第52話 ルネサンス黎明期 『エメラルドの都の伝説』


 ****


 祝宴会の大広間に戻ると、ギルガメシュさんとエンキドゥさん、それに、エンキドゥさんの奥さんらしき美しい女性が寄ってきた。


 「ジン殿! ご苦労であったな。」


 「あ、いえ。たいしたことやってないので。」




 「ジン殿。こっちは、我が妻・シャムハトだ。よろしく。シャムハト! こちらが『赤の盗賊団』討伐の最大の功労者、アシア・ジン殿だ。」


 「シャムハトでございますわ。ジン様にはお初にお目にかかります。以後、お見知りおきを……。アッチのほうでお困りならあちきに仰せくださいませ。」


 「アッチ? どっちのこと?」


 (マスター! そこはどうでもよろしいのでは?)


 (え? アイ。何のことだ?)




 「シャムハト様! ソッチのほうはワタクシがジン様にはおりますゆえ、けっこうでございます。」


 「あら? アイ様でございましたね。そう……。アイ様とジン様はそういうご関係でございますか?」


 「ええ。ワタクシはマスター・ジン様のパートナーでございます!(キリッ)」


 なんだなんだ? なんのことだ?





 「ところで、ジン殿。コタンコロ殿にも驚かされたが、あちらにいるイシカ殿とホノリ殿はものすごいゴーレムであるな。」


 ギルガメシュさんが空気を察して話題を変えてくれたようだ。


 「ああ。二人合わせて『アラハバキ』というんだ。」


 「大きさは、20ドラゴンフィート(100m)はあろうな。『法国』の守護ゴーレム『リバティ・オブ・スタチュー』の倍以上あったんじゃないか?」


 「うむ。ギルガメシュよ。君の言う通りだ。おそらくは、我がバビロンの首都キトルの『バビロンの城壁』と同じか、それより高いかも知れん。」


 「ん? 『リバティ・オブ・スタチュー』って!?」


 まさか? 自由の女神?




 「ああ。かつては古代の伝説の都市ニューヨークにあったと言われている。今は『法国』の守護ゴーレムだ。ゴーレム戦争の際、無類の強さを誇ったという。」


 「ニュ……ニューヨーク!?」


 「うむ。今はどこに存在したかも不明だが、古代に栄えた都市らしいな。」


 「へ……へぇ。つか、ゴーレムってことはその『リバティ・オブ・スタチュー』って動くの!?」


 「何言ってるんだ? ゴーレムなんだから動くのは当たり前だろう?」


 「ひえぇ……。」




 動く自由の女神像か……。すげぇな。見てみたいわ。


 「他にも世界中に巨大なゴーレムはいるがな。たしか、『ヴァン国』にも今は動くかわからんが『バーミヤン・ブッダ』があったな。」


 「バ……『バーミヤン・ブッダ』!?」


 たしか、アフガニスタンにバーミヤンの大仏というのがあったな。だが、たしか、タリバンによって破壊されたんじゃなかったか……?




 「おお!? 我が国『ヴァナランド国』に『バーミヤン・ブッダ』はたしかにあったぞ。今はもう動かないがな。」


 ヘルシングさんがタイミングよく話に参加してきた。


 「あ?たしか、ヘルシングさんは『ヴァン国』出身でしたね?」


 「そうだ。『ヴァン国』でかつて、地中から発見されたバラバラになったゴーレムを魔法で修理し、復活させたんだ。」


 「そうなんですか!?」




 「だが、大きさはジン殿のゴーレムにはかなわないだろうな。」


 (マスター! アフガニスタンにかつてあったバーミヤンの大仏は西大仏が高さ55mと東大仏が38mでございます。)


