赤の盗賊団・後編

第31話 赤の盗賊団 『違和感の正体』


 キンッキンッキンッキンッキンキンキィイイーーーーーーッンッ!!!


 アテナの突く槍の音が美しくまるで音楽を奏でるかのように響き渡った。


 レッドキャップたちはザムザムザムと切り刻まれていく・・・。


 アテナの槍は、驚くべき神速で突き出されるため、その動きに反応し対峙できる者はレッドキャップたちにはいなかった。




 「ええーい! 者共! かかれ! かかれ! こやつを斬り捨てーーい!」


 レッド・キャプテンが焦ってそう指示を出した・・・が、アテナにみなが向かうと、グラウコーピスの周囲が手薄になった。


 「ふむ。所詮は、魔物・・・であるか。それなら遠慮なく行くぞ!」


 グラウコーピスが瞬時に、レッド・キャプテンの元へ駆け出し、剣戟を一閃した。




 ブシャァーーッ!!


 血が吹き出す。


 レッド・キャプテンが斬られた。そして、大量の出血。


 「ふっ。他愛もない。」


 グラウコーピスが剣先を振るい、血を払うと、獲物を確認しようと振り返った・・・。






 「きしゃしゃしゃ! バカめ。わしを殺れると思ったか!?」


 なんと、血が吹き出ながら、レッド・キャプテンは意に介さず、持っていた大鎌を振るった。


 間一髪でかわしたグラウコーピスだったが、驚きを隠せなかった。


 「むぅ。たしかに、魔核を砕いたかと・・・。外していたか。」




 一方、アテナも違和感を感じ始めていた。


 倒しても倒しても、起き上がってくるレッドキャップたち。


 何かがおかしい―。


 「ええーい! アテナ・トルネード・スピアーーーッツ!!」


 アテナがその槍を回転を加え、一気に打ち出した!


 アテナの前方がまるで小型の竜巻が発生したかのように、吹き飛ぶ。




 「ぐはーっ!」


 「きてはーーっ!」


 「ぎゃっ!」


 レッドキャップたちが切り刻まれながら吹き飛んでいく。




 だが、やはり、その吹き飛ばされたレッド・キャップたちは立ち上がってくる。


 そして、武器を構えてまた襲いかかってきた。


 「くっ。なんだこいつらは!?」


 「死ねぇ!!」


 アテナが盾で防いだ。




 「アテナ様! こやつら、倒してもキリがありません!」


 「ああ。これがあのヴァン族の商人たちが言っていたことか!」


 「そうです!こやつらはなにかしらのチカラで不死身・・・なのかもしれません!」


 アテナとグラウコーピスは互いの背を向け合い、武器をかまえ警戒態勢をとった。


 そのまわりをエリクトニオスの唱えた呪文『砂山』の砂嵐がまわりを防衛する。


 なんとかこの不死身の化け物たちの弱点をつかなければ、ジリ貧になることはわかりきっていたのだ。






 「おらよっ!!」


 ヘルシングがその大剣を上段からレッド・ノーズに斬りつけた。


 「ぐももーーっ!!」


 その肩口から血が大量にドバっと吹き出した・・・が、平気な様子でレッド・ノーズがヘルシングに殴りつけてくる。


 ひらりとそのきょだいな拳をかわすヘルシング。


 だが、そのまわりからレッド・キャップたちが襲いかかってきた。




 「えーい! うっとおしいぞぉっ!」


 その大剣を一閃したヘルシングが何やら呪文を唱える。


 『Amazing grace!(how sweet the sound) That saved a wretch like me! I once was lost but now I am found Was blind, but now I see!!』

(素晴らしき恩恵よ(なんと甘美な響きよ)。私のように悲惨な者を救って下さった。かつては迷ったが、今は見つけられ、かつては盲目であったが、今は見える。)


 すると、ヘルシングの身体が輝き、魔力が増大した。


 「魔法剣だ! その魔力の根源から断ち切ってやる!」


 ヘルシングはその大剣に魔力を込め出した。増幅された魔力が剣先まで行き渡る。






 「ぶもももーーーっ!」


 レッド・ノーズとレッド・キャップたちがヘルシングに一斉に襲いかかった―。



 ヘルシングはまだ動かない。


 その姿がレッドキャップたちに取り囲まれ、見えなくなった瞬間―。




 「剣技・聖クリストファー・ネイビス!!」


 ヘルシングがそう叫ぶと、その魔力を込めた大剣が、球状に無数に数十回、いや数百回、剣閃が飛んだ。



 ドッパブババババーーーッツ!!


