第10話 遭遇 『ビッグブラックヘヴン~おそらくは大黒天祭~』


 「ああ・・・本当だ・・・カシム様は『赤の盗賊団』に襲われ、命を落とした・・・。そして、僕はカシム様から、これを君に渡すよう最後の願いを頼まれた・・・。」


 そう言って、アーリくんが手を差し出した・・・。その手には、小さな割符のような板があった。


 何やら複雑な模様が描かれており、割符を合わせて、なにかの証にする目的のものだと言うことが推測される。




 「これは、黄金都市の商業ギルドの交易許可証の割符だよ。カシム様が、今まで交渉し、実績を積み上げたから許可された交易の許可証だ。

これを、カシム様は、これを・・・最後にお坊ちゃま、君に託す・・・と、カシム様はおっしゃって息を引き取られました。」


 「僕に・・・!? お父さんが・・・。」


 カシムJr坊やは、目に涙をためて、必死で泣くのをこらえながら、アーリくんからその割符を受け取った。


 「うん、僕がお父さんのカタキを討ってみせる!!血の復讐だっ!! 殺られたら殺り返す! 血には血を!!」




 そして、声高にそう宣言した。


 モルジアナも旧鼠もアーリくんもみんなが、それを称えて、歓声でもって応えた。


 「うぉーーー!!!カッシッム!ジュニア!カッシッムッ!!ジュニアッ!!」




 その夜は、カシムJrの戦勝祈願の儀式、その名も『ビッグブラックヘヴン』(訳せば大黒天? ん?確かに鼠は大黒天の使いって言われてたけど・・・。)が行われることになり、

その晩は町の聖なる夜となった。


 まず、町の湖のほとりの広場にみんな集まって、木を大きく組み上げた。


 あれ? なんだかこれってキャンプファイヤーじゃないかな?






 町の月氏の女性たちがモルジアナを中心に、何やらお酒やら、食事を盛大に準備している。


 あのお酒は月氏特有のお酒で、なにやら植物由来のお酒で『ココヤシ酒』のようである。オアシスだけにその近辺に椰子の木がたくさん生えているのだ。


 また、食事のメニューは主に、家畜のラクダバの乳『ラクダバ乳』や、砂漠ウサギの肉、ココヤシの実、砂地でもよく育つイモ類『スナイモ』、

また他には、ロプノール湖に棲む魚『ロプノールフィッシュ』などを使った料理がメインとなった。




 味付けは、塩や、砂漠に棲むサソリを砕いた『サソリパウダー』(香辛料のようにピリッとするらしい・・・ってそれ毒じゃないのか?)、あとは『ラクダバ乳』のクリームなど多彩だ。


 そして、大きく組まれた木のまわりを円形にみんなで囲み、座る。木の近くに、旧鼠、カシムJr、それにフードをかぶった月氏の男・カシムの召使いのジロキチが立っている。


 オレたちもその円陣の中に加わり、この『ビッグブラックヘヴン』の儀式が行われるのを、じっと見守っていた。




 旧鼠が大声で儀式の開始を告げた。


 「これより、カシムJrの『血の復讐』のための『ビッグブラックヘヴン』を行う!!」


 そして、旧鼠が厳かに呪文を唱え始めた。


 「では、火魔法『たき火』!!」


 『かきねの かきねの まがりかど たきびだ たきびだ おちばたき あたろうか あたろうよ きたかぜぴいぷう ふいている』


 お・・・おぅ・・・火魔法って・・・それ、落ち葉焚きの歌じゃねーか・・・。




 旧鼠が呪文を唱えると、その手の先から火が発生し、さきほどうず高く積んでいた組木に燃え移った。


 見てる間に火が大きく炎となり、天を焦がすかの勢いで燃え始めた。


 「では、みなさん! ご一緒に!!」


 そう旧鼠がみんなに呼びかけると、みんなが大合唱・・・。


 


 『燃えろよ燃えろよ 炎よ燃えろ 火の粉を巻き上げ 天までこがせ 照らせよ照らせよ 真昼のごとく 炎ようずまき 闇夜を照らせ 

燃えろよ照らせよ 明るくあつく 光と熱との もとなる炎~~っ!!』


 横にいたモルジアナが教えてくれた。


 この魔法はレベル4の火魔法の呪文『燃えろよ燃えろ』だが、レベル4の魔法を使えるものはこの町にはいない。だから、呪文を唱えることができてもその効果はないのだという・・・。