 「今はもう動かないって言いましたよね? 何かあったのですか?」


 「ああ。かつて、『法国』と『ヴァン国』は戦争したことがあってな。その際、壊れてしまったんだよ。」


 「そんなことが……。貴重な世界遺産なのに……。」




 「世界遺産……か。たしかに。言い得て妙だな。それは。世界にとってみても古代の遺産としてその価値があったな。」


 「そうですね……。はるかはるか古代の遺産……ですね。」


 「うむ。そうだな。」




 そこへ、アテナさん、グラウコーピスさん、エリクニオスさん、ニーケがやってきた。


 「ジン殿。我が『法国』の守護ゴーレム『リバティ・オブ・スタチュー』の話をしていたな?」


 「ええ。伝説のゴーレムだとか?」


 「まあな。アレは古代の叡智であるな。はるか遠くまで照らすその灯りに、何者にも縛られぬそのチカラはまさに自由そのものの守護ゴーレムだな。」




 「すごいな。見てみたいですね。」


 「おお! ジン殿ならいつでも歓迎するぞ?」


 「ありがとうございます。」




 この世界に残る元の……オレのいた世界の残滓が、なんとも物悲しさを感じる。


 「オレは、オレののぞみを叶えたい。取り戻したいんだ。たとえ世界が変わっていたとしても……。」


 「ほう。ジン殿には何か大きな夢があるみたいだな。それなら、伝説の『オズマの法使い』ならその夢、叶えてくれるかも知れないぞ?」


 エリクトニオスさんがそう言った。


 「え? 『オズマの法使い』ですか?」


 オズの魔法使いなら聞いたことがあるけど……。




 「エリクトニオスさん! それって単なる噂ですよね?」


 ニーケがそう言う。


 「いや、だが、我々『法国』の者でも、宗主国『皇国』のことはほとんど知られていないのが現状であるからな。」


 グラウコーピスさんが調子を合わせてきた。




 「たしかに。『皇国』の首都『エメラルドの都』に『オズマの法使い』と呼ばれる伝説の魔法使いがいるとは聞いている。そして、どんな願いも叶えてくれるらしい。」


 アテナさんもそう言ってくる。


 「アテナさんたちもその『皇国』に行ったことがないんですか?」


 「ああ。『皇国』は許された者以外の他国の者の出入りを厳重に禁止している。むろん、私も例外ではない。」




 「ええ!? 『皇国』って用心深いんですね。鎖国してるのか。」


 「マスター! ワタクシ、その『オズマの法使い』に会ってみたく思います。」


 「アイ。興味があるのか?」


 「ワタクシは……。その者に会って、『魂』が欲しく思います!」




 アイは少し悲しい目をしてそう言った。


 オレがミトラ砦の戦いの時、アイのことを情がないと思ったのが、伝わっていたのか―。


 「ああー! 僕もそれなら、どんな相手にも向かっていける『勇気』が欲しい!」


 ヒルコ……。いや、君は十分、どんな相手にも向って行けてると思うんだが?






 「うむ。では我ももっと慎重な賢い『脳』が欲しいであるな。」


 あら? コタンコロまで! あなた、十分、慎重で賢いっしょ!


 「イシカもこの身体に『心』が欲しいであるぞ!」


 「ホノリもこのからだに『心』が欲しいのだ!」


 ううーん。イシカもホノリも十分、心ある存在だと思うぞ……。機械らしくない! 絶対に……。




 「まあ……。オレも失くしたモノが戻ってくるなら……それは叶えたいけどね。」


 「じゃあ、いつか行けるといいな。『皇国』の『オズマの法使い』のところへ。」


 アテナさんもいい笑顔でオレたちにそう言ってくれた。




 「世界を救うような勇者は『エメラルドの都』の『ヴァルハラ宮殿』に招待されるらしい。ジン殿にはその機会もあるやもしれんな。」


 グラウコーピスさんがそう言って、そのフクロウの目でウインクしてきた。


 そこにエルフの商人チコメコアトルさんとその妹シロネンさん、あとペッコくんがやってきた。




 「おおお! ジンさん! こんなところにおったんかいな。探してたで! いやぁ。さすがうちの見込んだオトコやな。大活躍したんやってなぁ。」


 「お……おぅ。」


 「お姉ちゃん! ジンさん。すみません。うちの姉が。」


 「いや。チコメコアトルさんもシロネンさんもいろいろ助かったよ。ありがとね。」


 「何いうてんのや。当たり前やんかぁ。ジンさんには今後もうちらをご贔屓にしてほしいなぁ。」


 「あ。そう言えば、チコメコアトルさんたちの商人の名前って何ていうの?」




 「ああ。言うてへんかったかいな。妖精種族の商集団『フェアリーブック』やで。」


 「ココペリさんのところか!」


 「まあね。うちが代表やけどな。どや?」


 「へぇ……。代表はチコメコアトルさんなのか。それなら……。またゆっくり話がしたいね。商売の話で。」


 「ほお? なんかえらい儲け話のにおいがするやんか。ジンさん。その話、いっちょ聞かせてもらおか。」


 「まーた、この守銭奴はお金に目がないこと!」


 そうツッコミを入れてきたのはベッキーだった。




 「ベッキー。あんたも無事でよかったんなぁ。トムやサム、ジムは気の毒やったな。」


 「う……うん。それはね。」


 「あら? 今日は素直やな。」


 「チコメコアトル様も……今日は勘弁してあげてくださいね。」


 パックがそう言ってチコメコアトルにお辞儀をした。






 「私の『アドベンチャーズ』もメンバー募集からだな。」


 「あ! ベッキーさん。あんちゃんと私と組みませんか?」


 「え? ああ。オットちゃんか。そうかぁ。あなたたちのところもメンバーいなくなったもんね。」


 「そうだ。おれのドッコイ兄弟も力不足を痛感した。こちらからお願いしたい。」


 ウントコもそう願い出た。


 「そうですわね。お互い補充して新生『アドベンチャーズ』で再スタートしましょうか!」


 こうして、新たなパーティーができたようだ。






 こうして、なんやかんやといろんな話があり、有意義な祝宴会だったのだ―。




~続く~



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