第8話

「マリア、怪我は?」

「へ、いや平気デス。」

「そう。セシル、もう離していいわ。」


ミリーがそういえば、彼はすぐに掴んでいた手を離した。


「やっぱりミリーは貴族だったのね。」

「やっぱりって………あんなに驚いていたのに?」

「わざとに決まってるじゃない。そうじゃなくてもそういうことにしておいて。」

「はいはい、すっかり騙されたわ。」


喋り方は変わっていたが、性格も、表情もいつもと同じで、そのことにほっとした。

いつものように茶化しあいながら話していると、さっきまで余裕の表情だった令嬢が顔色を悪くさせながらストップをかけてきた。


「あなた!ミリアンナ様に対して無遠慮すぎますわ!愛称で呼ぶだなんて………」

「あら?私自身がいいと言っているのだから、なんの問題もないわ。それより………」


ミリーはちらりと彼女とその後ろに立っている令嬢たちを見ながら扇子をどこからか持ち出し、無表情のまま小首を傾げながら言った。


「あなた、ルーヴェンス伯爵家のルリィメリア様では?一体マリアにどのような要件で?」


そしてそのままほかの令嬢たちにも問いかけていく。ご丁寧に家名と名前まで。

怖い、怖すぎるぞミリー。ほら、ルー何ちゃらさんが余計ガクブル震えてるじゃん。

気のせいか私も寒くなってきた。あっ、隣にいたあの男の人も少し腕さすってる。

ふと目があった。あ、やっぱり寒いですよね、そうですね、今春なんですけどね。


そんな感じで目で会話していると、話がついたのだろうか。少し遠くにいた2人がこっちによってきた。ほかの人たちもばつが悪そうに後ろに付いている。


「待たせてごめんなさい。話がついたわ。とりあえずこの方があなたに謝罪したいらしいの。」

「申し訳ございませんでしたわ。まさか転入する前からの、ミリアンナ様のご友人だったなんて………そんな方が、ミリアンナ様を苦しませるわけございませんのに。」


しゅんとしながら謝る彼女に毒気を抜かれてしまった。


「もういいです。怪我もありませんし、誤解が解けたなら。にしても…………」


さっきから気になっていたことがある。


「ミリーて王子の婚約者なの?」

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