第5話
(え、誰この人。ものすっごいキラキラしてるんだけど。助けてくれたんだし、お礼言わなきゃ?だよね)
「あの、ありがとうございました。」
そういいながら、パン屋で培った営業スマイルを浮かべた。
この笑みを向ければ、初対面の相手でも大体は好意的に受け止めてくれる。
母の受け売りだ。
それを見た彼は一瞬惚けた後、何故だかさっきより近寄ってきた。
「君、名前はなんというんだい?」
「へ?ま、マリアですけど」
「そうか。マリア…君にふさわしく清廉で美しい響きだね」
「は?」
「君とまた会えるのを楽しみにしているよ。」
そう最後に告げて彼は去っていった。
私はてっきり社交辞令だと思い、深く考えなかったが、思えばこれが波乱の幕開けであった。
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