第30話 赤の盗賊団 『サタン・クロース猛攻』


 「てめぇらに恨みはねぇ! だが、我らも生きねばならぬ理由がある!」


 そう言って、サタン・クロースは、その大きな戦斧を激しく振り回すと、一気に前へ進み、距離を詰めてきた。


 オレはその動きを完全に予想通りに見切って・・・ん? そんなことできるわけないよな・・・。オレ、帰宅部だぞ!?


 (マスター! 超視認モードでマスターの脳に直接映像を送っていますのでその動きの予測は完璧でございます。)


 (な・・・なるほど。だから、予想どおりに動いてきたってわけね・・・。)


 (それに、マスターにはワタクシとヒルコがついております。)


 (安心・安全のアイ・ヒルコ、入ってます・・・ってことね。)


 なんだか、オレって超過保護なんだよね・・・。ま、嬉しいけど。





 『岩をぶっちわり、ぶっちわり、ぶっちわり、路をぶっぴらけ、ぶっぴらけや。ぶっちわり、ぶっぴらけ、ぶっちわり、ぶっぴらけ、われらの力しめせや!!』


 サタン・クロースが呪文を唱えつつ、戦斧を大きく振りかぶり、オレに向かって叩きつけてきた!


 「ホイホイホイのほーいっ!」


 が、しかし、その斧の前にヒルコがその腕を巨大なスライム状に変化させ、柔軟に絡みつき、勢いを止めた。




 『波をぶっちわり、ぶっちわり、ぶっちわり、海をぶっこえて、ぶっこえてや。ぶっちわり、ぶっこえて、ぶっちわり、ぶっこえて、われらの意気を見せよや!!』


 なおもサタン・クロースが呪文を唱えた。


 すると、突然、オレたちの立っていた地面が割れ、裂け目ができ、サタン・クロースがその上から、両拳で殴りつけてきた。


 「ジロキチ! ジュニアくんを連れて下がれ!」


 「了解でございやす!」




 ヒルコのガードがなければ、オレたちも粉々に破壊されていたかもしれない・・・。


 サタン・クロースが唱えた呪文は物体を壊れやすくするレベル2の破壊魔法だった。


 だが、ヒルコがその粘性でもって、サタン・クロースの攻撃の力を分散し、防いでみせたのだ。


 「ぬぬ・・・。なんだ、おめぇは!? スライムかっ!」


 「ヒルコは粘菌なんだよー!」


 「こしゃくな・・・。では喰らえ!」




 ぶんぶんぶんぶんぶんっ!!


 「戦斧・散開斬!」


 戦斧をぶんぶんに振り回し、竜巻のように切り裂く!






 粘性を持つヒルコもさすがにばらばらにされたら、再生に時間がかかってしまう。


 ヒルコもたまらず引く。


 「わーっ! ジン様。下がってくださーい。」


 「ああ! ヒルコも下がれ!」




 「マスター! ヒルコ! 下がってください! 腐食・強酸シャワーッ!!」


 アイがその手をかざして、周囲の超ナノテクマシンに強酸を一斉に大量生成するよう指示を出した!


 ジュワワジュゥジュワワジュジュジュウウウゥウウーーッツ!!


 大量にいきなり空中に生成された強酸が、サタン・クロースの戦斧にかかる。




 「ぐぬっ!? なんだ、この液体は?? やべぇな。おめぇ、危険だ。悪い子だ!」


 サタン・クロースは戦斧を手放す。


 シュワシュワ・・・。


 戦斧が地面に落ち、溶けていく。




 「このサタン・クロースから悪い子には、死のプレゼントをあげるべ!!」


 『かすみか雲か、はた雪か。とばかり匂う、その花ざかり。百鳥(ももとり)さえも、歌うなり!!』


 お!? その呪文は前にジロキチが使ってた気配を消す呪文だ!


 案の定、サタン・クロースの姿が見えにくくなる。




 「あれは、拙者の忍術『影忍びの術』!! ジン様! 『霞か雲か』の遮蔽魔法レベル3・陰でございやすぞ!」


 「おお! わかってるっよっ!!光線解析モードに切り替えだ!」


 オレは光線解析モードに切り替えるよう、アイに指示する。


 (はい。すでに。)


 アイが思念通信でそう伝えてきた。


 ひゅぅー。仕事が早いオンナはいいねぇ。


 (マスター。照れますわ。)


 ああ、思念通信オン・・・。




 まあ、サタン・クロースがオレたちの左へ回り込もうと動きを取っているのがバレバレに見えている。


 「じゃ、サイコキネシス・ビーーーーム!」


 オレのかざした指先から、超ナノテクマシンの一つ一つが作り出したエネルギーが波動となって、サタン・クロースに襲いかかる。


 膨大なエネルギーの塊がそのパワーを集結させ、いかなるものもぶち壊す破壊光線となって、サタン・クロースに命中した!






