第51話 ルネサンス黎明期 『王子と映像物語』
オレの提案が予想外だったのか、サルワタリも一瞬、固まっていたが、さすがに生粋の商売人なだけはあって、すぐ返答してきた。
「そやなぁ。もちろん条件によるけど、利になりそうな話なら、いっちょかませてもらいまっせ。」
サルワタリが毛むくじゃらの猿のような顔に、ニヤリと笑みを浮かべ、で、じゃらじゃらアクセサリーを鳴らした。
「ああ。では、その話は後でしようか。今は・・・、祝宴だからな。しばらくは待っていてくれ。」
「げひひ。ありがとさんでんな。ジンのだんな。命拾いしましたで。待ってまっせ。」
そう言って、サルワタリはグースカさんに連れられていった。
「シバの女王様が参られる! みな、静粛に!」
女王兵団の者が、そう声高らかに叫ぶ。
おお! シバの女王様、いよいよご登場か。
すると、扉がうやうやしく開かれ、豪華絢爛、綾羅綿繍な衣装に包まれたシバの女王が、その荘厳華麗な面持ちで、エレガントに入場してきた。
隣にはネブカドネザル王子がこれまた可愛らしく、ちょこまかと入場してきた。
お目付け役ぽい黒い翼の天使然とした姿の人と一緒だ。
その後ろから、黒衣の宰相ベン・シラさんに、『ラ・レーヌ・ドゥ・シバ』女王兵団・団長ギルガメシュさん、その後ろにエンキドゥ副長とこれまた綺麗な女性が入場してきた。
あの女性はどうやらエンキドゥさんの奥さんぽいな。
「みなの者、そのままで良い。無礼講じゃ!」
シバの女王がひれ伏そうとした周囲のみんなに声をかける。
そして、一直線にシバの女王がオレたちの前に歩いてきた。
「おお! ジンよ。こたびはよくやった。さすがは妾が見込んだ男であるな。」
「いえ。もったいなきお言葉です。シバの女王様には相変わらず麗しゅうございます。」
オレはとりあえず、お世辞を言っておく。
まぁ、シバの女王様、年齢は不明だけど、美しい女性であるのは間違いないんだが。
「ジン! すごいんだな! 後でまた『くまんちゃ』見せてよ!」
ネブカドネザル王子がオレにそう言ってきた。よっぽど前の映像手品が気に入ったのだろう。
「もちろんでございます。」
オレは返事をする。
「ところで、今回のジン殿の活躍に対し、シバの女王様から特別に報奨を与えられる。」
黒衣の宰相ベン・シラさんがそうオレに告げてきた。
「報奨ですか? それはありがたいですが、ギルドからも貰えますのでそれは過剰かと思いますけど。」
「はっっはっは! ジンは慎み深いの。ベン・シラの申すとおりじゃ。何でも好きなものを述べるがよいぞ!」
シバの女王様もそう言ってオレのほうを見る。
「そうですねぇ・・・。ちょっと考えつかないです。」
「まあ、急ぐことはない。何なりと後でベン・シラに申すが良いぞ。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
かなり大事になってしまったようだな。
「ジン! ジン! 早く! あっちでじっくり『くまんちゃ』見せてよ!」
「わかりました。王子様。」
「ジン。妾が子を楽しませてやってくれ。」
「かしこまりでございます。」
「では、ジン殿。こちらへ参られぃ。」
お目付け役ぽい黒い翼の天使然とした姿の人がオレたちを、別室へ案内する。
「申し遅れた。我が名はアリオク。ネブカドネザル王子の教育係を務めさせていただいている者だ。」
「アリオク様。よろしくお願いします。」
「いや。気遣い無用だ。我は身分は高くないのでな。」
「そうなんですか?」
「ああ。我は異国の出身であるからな。」
「へぇ。アリオク様はどこのご出身なんですか?」
「うむ。『魔界』である。」
「ええ! 『魔界』ですか! 『魔界』ってどんなところなんですか?」
「ほお。ジン殿は『魔界』に偏見はないのか?」
『魔界』・・・噂には聞いていたが、いったいどんなところなのか?
