第11話 遭遇 『カシム・ジュニアの旅立ち』


 アーリくんは一人ぐらしをしているようで、町の真ん中辺りの家の一軒がその家だった。


 オレ達がその家に向かっていると、前からそのアーリくんが歩いてきた。


 「あ! ジン様! おはようございまチュ!」


 「え!? チュって・・・。いまさら、ネズミアピール?」


 「いやいや、この町の訛りというか・・・狙ってませんよ・・・。」


 「そっか、考えすぎか。」






 「あ、今日はカシムJrの旅立ちの日です。もうすぐ、出発する刻限ですね。」


 「おお!? そうなの? あーそっか、昨日の『ビッグブラックヘヴン』はお祭りじゃなくって、戦勝祈願の儀式だったんだっけ?」


 「そうです。町からはお供に一人だけついていくことができます。カシム様の召使いの中からジロキチという男が選ばれました。」


 「ジロキチ・・・ああ、ゆうべ、あのフードかぶってたヤツか!?」




 「そうです。私めがついて行きたくはありますが、商売を建て直さなければいけないのと、私では戦力になりませんから。」


 「そっかぁ・・・。で、そのカシムJrくんはどこにいるんだ?」


 「はい。おそらく、長老宅だと思います。」


 「OK、オレ達も行ってみるよ。」




 「わたしも一緒に行きます。それにジン様に渡したいものもあるので。昨日モルジアナに言って準備させたので、彼女も長老宅にいるかと思います。」


 「へぇ、なにかな?渡したいものって?」


 「いえ、たいしたものではありませんが、ジン様は魔法についてお知りになりたいとのことでしたから、我々の町で知られる限りの魔法についてまとめて記録させたんですよ。」


 「うわぁ・・・それはありがたいな。アーリくんって本当にできる子なんだね。」


 「いえ、そんなことは・・・ありませんよ。」


 そう言ってるアーリくんのしっぽはぶんぶんに振られていた・・・。よっぽど嬉しいのかな。




 「いやぁ、お褒め頂いて嬉しいですけど、僕は子って年齢じゃありませんよ。まだ若いほうですけど、今年で217才になりましたから。」


 「わお!? アーリくんってそんなに年いってるんだ? あ、旧鼠の爺さんが千才超えてるんだもんな。まあ、そうか・・・。」


 「そうですね。月氏は長寿な種族ですね。」


 「あ、カシムJrくんってまだ子供じゃないの? 彼は年いくつ?」




 「ああ、カシムJrは今年で160才になりました。オトナの仲間入りですね。」


 「あーそうなんだ・・・。160才でやっとオトナなんだ・・・。」


 「そうですね。年経てない月氏は一人前と見られません。」


 「なら、モルジアナちゃんはいくつなのかな? 彼女もまだ若いでしょう? うーん、でもカシムJrくんよりは年上だよなぁ・・・。」




 ん? つい今まで饒舌に喋っていたアーリくんが急に黙ってしまった・・・。それにこころなしか顔色が青いというか・・・。しっぽがふるふる震えてるな・・・。


 「ん? どうしたの? アーリくん?」


 オレはアーリくんに重ねて尋ねてみる。


 「モルジアナちゃんって・・・」




 (マスター! 後方近距離から強い殺気を確認しました。お気をつけください!)


 急にアイが思念通信で警告してきた。


 あわてて、後ろを振り返ると、そこにはモルジアナが立っていた・・・。その表情は怒った様子でその口元がピクピクしていた・・・。




 「えーと・・・アーリ様? ジン様? ワタクシめの年齢がいかがしましたか?」


 「え? ああ、いや、モルジアナちゃんって若く見えるから、カシムJrくんと同じくらいの年齢かなって話してたんだよ!!」


 オレはあわててそう言った。


 「あら? そんなに若ネズミに見えますか?」


 「そ・・・そうだね。若いよね・・・、な、アーリくん?」


 「はい、もちろんでございます、ジン様。」




 「そっかぁ、そんなに若く見えちゃうかぁ~。まいったなぁ。」


 とかいうモルジアナの顔や態度はまんざらでもないって感じだった・・・。


 うん、モルジアナの年齢には触れないでいこう、今、決めた。




 「あ、これ! アーリ様に昨日頼まれたものです。この本にまとめたものを記録致しております。」


 「おお、モルジアナ。ごくろうだったな。ジン様、モルジアナはこの町で古い魔法使いの家系なんですよ。」


 「え!? そうなんだ、適任ってわけだね・・・つか、これけっこう分厚いよ? 大変だったんじゃない?」


 「あ、いえ。それほどでも。記録の生活魔法『エービーシー』で自動書記しましたので。」




 「へえー、自動書記もできるんだ!? 魔法ってホント便利なんだね。いったいどういう仕組なんだろ・・・。」


 「ああ、簡単な解説も記録しておきました。私の祖先・ティルカから伝わってきた魔法知識をまとめたもので、古代の女神・イステから教わったものと伝え聞いています。

まとめたものは『イステの歌』として私の家に古くから伝わっております。今では使えなくなってしまったものもありますが・・・。」


 「いやいや、できる女感、めちゃくちゃすごいじゃん!!」


 と、オレは思わずツッコミ入れてしまうほど、すごく気がつく配慮だった。かゆいところにまで手を伸ばしてかいてくれるというか・・・。


 オレはモルジアナから一冊の本、魔導書『イステの歌』を手に入れた。これでこの世界の魔法について知識を得られるな。





 って、この『イステの歌』・・・何の文字で書いてるんだ? さっぱり読めない・・・。


 (言語習得開始致します・・・習得完了しました。速読開始・・・完了。マスター、月氏文字、すべて理解いたしましたが、データ送信いたしますか?)