 「ぐはぁっ!! ゴボッ!! なんだ・・・と? 我の遮蔽呪文が効かぬだと!?」


 血反吐を吐きながら、たまらず転げて、後退するサタン・クロース。


 だが、なんとすぐさま立ち上がってきたではないか!?


 恐るべきは、その肉体か。ムキムキな肉体は、生命力にあふれ、あの膨大なエネルギーの照射にも耐えたのか。




 (圧力にして1平方センチメートルに対し6トンの衝撃が加えられたはずでございます!)


 (つ・・・つまり?)


 (指先に象が乗っているとお考えください。)


 (そ・・・それはえげつないチカラだな・・・。それに耐えたのか・・・。)


 (魔力・・・でしょうね。)


 (また魔力か。謎の不思議パワーというわけか。超科学のアイでさえ、解析できないとなると、いよいよだな。)


 (勉強不足ですみません・・・。)


 いや!? アイ先生!? アイが勉強不足なら、オレは???


 まあ、今は全力でサタン・クロースを倒すのみだな。






 アテナは正面の敵に迫っていたー。


 最初に弓で一斉攻撃を仕掛けてきたが、それをシールド魔法で防御しつつ、迅速に前方へ討って出た。


 ここは躊躇していたら、第二第三の攻撃が仕掛けられてくるのは間違いない。


 そこを間隙をついて、討ち取りに出たのだ。ここ一番の戦闘のタイミング、その嗅覚はアテナは『法国』でも随一の存在だ。




 『法国』の防衛の要、防衛大臣を務める彼女は、知恵、芸術、工芸、戦略を司る者なのだ。


 「行くぞ! エリクトニオス! グラウコーピス! 援護をニーケ! 頼んだぞ!」


 「承知致しました!」


 「了解です!」


 「アテナ様! 後衛はおまかせを!」


 エリクトニオスとグラウコーピスがそれぞれアテナとともに前に出る。




 『海は荒海、向こうはサドよ!すずめ啼け啼け、もう日は暮れた!みんな呼べ呼べ、お星さま出たぞ!暮れりゃ砂山、汐鳴りばかり、すずめちりぢり、また風荒れる!

みんなちりぢり、もう誰も見えぬ!』


 エリクトニオスが呪文を唱え始める。これはレベル5の砂魔法『砂山』、攻防一体の砂嵐を生み出す呪文だ。


 その間にも、グラウコーピスが翼を広げ、急速に低空飛行し、敵陣にいち早く斬り込んだ。




 梟(グラウクス)の騎士がその剣戟をふるう。


 レッドキャップたちは弓を捨て、それぞれの武器を取り出した。


 大鎌を持つ者、剣と盾を持つ者、斧を持つ者、鎖鎌を持つ者、やはり、戦に特化した種族だ。なかなかに手強い。


 グラウコーピスの剣を刃を交え、切り結ぶ。


 グラウコーピスも剣の達人のようだが、いかんせん、多勢に無勢、まわりを囲まれ、レッドキャップたちの攻撃を捌くことで精一杯のようだった。




 だがそこにエリクトニオスの呪文の詠唱が終わる。


 『かえろかえろよ、茱萸原わけて、すずめさよなら、さよならあした、海よさよなら、さよならあした!!』


 突如発生した巨大な砂嵐がまるで意思をもった巨大な怪物のように、レッドキャップたちに襲いかかった。


 「ぐぎゃ!」


 「ぎゃぎゃぎゃっ!!」


 「ぎゅぎゅーーぅっ!!」


 あちらこちらで悲鳴が飛び交う。




 「お前たちの悪行三昧、ここで断ち切らせていただくっ!!」


 アテナがそう叫び、こちらもレッドキャップたちに斬り込んだ!


 魔法で呼び出された砂嵐はアテナに対しては襲いかからない。


 そして、あっという間にアテナのまわりでは数名のレッドキャップが血祭りに上げられた。


 アテナの槍が眼にも見えない速度で、周囲を切り刻んだのだ・・・。




~続く~

©「岩をぶっちわり」作詞:中野忠八/ドイツ民謡

©「霞か雲か」(曲/ドイツ民謡 詞/加部厳夫)

©「砂山」(作詞:北原白秋/作曲:中山晋平・山田耕筰)"



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