第32話 赤の盗賊団 『ゾンビ群軍がぐんぐん迫ってきた!』


 さていっぽう、二手に分かれた別動隊の指揮を執っているのは、『ラ・レーヌ・ドゥ・シバ』女王兵団の兵長ギルガメシュだ。


 女王兵団の精鋭20名とともにドッコイ兄弟もその後ろをついていく。


 やがて、東方へ進路を変え、そこからミトラ砦を目指す。


 うまく行けば、ちょうど正面から本隊が攻撃しているところを横撃するということになる。




 ホッドミーミルの森に差し掛かったころ、ギルガメシュは何か不穏なものを感じ取っていた。


 タイミングが間違えてなければ、今まさにミトラ砦に本隊が攻撃を仕掛けているはず・・・。


 だが、見えてきたミトラ砦は静かであった。


 「兵長。いかがなさいますか? 我々だけでも攻め込みますか?」


 「うーむ。しかしな、我々だけでは砦は落とせないぞ。」


 「ギルガメシュよ。何か臭うぞ・・・。」


 「うむ。エンキドゥ。君もそう思うか。」




 ギルガメシュたちが逡巡しているその時―。


 彼らの後方、今来た道の方から、何やら大勢の大群が走ってきたのだ。


 「何だ!? あれは?」


 「し・・・屍体だ!」


 「屍体の大群だ!!」


 「何だと? だが、なぜ後方から!? まさか、我々の動きが読まれていたのか!?」





 一匹の黒いフードをかぶったネズミの種族・月氏の男がその手に持っている杖を大きく掲げ、叫んだ!


 「かっかっれぇーい!! 我が我が我が!ゾンビたちぃいい! ゾンビ群軍よよよっ!!」


 すでにギルガメシュたちは囲まれていたのだ。





 「ゾンビ群軍・総大将! 騎士・オブ・ザ・リビングデッド! 見参!!」


 ゾンビの軍を率いている将軍が名乗りを上げた。


 重厚な鎧に包まれた騎士然としたゾンビが、剣で斬り込み、あっという間に数名が血祭りにされた!






 また、ゾンビの軍から一気にものすごい速さで、さらに素早いゾンビが一番に襲いかかってきた。


 「我が名はナンバー28。我が身体はテラー様に強靭に作り変えてもらったのだ! この動きについてこれるかっ!?」


 そのスピードで一気に女王兵団に殴り込み、数人をなぎ倒していく!




 さらに一匹のゾンビが進み出てきて呪文を唱え始める・・・。


 「うおおーーぉ! おれはデッド・ザ・ドーン! 爆裂魔法を喰らえ!」


 『むすんで ひらいて、手をうって、むすんでまたひらいて、手をうって・・・』


 デッド・ザ・ドーンが手を握り、開き、手をリズムよく打ち鳴らし、魔力を増幅していく・・・。


 そして、おもむろに開き、その手の平を上に向け、魔力を解き放った!


 『その手を上に!!』


 バグゥオオオォオオオオッン!!!


 激しい爆裂の轟音とともに大爆発が起き、女王兵団の兵士が爆風と炎に吹き飛ばされた。





 あっという間の猛攻に、陣形を崩され、右往左往する女王兵団の兵士たち。


 そして、倒れた女王兵団の兵士たちが次々とゾンビになって復活して逆に襲いかかってくるという阿鼻叫喚地獄!