 周囲のレッド・キャップたちが一斉に噴水のごとく大量の血を吹き出し、切り刻まれ倒れた・・・。


 立ち上がってくる気配はなかった。




 「ぐぐぐもっ!?」


 ただ一人、レッド・ノーズだけがその肉体の頑強さにより無数に斬られながらも耐えたのだが、ほかのレッドキャップたちはその魔力の源・魔核を砕かれ絶命していた。


 「やはり、貴様。なかなかにしぶといな。」


 そう言って今一度、レッド・ノーズと対峙するヘルシングだったが、明らかにレッド・ノーズは大ダメージを受け、満身創痍の状態だった。


 「ぐががーーーーっ!おでば、ザダンのだめにいいいっ!!」


 しかし、その持てるチカラを振り絞り、レッド・ノーズが拳打を振るってくる!






 「その心意気。あっぱれ!」


 そう言ってヘルシングは剣を振るった。


 「ぐ・・・がはっ!」


 レッド・ノーズがその巨体をぐらつかせ、倒れ込んだ。


 ズ・・・ズズズズーーーーン。






 「ふぅ。なんとか倒せたな。だが、こいつらは、吸血鬼ではない。この不死身さ・・・ゾンビか!?」


 ヘルシングは対峙した感覚から、吸血鬼ではないことはすぐにわかっていたが、その正体は掴みかねていたのだった。


 倒したレッド・キャップたちが、謎の小袋を携帯していることに気がついたのだ。


 「こ・・・これは! ゾンビ・パウダーか!? む・・・。この袋・・・。まさか!?」


 そう言ってヘルシングは自分の胸の内から、巾着袋を取り出した。


 この戦いの前に、あの月氏の商人、仕立て屋テラーによって配られた巾着袋、中身は『身の守りの粉』のはず!


 「おいっ!! みんな! 配られた『身の守りの粉』を今すぐ捨てろ!! これは『身の守りの粉』ではない! ゾンビ・パウダーだっ!」


 大声でヘルシングは仲間に知らせたのだった。



 ◇◇◇◇◇◇



 ・・・時刻にしてその少し前―。


 「ぐほほほーーーっ!!」


 シド・サムがその応援にかけつけたトム・サムに掴みかかった。





 「なっ!? シド! やめろ! どうした? 兄ちゃんだぞ?」


 「ぐはははーーっ!!」


 そのすぐ隣りにいたジム・スナイパーもトムに襲いかかってきた。




 「な!? ジム! おまえまで!?」


 「どうしたの? みんな! ジム! シド! やめなさい! 王女の命令よ!!」


 ベッキーも金切り声を上げる。


 「ど・・・どうした?おめえら・・・。は! こいつら、死んでる!!」


 離れた位置にいたパック・フィンはシドとジムの異変に気がついた。





 「ぐふふふふ。罠にかかったようだな! ではあなたたちも仲間にしてあげる!!」


 赤いマントを翻し、レッド・マントがそう叫び、その剣をふたたびかまえた。


 そして、シドとジムに襲われているトムに向かって、その剣で斬りつけた。


 「ぐわっ・・・!」


 血が噴水のように吹き出した。


 「首霧(くびきり)噴水!」


 そして、その血が霧のように辺りに霧散していく。




 「な・・・なんなの? これ! パック! なんとかしなさい!」


 「で・・・でも、どうすれば? トムは大丈夫かな・・・!?」


 「ば・・・ばっかじゃないの? 死んだわよ。あんな血がドバっと出てたのに、生きてるはずないでしょ!?」





 「いや・・・ベッキー様。仮にもおいらたちのチームのリーダーだし、そんなあっさり死ぬなんて・・・。」


 「ほらほら。私を早く守りなさいよ。なんとかしなさい。」


 「わかりましたよ。仲間が死んだってのに・・・。ぶつぶつ。」


 「あん? 何か言った?」


 「いえいえ。何も言ってませんよ。・・・はぁ。」




 『外へ出る時とんで來て、追つても追つても附いて來る。ぽちはほんとにかはいいな!』


 パックは召喚呪文『犬』を唱え、数匹の犬を呼び出した。


 犬は嗅覚でまわりの敵を察知し、飛びかかっていく―。


 「ベッキー様。後ろにお下がりを・・・。」


 「やるじゃなぁい!!」



 そこにヘルシングの声が響いたのだった―。




 「これは『身の守りの粉』ではない! ゾンビ・パウダーだっ!」


 と・・・。






~続く~

©「アメイジンググレイス」(曲/アメリカ民謡 詞/ジョン・ニュートン)

©「犬」(曲/文部省 詞/文部省)





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