第50話 ルネサンス黎明期 『祝宴会』


 その夜、シバの女王の宮城で、豪勢な祝宴会が開かれたー。


 出てくる料理は、それは素晴らしいものばかりで、美味しいことこの上なかったことは言うまでもない。


 メゼ(前菜・サラダ)がまずあらゆる生命の源と言われる生命の樹セフィロトの葉とシダの花のサラダ。




 続いて、ティッカ(串焼きの牛肉)は、天の牛とも言われるグガランナ牛の丸焼きが惜しみなく十頭分も焼かれていた。


 ウケモチ米に盛られているクーズィーのローストされた羊は最高級の黄金羊であった。


 そこにブルグルというコムギト種の小麦の挽き割りも添えて、一緒に食べられるようになっていた。


 マスグーフ(新鮮な魚をさばき、スパイスを塗り込んでじっくりと焼き上げる)の魚は、イラムの北を流れるリオ=グランデ=デ=ミトラ川で獲れた新鮮な黄金の鯱である。




 オレたちは恥も外聞もなく、バクバクごちそうになった。


 こういうときに遠慮するのはまったく利益がないのだ。


 飲み物もめちゃくちゃ美味しくて、西王母の桃ジュースに、ハオマ葡萄のワイン、ジュニアくんたちが貢物で献上した『ココヤシ酒』もふんだんに振る舞われた。




 「やっべぇー。これめちゃくちゃ美味いな。まさに天上の料理だな。」


 「マスター。たしかに美味しゅうございますね。材料を解析しておきます。」


 「お! さすが。アイは気がつくな。」


 「いえ。マスター。お褒めいただくのは恐れ多いです。」


 「アイ様~。嬉しそうだね!?」


 「ヒルコも楽しそうですね。」


 「んーー。僕もお腹がどこにあるかわからないけど、お腹いっぱいだよぉー。」




 確かに・・・。粘菌ボディのヒルコにお腹はない。だけど、今は、メイド姿だからなぁ。そのせいもあるかもしれないな。


 「ご主人様。我が農園の牛も美味しく育てておりますが、この牛の味はなんとも言えない極上ものですな。」


 コタンコロもまるで、農家のヒトみたいなこと言ってる。








 「イシカもこのハオマ葡萄酒、美味に思うぞ。ジン様も盛大に飲むと良いそ!」


 「ホノリもこの西王母の桃ジュースは美味いと思うのだ。もっとジン様も飲みねぇ、飲みねぇ。」


 「いや・・・。十分、飲んでるから大丈夫だよ。」


 つか、イシカもホノリもアンドロイドなのに味がわかるのかよ?




 「ジン様ーっ! この、牛、めちゃくちゃ美味いでチュね! 『楼蘭』では飼育できないかなぁ・・・」


 「坊っちゃん! それはいいお考えですね! ですが、おそらく砂漠では環境に合いそうにないでございやす。」


 「そっかぁー。残念だな。じゃあ、定期的に交易できるように頑張ろうか!」


 「でございやすな。」


 ジュニアくんとジロキチは商売人だなぁ。




 そんなこんなで晩餐を楽しんでいたところ、ギルド長アマイモンさんがフルーレティ女史と、執事のフルカスさんを連れてやってきた。


 「ジンさん! 今回は本当によくやってくれた。感謝するぜ!」


 「ジン様! さすがでございます。私はジン様が必ず『赤の盗賊団』を討伐してくれると思ってましたよ!?」


 「ジン様。初依頼達成、おめでとうございます。」


 みんな口々に褒めてくれる。




 「いや、たまたまだよ。」


 「また謙遜しなくていいんだぜ! あ! 今回の働きで、ジンさんをSランクに昇格させたいと思ってたんだけどさ。

ギルドの規定で、3つは依頼達成していないと昇格基準に満たないんだ。だから、あと2つなにか依頼を受けてほしいんだ。」


 「ええ!? Sランク!? いやいや、まだいいよ。そんなこと言われてもなぁ。」


 オレはアマイモンさんの突然の申し出にびっくりしてしまった。






 「そうなんですよねぇ。ジン様たちって、初回の依頼がすでに新人の受ける内容じゃなかったんですけど・・・。」


 「ほっほっほ。まあ、ジン様。ここはギルドを助けると思って、なにか依頼をあと2つお願いします。」


 フルーレティさんとフルカスさんもそう勧めてくる。




 「まあ。依頼はぼちぼち考えてみるよ。つか、オレってジュニアくんの付添いで来ただけだったからさー。冒険者とかまだよくわからないんだよな。」


 「そ・・・そんなこと言わないでくださいよー。」


 フルーレティさんが、妙に距離が近い! たわわな桃が・・・いや、胸の谷間・・・谷間が!