想像だけだと、地獄とかのイメージだな。あと、魔王がいて、勇者を倒そうと狙ってるんだよな。
「まあ、『魔界』も他の国々とあまり変わらないな。ただ、種族が魔族が支配しているというだけで。権力争いや他国との領土問題など、まったくやってることは同じである。」
「そうなんですか? 場所はどこにあるんです?」
「そうだな。この『円柱都市イラム』より遥か西の果て、ガイア山脈に隔絶された日の没する土地にある。」
はるか西方か。異次元にあるとかそんなんじゃなくて、けっこう現実的な場所にあるんだな。
「アリオクさんは、そんな遠くの国からどうしてこの『円柱都市イラム』にやって来たんですか?」
「それは・・・。話すと長くなるが、我の仕えていた王が失脚したからだ。それで、亡命してきたってわけさ。」
「それは大変でしたね。」
「そんな言葉をかけてくれるのは、ジン殿が初めてだぞ。」
「そうなんですか?」
「ああ。ただでさえ、『魔族』は忌み嫌われておるのでな。」
「オレには『魔族』も『英雄族』も、あまり変わらない気がするのですが、それはまたどうしてなんですか?」
「まあ、この世界の最初の時代、はるか数千年前に争いの元となった呪われた種族だからな。」
「そんな過去のことで・・・。」
オレとアリオクさんがそんなことを話しながら、別室に着いた。
「ジン! はっやっく! 『くまんちゃ』! 見せてよ!」
「はいはい。わかりました。王子様。」
オレは某国民的人気漫画に出てきた某漫画家のように、猫ミミク様の親友キャラ・くまんちゃの絵を指で空中に、ナノテクマシンで机の上に立体映像で表した。
ついでに猫ミミク様も登場だ!
「ああ! これ、アイじゃない?」
「ええ。アイのモデルになった『猫ミミク』ちゃんですよ?」
「うわあ! 可愛い! 『猫ミミク』ちゃんも『くまんちゃ』くんも!」
「でしょう? 王子様。『猫ミミク』様の可愛いは正義なのです!」
「こ・・・これは!? ジン殿・・・。いかなる魔法なのだ? 『魔界』でも見たことがないぞ?」
「えっと・・・。プロジェクション・マッピング・・・っていうか・・・。映像魔法ですよ。」
「ジン殿のオリジナル魔法か! 素晴らしいな。」
「ま・・・まぁ。そんなところです。」
映像魔法か。まさにイリュージョンだな。
「こんなふうに映像とやらの幻影が見せられるのは、なんとも考えたことを相手に伝えるのに便利であるなぁ。」
オレはアリオクさんが何気なくポロッと漏らした一言に、あるアイデアがひらめいたのだった。
「アリオクさん! すごいですよ! それですよ! それ!」
「え? 何のことだ!?」
「映像で人に物語を伝えるってこと! まさに、それ、オレがやりたいことなんですよ!」
「そうなのか? それはすごいぞ。革命的だぞ。実現したら、まさに情報革命だな。」
「ちょっと演ってみますね。王子様。『猫ミミク』ちゃんと『くまんちゃ』くんの物語を見てくださいね!」
「もちろんだ! 楽しみだ! なあ! アリオク!」
「御意。」
(アイ! 聞いていたか?)
(ええ。こちらは広間におりますが、常にマスターの言動は把握しておりますわ!)
(じゃあ、ちょっと、『猫ミミク様』役の声優をやってくれ! オレは『くまんちゃ』役を演じるから!)
(イエス! マスター! 喜んで! ・・・それにワタクシのこと、さきほど可愛いと・・・。はりきって演じますわ!)
おお・・・。アイが気合い入ってるな。
オレも頑張るぞ!
それからオレは思い出す限り忠実に、Vtuberのアイドル・Vドル『猫ミミク・ストーリー』のアニメの一幕を立体映像で紙芝居風に演じるのだった。
ネブカドネザル王子が大喜びしたのは言うまでもないがー。
アリオクさんの目がハートになっていたのは、勘違いではなさそうだ。
その後、広間に戻ったオレたちだが、アリオクさんは、ずっとアイの姿に見惚れていたのだから・・・。
~続く~
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