 (おおお! アイ・・・すっごいな・・・。どのくらいの量になるんだ?)


 (はい。A4ノートサイズ・・・5枚分です。)


 (却下! それは・・・今度読むことにしよう・・・。)


 (はい。了解致しました。いつでもおっしゃってくださいね。)


 な・・・なんだか勉強みたいだな・・・。今度、今度と言いながら読まないヤツ・・・。




 そんなことを話していたら、旧鼠の邸宅に着いた。


 すでに、カシムJrがそこにいた。


 「アーリ! モルジアナ! あ、それに、ジン様にアイ様!ヒルコ様! おはようございまチュ!」


 「お・・・おぅ・・・。おはよう。カシムJrくん。」




 やっぱり、チュって言うんだな・・・。なんかここにきて急なネズミ推し感がハンパないな・・・。どこかの遊園地みたいだな・・・。


 「ところで、カシムJrくん。君はお父さんのカタキを討ちに行くんだね。お供はたった一人とか!?」


 「はい、町のもののチカラを借りることは禁止されています。だけど、一人だけは見届人も兼ねて許されているんです。」


 「そっか・・・。じゃぁ、オレ達が君に味方するのはいいんだね?」




 「え!? ジン様が!? 助太刀して頂けるんですか!?」


 「うん、乗りかかった船って言うし。このまま、はい、さようならっていうのも、オレがまあ、見過ごせないっていうかね・・・。つか、アイ・・・いいよね?」


 「マスター!ワタクシ達はマスターの決定に異存ございません。」


 「もちろん、僕も!」


 まあ、そう言ってくれるとは思ってはいたんだけど。




 「それはマコトですか!?」


 そう叫んだものがいたので、振り返ってみたら、旧鼠の爺さんだった。


 「ああ。ルール違反じゃないよね? 爺さん?」


 「はい。それに、そうして頂けるのはありがたきことです。カシムJrとしてもジン様に助太刀いただければ、まさに『魔神に魔剣』というものですじゃ。」


 ん・・・、そのことわざ・・・よくわからんな。鬼に金棒・・・的な?




 「よし、決まったな。」


 「えっと、ジロキチー! ジロキチー!!」


 カシムJrがそう叫ぶと、黒装束の頬かむりをしたネズミ・・・いや、月氏がどこからともなく現れた。


 「へい。カシムの坊っちゃん! ジロキチ参上つかまつった!」




 えー・・・っと、これってアレか? ネズミ小僧ってやつか? 名前もジロキチ?


 「ジン様!アイ様!ヒルコ様!イシカ様にホノリ様! 改めて拙者は月氏小僧・ジロキチと申す者。カシム様壱の子分にしてシノビでございやす。」


 「シノビ!? それって・・・忍者!?」


 「おお! さすがはジン様・・・。忍者をご存知でございやすか? 忍者とははるか昔に栄えた古代文明の偵察部隊だったそうです。拙者の家は代々その技を継いでおりましてござる。」




 「忍術とか使えるの?」


 「へい。まあ、魔法と戦闘術を合わせたものでございやすがね。」


 「ちょっとやってみてよ! 見てみたい!」


 「かしこまりやした。では、忍法・・・影忍びの術!!」


 『かすみか雲くもか、はた雪ゆきか。とばかり 匂におう、その花はなざかり。百鳥ももとりさえも、歌うた(と)うなり。かすみは 花はなを、へだつれど、隔へだてぬ友ともと、来きて見みるばかり、うれしき事ことは、世よにもなし。かすみて それと、見みえねども、なく鶯うぐいすに、さそわれつつも、いつしか来きぬる、花はなのかげ。』


 そう言ってえらく長い文言を呪文のように唱えると・・・その場にいたはずのジロキチが見えなくなった・・・。




 (光線解析モードに切り替えます。)


 アイが思念通信でそう伝えてきた。


 すると、今、見えなかったジロキチがその場にそのまま立っている姿が見えた。


 (これはどういう仕組みなのかな?)


 (解析します。はい、この現象は通常光を屈折させ視認できなくさせております。よって光線解析モードに切り替えましたので、現在はジロキチの姿を捉えることが可能となっております。)




 「はい。このとおりでございやす!」


 そう言ってジロキチが再び姿を現した。


 「これは魔法で言うところの、『霞か雲か』の遮蔽魔法レベル3・陰でございます。我が家系では『影忍びの術』として伝わっております。」


 「へぇ。なるほど。じゃあ、魔法と忍術は根っこ、元は一緒だったってわけだね?」




 「はい。そのように拙者も認識しておりましてござる。」


 「面白いね。でも、忍者・・・かっこいいね。」


 「いえ、滅相もございやせん。」


 ジロキチは照れながらそう答えた。




 こうして、オレ達はカシムJrのお父さんのカタキ討ちの旅に同行することになったのだった。


 まずは、アーリくんが襲われた地点の最寄りの街、円柱都市イラムへ向かうことになった。


 そこで、『赤の盗賊団』の情報を得ようというのだ。



~続く~



©「エイビーシー ABC」(曲/フランス民謡)

©「霞か雲か」(曲/ドイツ民謡 詞/加部厳夫)

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