第2話

目が覚めたとき、私は自分の部屋にいた。

困惑しながら店に降りるとそこには何やら深刻そうな顔をしたルイスと、そのご両親、町長さんと見たことのない役人さんらしき人がいた。


「どういうこと……?」

「マリア!目が覚めたんだね」


私のつぶやきを拾ったルイスが安心した顔をしてこっちに向かってきた。


「ルイス?どうして私家にいるの?確かあのとき、馬車に轢かれかけ、て……」


言葉にした途端あの時の光景が鮮明に浮かび上がり、今更ながら震えが蘇った。

そんな私を抱きしめながら、ルイスは何もわからない私に説明をしてくれた。


あの時、周りの植物が大きくうねりながら伸び、馬車に巻きつき動きを止めたこと。

そのあと私が意識を失ったこと。

馬車に乗っていた役人さんが、それを起こしたのが私だとわかったこと。

………私を平民では希少な魔力持ちとして認め、教会が後見を務め、学院へ入学しなくてはならないこと。


なにそれって感じだけど、どうやら私は後天性異質魔力保持者として目覚めたらしい。

異質魔力保持者っていうのは、基本的な六属性魔法のどれにも含まれない魔法が使える人間のこと、らしい。私は植物などの生命に干渉する能力。干渉っていっても、殺したりすることはできない。1番わかりやすい喩えだと、成長させる、ということができる。

だから草とかが伸びたり操れたりしたのか。

生命ってことは治癒魔法も使える……らしい。使ったことないからわかんないけど!



(ていうかなに決めてくれちゃってるの?確かに私には親もいないしすっごい力が手に入ったかもしれないけど、私がいなくなったらずっと続いてたこの店はどうなるのよ!)


この店はなくなった父と母から受け継いだ、いわば形見でもあるのだ。それをちょっと珍しい魔力があるってわかったからって………


「そんなの受け入れられるわけないでしょう!」


昂ぶった感情のまま怒鳴った私に町長さんと役人さんは驚いていた。断られるわけがないとでも思っていたのか。


「元はと言えばあなた達が馬車を暴走させなければこんなことにはならなかったの!もし私がその異質魔力保持者として目覚めなかったらあの女の子と私は死んでいたのよ?そのことを謝りもせず偉そうに学園へ入りなさいだなんて……

言っておくけど私は行く気ないから!この店を続けるの!」


一気にまくし立て、息をぜぇぜぇいわせてから、姿勢を正し、役人さんと目を合わせる。もう呼び方役人でいいか。


「…………最後にもう一度言います。私は学園に入学しません。用がもうないなら、帰っていただけます?」


つん、としながら言い終え、ルイスの方へ向きなおる。


「ごめん、今ちょっと頭の中整理したいから、店もう今日は閉じるってみんなにも伝えといてくれない?」

「わかった。……しっかり休んでね」


「おじさんとおばさんも、付き合ってもらってありがとうございました。」

「気にしないで、マリアちゃん。義理とはいえ私たちはあなたの両親になるのだから」

「ああ、今のうちに甘えてくれていいからね。」

「おばさん…おじさん………」


さぁ、もう部屋に戻ろうとすると後ろから声がかかってきた。


「魔法の扱い方を学ばなければ、君が彼らを傷つけるかもしれないと知っても?」

「……は?」

「そんな怖い顔をしないでくれ」


可愛い顔が台無しさ、と言いながらウィンクを決める役人にますます苛立ってると、急に真面目な顔つきになった。


「馬を暴走させてしまったことは本当に申し訳ない。謝ろう。だが私が言ったことは嘘ではない。強大な力は制御できなければ、いつ爆発するかわからない爆弾のようなものだ。周りの人まで巻き込む膨大な、ね」

「………何が言いたいの?」

「君は頭が良さそうだし、わかってるだろう?」

「……………ちっ」


痛いところを突かれた。確かに私にとってこの町の人たちはみんな大事な人だ。特に店を手伝ってくれていたミュゼさん、材料の調達や、味見をしてくれる人たち、そして時々遊びに来てくれるミリー。そしてなによりルイスとおじさん、おばさん達。


「わかった。わかったよ、行ってやる。条件はつけさせてもらうけど」

「りょーかい。これでも王様の側近だしね。国落とせとか、王様になるとか。そういうのじゃないなら叶えられるよ」

「じゃあまず一つ。私が入学するのは少し待つこと。閉店準備しなくちゃだし、なにより親友にこのことを伝えなくちゃならないから。」

「それなら二ヶ月後、でいい?一応ビッグニュースだから。隠せるのはそこまでかな。」


他には?と促してくる役人。ていうか隠すとか言っちゃっていいのか?王様の側近でしょ。頼んでる私のいうことじゃないかもだけど。


「私としては、まだ実感がないから他に思い当たらないの。後々付け足させて、ってのが二つめ。」

「まぁ、それも可能かな。」

「他に何かあったかしら………」


ルイス達はどう?と目線で問いかけるとそれなら………とルイスが喋り出した。


「マリアを後見する予定の教会で、僕たちの婚約を結ばせてもらいたいですね。」


いい笑顔で言い切ったルイスに全く違う反応を返す役人と私。

「あぁ、できると思いますよ?」

「な!こ、ここ婚約⁈」


真っ赤になりながら動揺する私に言葉を続けるルイス。


「もしかしたらどっかの貴族の男ががマリアに恋するかもしれないでしょ?貴族からの誘いを断るには正式な理由が必要だし、誘われたら婚約者がいますって言えるでしょう。」

「ルイス……でも教会で婚約するのは…」

「うん、高いね。でもこういう時のためにためてたお金があるから」


聞けば私のためにちょくちょくと給料をためていたらしい。ルイスの心遣いに胸がいっぱいになり、思わず涙が溢れる。


「私頑張る。ちゃんと力を制御して、ルイスを守れるくらいになるから!」

「うん、楽しみにしてる。長期休暇の時は帰ってきてね。」


寂しくて会いに行っちゃうかも、とすこし茶化しながらウィンクをするルイス。どっかの誰かさんと違って苛立ちではなく笑みがこぼれる。



かくして、私の学園入学が決まったのだ。

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