 「くっ・・・。ミトラ砦からは敵が出てきてはいないが・・・そちらに逃げると挟み撃ちになってしまうではないか!? まずい・・・。」


 「ギルガメシュ様! ここは我にお任せあれ!」


 「おお! エンキドゥ! いかがする?」


 「はい。南方が手薄にございます。そちらをぶち抜き、いったん引くのが上策かと!」


 「うむ。わかった! みなのもの! こっちだ! こっちへ抜けろ!」


 ギルガメシュが先陣を切って南方へ逃れようと突き進む。




 「さあ! 来い! 化け物共!」


 エンキドゥがその背後を守るべく、立ちふさがった。


 「であああーーー!!」


 ゾンビの軍を一気に薙ぎ払ったものが居た。


 ウントコ・ドッコイだ! オーガの膂力はとてつもなく、並みのゾンビ兵はバラバラになって蹴散らされた。


 「おお! ウントコか! さすがだな。」


 エンキドゥも負けじと、蹴りを交えた変則の剣技でゾンビを倒していく。




 ウントコ・ドッコイ・・・さすが冒険者ランク第2級の実力者だ。


 ゾンビ軍もまったく引けを取らずなぎ倒していく。


 その前に立ちふさがったのは、ゾンビ軍のコール・タール・ウーマンだ。黒い闇の油まみれのゾンビだ。


 「ぐぶぶ・・・。おまえ・・・手強いな。だが、これを食らっても動けるかな・・・?」




 『かきねの かきねの まがりかど、たきびだ たきびだ おちばたき、「あたろうか」「あたろうよ」きたかぜぴいぷう ふいている!!』


 「着火魔法!!」


 コール・タール・ウーマンが一気に炎の塊と化し、ウントコに飛びついた。


 「うおお!? おめえ! 離れやがれっ!!」


 ウントコにも炎が燃え移り、二人は炎に包まれる・・・。




 「ウントコ兄貴ぃーーっ!!」


 ドッコイ・ドッコイが叫ぶ。


 「ぎぎぎぎ・・・。ごのやろ!」


 ぼしゅーーっ!!


 なんとかコール・タール・ウーマンを引き剥がし、投げ飛ばしたウントコ。


 だが、全身やけどでかなりのダメージを食らってしまった。




 「ここはおいらがやってやる! オット! 兄貴を頼んだぞ!」


 ドッコイが巨大な棍棒をかまえ、ゾンビを殴りつけた。


 「わかった。あんちゃんは任せて!」


 オットがウントコの元へ駆けつける。






 「あんちゃん! しっかり!」


 「おお・・・。」


 「ぼ・・・僕も、やるよ。兄貴!」


 末っ子のトコロガも気合を入れ、二人の前に立ちふさがった。




 ドッコイがまわりのゾンビ共を蹴散らしていく。


 そして、さらに追い打ちをかけようと棍棒を振り上げた瞬間、その棍棒の上空からゾンビがすとんと降りてきた。


 「調子に乗るなよ。おまえ。」


 空から飛んできたのはフライング・デッドだ。空飛ぶゾンビで、自由に身体を捻り、棍棒をかわしながら、ドッコイの肩口に噛み付いた。


 「ぎゃっ!!」


 「ぎひひ! このまま食いちぎってやる!」





 ドッコイ兄弟たちの奮闘を横目に見ながら、こちらでは、エンキドゥと騎士・オブ・ザ・リビングデッドが熾烈な戦いを続けていた。


 ゾンビ騎士の剣がエンキドゥに斬りつけられるが、それを間一髪かわし、反撃に出るエンキドゥ。


 しかし、その反撃を簡単に盾でいなすゾンビ騎士。


 両者は一歩も譲らない。


 その戦場を素早く駆け抜け、いち早くギルガメシュに追いついたゾンビ・ナンバー28がギルガメシュに体当たりで突進する!




 「ぐぐっ。もう追いつかれたか・・・! ゾンビのくせにどうしてこんなに速いんだ!?」


 「ははは! おまえらも我らの仲間入りだな! ゾンビ狩りがゾンビになるんだよ!」


 「ええーい! ここは倒していくしかない!」


 ギルガメシュも腹をくくり、アダマンタイトの剣をかまえた。




 「なかなかぬぃ! しっぶっといのっのっ・・・。」


 後方でゾンビ群軍を仕切っていた月氏の男・仕立て屋テラー・テーラーがつぶやいた。


 「だっけっどっ!! こーれーはっ予想してしてしてないよぬぇ?ね?」


 そして、その杖を前に突き出した!




 バキッ!!


 「ぐはっ・・・! な、スットコ兄貴・・・なぜ?」


 突然、それまで静かだったスットコ・ドッコイがその巨躯から棍棒をトコロガに向かって振り下ろしたのだ・・・!


 トコロガはその頭から大量の血を吹き出しながら、倒れ込む・・・。


 「ぐぉろろろ・・・。テラーさまの命令だ・・・。おめえたちは、死ぬのだ!」


 スットコ・ドッコイのその目はすでに生気がなかった・・・。


 ゾンビと化していたのだった―。





~続く~

©「むすんでひらいて」(曲/ルソー 詞/作詞者不詳)

©「たきび」巽聖歌作詞・渡辺茂作曲




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