 ちなみに、レベル3が魔法専門職レベルで、レベル4は腕ききの魔法専門職レベルだそうだ。





 こころなしか炎が勢いを増した気がする・・・。


 ホント、まんまキャンプファイヤーなんだよなぁ・・・。


 このレベル4の火魔法って・・・たしか小学校の時、キャンプに行ったときに歌ったなぁ。るーたろうもハマエもいたっけな。ああ・・・本当にこの歌が魔法だなんて・・・。




 すると、モルジアナが立って料理の置いてあったところへ行き、他の召使いらと一緒に、みんなに料理を配りだした。


 目の前にお盆に載せられて運ばれてくる数々の料理、『ロプノールフィッシュのラクダバ乳のクリーム煮』『新鮮ロプノールフィッシュの塩焼き』『砂漠ウサギのサソリパウダー焼き』

『砂漠ウサギとスナイモのクリームシチュー』『ふかしスナイモのココヤシ酒焼き』『ココヤシの実・サソリパウダーがけ』などなど。






 たしかに、どれも美味い・・・。とくに、このスパイスの効いた味がなんとも癖になる味というか・・・。


 ラクダバ乳のクリームは本当にスナイモに合う・・・シチューが最高だわ。


 『霧越楼閣』で食べた豚骨ラーメンも美味かったが、こういった地方独特な料理も、この独特なお祭りの雰囲気もあって最高においしく感じた。




 さらに『ココヤシ酒』が絶妙にアルコール度数があって、みんな酔っぱらって、たちまちどんちゃん騒ぎとなった。


 あ、ちなみにオレは死んでいたから精神年齢は18才だけど、肉体は5千才か、56億7千万才だから飲酒は・・・OKとしよう。


 まあ、この世界にもう元の旧世界の法律なんて関係ないといえば関係ないんだけど・・・。


 オレはこの世界で蘇って初めての日、こんなふうな一日になるなんて、まったく思いもしなかったけど、不思議と気持ちが良かった。


 オレの家族も、親友ももはやいなくなってしまったこの世界だが、これからもなんかうまくやっていけそうな気がした・・・。





 こうして『ビッグブラックヘヴン』という名のお祭り、いやキャンプファイヤーが酒宴となって夜更けまで続いたのであった。







 翌朝、オレはある小屋の一室で気がついた。


 どうやら、ゆうべはあのお祭り騒ぎ・酒宴の後、小屋を借りてジン一行は眠りについたようだ・・・って、アイは寝てないのか? 目の前に立っていた。


 「マスター、おはようございます。」


 「お・・・おぅ。おはよう、アイ。つーか、アイって寝てないのか?」


 「いえ、このボディは寝ていましたよ? でも、ワタクシの本体は、『霧越楼閣』のホストコンピューターですので、同期していますので今、マスターに合わせ起動いたしました。」




 「なるほどね。オレの起床と同時にこっちのアイも起動したってわけか・・・。いや、ホント、ありがたいっつーか、ご苦労さまって言いたいわ。」


 「いえ。当然のことでございます。」


 「ちなみに、イシカとホノリはこの小屋の外の警戒にあたっていますし、コタンコロは本来、夜行性ですので、夜は外の上空を飛んで警戒態勢をとっています。

ヒルコはマスターのお側をいっときたりとも離れたりしませんので、セキュリティは万全でございます。」


 「はい!僕もお側に控えてますよ? ジン様!」


 ヒルコも元気よく答えてきた。あ、そこの床に水色の豹が寝そべっていたわ・・・。




 そう言いながら、オレはふと気がついた。昨日あんなにココヤシ酒をたらふく飲んだんだけど、二日酔いになってない・・・。頭も痛くない・・・。


 「解説します。それは、マスターの身体の中のスーパーナノテクマシンがアルコールを完璧に分解し、アセトアルデヒドさえも即分解するので、『酔い』状態もありません。」


 「え!? でも・・・昨日、お酒を飲んでたときは酔っ払った状態になってたような気がするけど?」


 「はい。その通りでございます。気のせいです。」




 あら・・・オレって雰囲気に酔ってただけなの・・・?


 恥ずかしいな。なんだか。


 「その場の雰囲気に瞬時に合わせられるそのご主人様のお優しいお気持ち・・・さすがでございます。」



 いや・・・アイ・・・やめてくれ・・・よけいに恥ずかしい・・・。


 (わかりました。ではこの話題は終わりにします。)


 うわぁ・・・思念通信オンのままだから・・・今思ったことも伝わっちゃってるって・・・。なんだかなぁ。


 その後、オレはアイとヒルコやイシカ、ホノリとともに、アーリくんの家に向かった。イシカとホノリは町周辺の警戒を、コタンコロは空の警戒を、引き続き継続するとのこと。


 疲れないのかなって、アイに聞いてみたが、進化の手術を使ったコタンコロは最大1年以上も飛び続けても平気らしい・・・。どんだけ?





~続く~



©「たきび」巽聖歌作詞・渡辺茂作曲

©「燃えろよ燃えろよ」(作詞:不詳/作曲:フランス民謡/作詞:串田孫一)

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