しようと考えている。


 もちろん、科学の粋を集めて、最速の空輸便を形にしたいと思っている。




 そして、大きくは空路で運び、ジュニアくんたち商集団『アリノママ』には、その後の各都市の細かい配達に協力してもらいたい。


 ネズミに種族が都市細部に細かに運ぶ・・・。なんだかイメージぴったりじゃないか?


 月氏の宅急便・・・みたいな。




 ふたつめに考えている商売は、情報産業だ。


 この世界ではやはり、情報を伝える技術が遅れている。


 『魔法』で遠隔地とやり取りはできるようだが、映像を伝えたり、ニュースなんかはまだまだ遅れている。


 情報屋があまりにも原始的だったからな。


 ここに情報伝達革命を起こしたい。


 具体的にはまずは街頭テレビのようなもの『ニュースボード・新聞板』からスタートし、いずれ個人個人が携帯型のタブレットを持ち運べるようにしたい。




 ここには『情報屋ヤプー』の彼らに協力してもらいたい。


 もちろん、まずは、この『円柱都市イラム』で実験的に始め、各都市のおえらいさんにどんどん売り込み、広げていきたい。


 小型化して、タブレット型のニュースボードのようなものが生産できるようになれば、大々的に売り出していく。




 最後のみっつめの商売は、もちろんその情報伝達産業に欠かせない・・・コンテンツ業だ。


 ニュースはまあ、必須なんだが、ほかにもファッション情報、グルメ情報、小説や漫画などのコンテンツや、アニメ、映画といった映像作品だ。


 こういったコンテンツを作るクリエイターや編集者が必須になってくる。


 もちろん、オレひとりでできるわけもないし、アイに大部分は頼ることになるが、外部からそういった人材を確保していかないと成り立たない。






 「もちろん手伝わさせていただきますよ! ジン様! 僕はジン様に一生ついていきまチュ!」


 「てやんでい。このジロキチも当然、ジュニア坊っちゃん・・・いや、ジュニア様とともにジン様についていきやすぜ!」


 「お・・・おぅ。ありがとね・・・。」


 「ズッキーニャもオレの家に来るといいよ。部屋を用意するよ。」


 「あり・・・がと。わかった。ジン様におらもついていく。」




 まあ、他にもスポーツを流行らせるとか、ゲームを流行らせるとか・・・いろいろ考えはあるけど。


 まずは主要な商売はこの3つが急務だと考えている。


 そのための資金とか材料とか資源とか人材確保の手段とか、いろいろこの先やることは山積みだな。




 「ヒルコも手伝いますよー!」


 「もちろん我も手伝いますぞ。ご主人様。」


 「イシカも手伝うであるぞ!」


 「ホノリも手伝うのだ!」


 オレの忠実なる3つの下僕たちも答えてくれる。




 (マスター! 当然、ワタクシはマスターのパートナーでございますから!)


 (あ・・・あぁ。そうだね。アイがいなきゃオレ、なんにもできないよ。アイのおかげだよ。)


 (ヤダ・・・。マスターったら・・・。)


 アイが照れた様子でデレデレとしている。


 とても超人工頭脳には見えないな。




 「ジン殿。もし吸血鬼の噂を聞いたら、俺に連絡してくれ。まあ、ジン殿だったら、吸血鬼ごときに遅れを取ることなんてないだろうがな。」


 ヘルシングさんも朝食をむしゃむしゃ食べながら、声をかけてきた。


 「いえ。もちろん専門家に任せたほうがいいですからね。吸血鬼のことで困ったら必ず頼りますよ。」


 「うむ。そう言ってもらえるとありがたい。」


 「ヘルシングさんはこれからどうするんですか?」


 「ああ。パーティーのメンバーが東方の都市『キトル』にいるから、合流するとするよ。」


 「そっか。じゃあ、またどこかでお会いできる日までお元気で。」


 「ジン殿もな。」




 「あらあら。じゃあ、寂しくなりますね。」


 搾りたての神の飲み物と言われるネクタール・ジュースを出しながらそう言ったのはラク・シンプ女将だった。


 「ああ。ずいぶん世話になったな。」


 「オレたちもお世話になりました。本当に料理も最高でした。」


 「ありがとうございます。またイラムにお越しの際は、『湖畔亭』をよろしくおねがいしますね。」


 「ああ。また世話になるよ。」





 ◇◇◇◇



 朝食を済ませたオレたちは、宿を引き払い、『ラ・レーヌ・ドゥ・シバ女王兵団』の詰所にある牢獄に向かった。


 捕らえられている『情報屋ヤプー』のサルワタリの身請けに行くのだ。


 どうやら、アマイモンさんから話をしてくれていて、オレたち、特にジュニアくんの許可でサルワタリは釈放されるとのことだ。


 まあ、被害者のジュニアくんがいいと言ったら釈放してくれるということらしい。




 「ああ! ジンさん! ジュニアさん! よくぞこんなむさくるしいところへお越しくださいました!」


 ギルガメシュ兵長が出迎えてくれた。


 さっそく牢獄前に案内してくれ、サルワタリが連れてこられた。




 「おお! ほんまに来てくれたんやな! ジンのだんな! もうあかんのかと思ったわ。」


 「やあ。約束は守るよ。もちろん。」


 「ジン殿。本当によろしいのですか? こんなやつを釈放してもロクなことになりませんよ。」


 「うん。いいんだ。じゃ、ありがとう。ギルガメシュさん。」


 「まあ、ジン殿がいいなら、私はいいんですけどね。」


 そう言って、ギルガメシュ兵長はしぶしぶサルワタリの錠を解いた。




 「おまえ! ジン殿に感謝するんだぞ!?」


 「もちろん、わかってまんがな。兵長はん。お世話になりましたな。」


 「とっとと行きやがれ。」


 「げへへ。」




 オレたちはサルワタリを連れて、大通りに出てカフェ『はーむず』に入った。


 そして、人数分の飲み物ハームズとお菓子ミナ・サマーを頼んだ。


 「なあ、サルワタリ。オレの考えてる商売にはさ、世界中の情報が必要になってくるんだが、おまえのところの『情報屋ヤプー』はどこまで手を広げてるんだ?」


 「せ・・・世界中でっか? そ・・・それはだんな。大きゅう出ましたな。」


 「で、どうなの?」


 「早く答えなさい! マスターが質問してるのです!」


 アイが周囲の超ナノテクマシンを動かそうとした。




 「まあまあ。アイ。ちょっと待ってよ。彼なりのこれは商売のかけひきなんだよ? な?」


 「さっすがはジンのだんな。わかってまんなぁ。そやな、情報こそがわてらの商売の命でっせ。そんな簡単にほいほい喋っとったら商売あがったりやわ。」


 「そうだよなぁ・・・。まあ、それはいいとして、ヤプーの代表はどこにいるんだ?」


 「なんや。直接、上と話つけようってか。だんなにはほんまかなわんな。まあ、ええで。この『情報屋ヤプー』の本社は『フウイヌム国』、『馬国』にあるんや。

そこに三人の『三猿』っちゅうおえらいさんがおってな。その『三猿』が仕切ってはるんやで。」




 今度はあっさりと話してくれたようだ。


 ・・・やっぱ、こいつ、助けなくてよかったかな?


 なんてちょっぴり思ったりしてね・・・。




~続く~



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