 あれ? いきなり暗くなったぞ?


 (マスター。お見苦しいものを見なくてすむように、視界を遮光しました。)


 (いやいや! 困るぅ! 何も見えないじゃないか!)


 (ちっ・・・。仕方ありません。ブラインド・オープン!)


 ・・・今、舌打ちしたよね? アイさーん!




 「どうしました? ジン様ぁん・・・。」


 「いや、なんでもないです。はい。」


 オレは名残惜しかったが、フルーレティさんの肩を掴み、距離を離した。




 「そうだ! ジンさん。あいつ、捕らえてきたんだ。おい! グースカ・グースカ!」


 アマイモンさんがそう言うと、壁の方に控えていた男がオレたちの前に連れてきたのは、あの情報屋『ヤプー』のイラム店長・サルワタリだった。


 「ほら! しっかり歩け!」


 サルワタリを引き連れてきたのは、アマイモン配下グースカ衆の隊長、グースカ・グースカだった。


 「ひぃいいい。わてが何したって言うんや!」




 「あのなぁ。おまえさんは、このジンさんたちから大金をぼったくっただろ? ジンさんたちはこの街の英雄だぜ? おまえさん、わかってんのか?」


 「げひひぃ! そんなこと知らんかったんや! 堪忍してぇな。わても商売人やからな。商売しただけやんか!」


 サルワタリは悪びれもせず、そう言ってのけた。


 「うぅ・・・。たしかに僕がこの者の言い値で払ってしまったのは確かなんですぅ・・・。」


 ジュニアくんもあまり強くは出れないようだ。


 商売人同士で値段を決めての取引ではあったからなぁ。高いと思うなら、断ってもよかったわけだしな。




 「マスターを馬鹿にしてるなら・・・、ワタクシが今すぐ息の根を止めてあげますわ!」


 アイがそう言って、超ナノテクマシンに指示をしようとした。


 (アイ! 待て! 待つんだ!)


 (マスター! 了解しました。ですが、どうしてでしょう?)


 (いや。オレに考えがあるんだ。)


 (わかりました。では。)




 「おい。こいつを引っ立てろ。あとで『ラ・レーヌ・ドゥ・シバ女王兵団』に引き渡して、処刑してもらおう。」


 アマイモンさんがそう言って、グースカさんがサルワタリを引き連れていこうとした時、オレが待ったをかけた。


 「ちょっと待ってくれ!」




 「ジンさん。どうした?」


 「うん。こいつの身柄、オレに任せてくれないかな?」


 「ええ!? ジンさん。こいつは悪どいヤツだぜ? それを庇おうってのか?」


 「ああ。たしかに、この男は悪どいヤツではあるよ。でもさ、オレたちを騙したわけでもないんだ。情報も間違いなかった。」




 確かに、このサルワタリは本物の情報をオレたちに売ったことは間違いなかった。


 それに、この男の情報がなければ、いずれ突き止められたとはいえ、『赤の盗賊団』のアジトを掴むのに、もっと時間がかかっていただろう。


 そして、そのことはこの男が商売人の仁義は守ったということでもある。




 「おお! ジンのだんな! わてを助けてくれるのかいな!? さすがは英雄様やな!」


 うーん。人格は下品なのも間違いないな・・・。


 「ああ。おまえは商売人の仁義は守ったからな。正しい情報だったよ。確かにな。」


 「そらそうや! わては嘘が嫌いなんや!」


 「あと、ひとつ聞いていい?」


 「今はサービスや! なんでも答えたるで。わての知ってることならな。」




 「いや。『赤の盗賊団』の情報の出どころって誰なのかな?って思ってさ。」


 「ああ、なんやそれかいな。まあ、ほんまは情報源、ソースっつうんやがな。ソースを明かすのはあかんさかいなぁ。

 言えへんって言うところやけどな。肝心の本人が死んじまったからな。言ってもええやろ。ソースは、仕立て屋テラーのやつやで。」


 「なるほどな。テラーのヤツか。わざと漏らしたんだろうな。罠にでもかけたかったんだろう。それで、オレたちの作戦が読まれてたことに合点がいったよ。」


 「げひひ。テラーのやつ、死んじまったんやてなぁ。」


 「ところで、サルワタリ。お金は商売の正当な取引だから、返さなくてもいい。だけど、オレたちとちょっとこれからひとつ一緒に仕事をしないか?」




 「ええええーーー!?」


 その場にいた者はみんな、驚いて声を上げたが、オレの頭の中にはあるビジネスの構想があったのだった―。




~続く~



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