赤の盗賊団・前編

第12話 赤の盗賊団 『いざ円柱都市イラムへ』


 『円柱都市イラム』……その都市はサファラ砂漠の北に位置する交易都市とのことだ。


 オレ達の家『霧越楼閣』のある『ダークネステント』と呼ばれる地域は砂漠のほぼ真ん中に位置していて、その北東方向ってところかな……。


 どこかの国に属しているということはなく、中立を保っている都市である。近くの『フウイヌム国』『ヴァン国』『エルフ国』と『海王国』『南北・帝国』『法・皇国』をつなぐ交易ルートの中間に位置しており、その行き交う商人でごったがえすほどの栄えた都市であるとのこと。




 「ジン様、イラムには冒険者ギルドがあるので、そこで『赤の盗賊団』の情報を聞くのが近道かと思われます。それに、冒険者の助けを得られるかもしれません。」


 モルジアナがそう忠告してくれた。


 「あと、ジン様、これをお持ちください。」


 アーリくんがそう言って、使用人たちに持ってこさせたのは、『ビッグブラックヘヴン』の儀式の際に飲んだココナツ酒の酒樽で、それがたくさん積まれていた。




 「これを貢物として、都市長のニカウレー・シバ様にお納めくださいませ。シバ様は都市長であり、商業ギルド長でもあります。まあ、賄賂……というやつです。

シバ様は大変なお酒好きですので、この『楼蘭』特産のココナツ酒がたいそう気に入っておられますゆえ。」


 「なーるほど。アーリくん、さすがだね。大番頭の名は伊達じゃないね?」


 「いやいや……また、そんなこと、ありませんよ。」


 そう言ってるアーリくんのしっぽはぶんぶんに振られていた……。ホント、アーリくんってわかりやすいな。






 「では、円柱都市イラムへ向かうまでの足に、ラクダバをご用意しましょう。」


 と、旧鼠長老が申し出てくれた。まあ、コタンコロに乗って行ってもいいんだけど、イラムであまり目立ってもいけないとのことから、ラクダバで向かうことにした。


 向かうメンバーとしては、オレとカシムJrくん、ジロキチ、アイ、ヒルコ、コタンコロ、イシカ、ホノリ。8名か……。けっこう多いね。




 おそらく、3,4日はかかるとのこと。ちなみに時間は旧世界と変わりないようだ。

1日が24時間で12刻が1日で、1刻は2時間と同じらしい。12刻で1日……らしい。……ここは江戸時代か!?


 でも、……うーむ、そんなに長い間、自宅を留守にしていて大丈夫かな……。少し心配になってきたな。


 (おそれながら、マスター。ワタクシ達の居宅『霧越楼閣』はワタクシの防衛体制の警戒レベルを引き上げていれば大丈夫かと判断できます……。

 雪嵐を『霧越楼閣』のある上空エリアに人工的に引き起こし、下の土地には雷嵐を落としておけば問題ありません。)


 アイがそう思念通信で提案してきた。




 (うーん、それ、まあいわゆる非常事態宣言……だよね?)


 (はい、さようでございます。)


 (それは避けたいな……。それ逆効果で何者かが異常を感知して調査しに来られてもやっかいだし……。なるべく目立たず隠したい。)




 (では、コタンコロとアラハバキを周囲の警戒に当たらせましょう。ジン様の身の回りの警戒は、ワタクシとヒルコがいれば十分であるかと判断致します。)


 (そうだね、いざとなったら、アイ、オレのあの必殺技『火炎放射』をお見舞いしてやればいいだろ? 

 他にも『電撃アタック』とか、『サイコキネシス』とか、いろいろ試してみたいしね。)


 (さすがはマスターでございます。研究熱心なところはご両親譲りでございますね。)


 (お……おぅ……。)




 「カシムJrくん、コタンコロとイシカ、ホノリは自宅に帰らせようと思ってるんだけど、いいかな?」


 「もちろん、ジン様に助太刀頂けるだけで十分ありがたきことゆえ、僕に異論はありません……。それと、僕のことはジュニア……でけっこうでございますよ。」


 「おっけー。ジュニア。……と、そういうわけだ。コタンコロ!イシカ!ホノリ!『霧越楼閣』を頼んだぞ?」


 (は!我におまかせください!)


 (イシカに任せるであるぞ!)


 (ホノリに任せるなのだぞ!)


 思念通信でそれぞれ外で警戒を行っていたコタンコロ、イシカ&ホノリが応じて、『霧越楼閣』へ帰還していった。









 オレ達一行はラクダバに荷物を載せ、それぞれラクダバに乗って出発した。


 砂漠横断のルートは危険だから避け、砂漠を迂回するルートで円柱都市イラムへ向かう。


 すなわち『楼蘭』の町を北へ向かい、砂漠を越えたところで東へのルートを取る。




 その距離としては、『楼蘭』から北へ砂漠を抜ける地点までは約370~380ラケシスマイル(1ラケシスマイルは約1.6km、つまり約600km)らしい。


 ラケシスマイルは長さの単位とのことだが、人間の寿命の長さを1ラケシスとも言うらしい。約100年くらいを差すとのこと……。


 月氏の寿命は8~10ラケシスとのこと……ネズミってそんな長寿だったかなぁ……人間より寿命は短かったような気がするけど……。


 で、ラケシスマイルは、魔界を人間族が彷徨って歩ける限界の距離……そこで寿命が尽きるとのことから転じてこの距離が算出されたらしい……って、こわいな、それ!






 さらに、長さの単位としては、1000ラケシスマイルが1ドラゴンボイス(約1600km)に当たり、由来は龍の咆哮が聞こえる範囲の限界値らしい……。


 もう少し短い単位は、エルフィート、マフィート、ドラゴンフィートがあり、それぞれはエルフの足サイズ、魔神族の足サイズ、龍族の足サイズ……とのこと。

およそ、それぞれ、10cm、30cm、5mくらいになるようだ。


 日常の生活範囲では、足のサイズが基本ってことね。





 まあ、いい。で、砂漠を北に抜けるのに、約半日かかり、そこから一旦野営して、ルートを東に変える。


 ラクダバの足の速さは、およそ馬と同じくらいの速さで荷物を持ったまま走ることができるようだ。だいたい半刻(1時間)で35ラケシスマイル(約55km)走るらしい。


 そこから、1日10時間ずつ進み、東へルートを取ってから3日目に目的地の円柱都市イラムへ到着した。




 夜営の際、一度、何かの魔獣の襲撃を受けた。


 周囲を警戒していたアイが警告を知らせてきた。


 「ナニモノかの生物が全部で13匹、こちらに敵意を持って近づいてきます! いかがいたしますか?」


 「は! 拙者の索敵にも今、何かの魔獣の攻撃を感じ取ったでござる!」


 ジロキチもそう知らせてきた。




 野原の中の岩陰で火を焚き、野営していたのだが、何かの生き物が集団で襲ってくるというのが初めてだったので、焦ってしまったが、ヒルコが進んでこう進言してきた。


 「僕に任せてください! ジン様!」


 「大丈夫か? ヒルコ。」




 「まっかせて!」


 と自信満々に言うヒルコが一瞬にして、その粘菌性の身体を大きく引き伸ばして、その身体で襲ってきたナニモノかを全部絡めとった。


 「捕獲……完了しました! このまま僕の消化液で溶かすこともできますが……どうしますか?」


 火の明かりでその魔獣の姿が照らされた。





 「ギィギィ……。」


 そのナニモノかの生物は……巨大な黒いアレ……だった……。うげぇ……。


 「ゴブリン……でございますな。別名・黒い悪魔―。コヤツラは非常に繁殖力が高く、生命力があり、凶暴でございます。すぐ始末するがよろしいかと。」


 ジロキチがそう教えてくれた。


 「ゴブリンか……名前は、アレから来てるんだろうなぁ……。アレが進化したのか……。」




 「ヒルコ! やってくれ!」


 「はーい!わかりました!じゃあ!!」


 その身体全体から消化液を一気に吹き出し、その捕らえたゴキブ……いや、ゴブリンを溶かし始めた。


 「ギィギィ……ギギィ!!」


 断末魔の鳴き声を上げながら、すべてのゴブリンが溶かされた。どうやら、ヒルコは酸性の液をそのアメーバ状の身体から出して溶かすことができるんだろう。




 「終わりました。ジン様!」


 「うん、ありがと。ヒルコ! よくやった。……まるでゴキブ……ホイホイだな。いや、ゴブリンホイホイか、この場合。」


 「ホイホイ……その名前、いただきました! この技……『ホイホイ』って呼ぶことにします!」


 「お……おぅ。」


 なんだか必殺技の名前みたいになってしまったけど……。


 そんな戦闘があったにもかかわらず、すやすやジュニアくんは寝ていたのだった……。


 そんなこんなありながら、目的地、円柱都市イラムに到着したのは、『楼蘭』を出て4日目のことだった―。





~続く~



※霧越楼閣・近郊地図をアップしました。

外部サイトですが「みてみん」で「霧越楼閣近郊・地図1」で検索してね!https://32086.mitemin.net/i445845/

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る