また4年後。

しゅりぐるま

また4年後。

 知ってるかい? 閏日うるうびの今日は不思議なことが起きやすいこと。とっくに死んだはずの僕が、双子の兄弟のあおと入れ替わってこっそり君に会いに来てること。僕が4年の間ずっと、この日を楽しみにしていること――。




 4年に一度のこの日が、もう終わろうとしていた。前回の閏日、青と君は喧嘩をしていて、僕はひたすら君に謝罪のLINEを送るだけで、君に会うことなく一日を終えてしまった。だけど今回は、目を覚ますと君が隣に寝ていて、僕は涙がでるほど嬉しかったんだ。


 君が寝ている間に静かにリビングへ行き、君と青の結婚式の写真を見つけた。本棚の中にアルバムを見つけてじっくり見ていると、後ろからふわっと君の香りがした。

 僕と青の幼馴染のあかねちゃん。家が近所で毎日のように遊んでいた茜ちゃん。僕の最初で最後の恋人だった茜ちゃん。


「何見てるの?」

 4年ぶりの君の声。僕は嬉し涙をこらえながら答えた。

「結婚式のアルバムだよ。きれいだね、茜ちゃん」

「あかね? 青ってば、最近変ね。朝からアルバム見返したり、急にレストランを予約してくれたり」

「……好きだよ、茜ちゃん」


 青は、この日のために、ひいては僕のために、家の近くの美味しいレストランを予約してくれていた。前回のお詫びのつもりだろう。僕は君の後を追うようにしてレストランにたどり着き、4年ぶりの美味しい食事と君との会話を楽しんだ。


「前回の閏日は、僕たちケンカしてたよね」

「そうだっけ?」

「そうだよ。僕は早く仲直りがしたくて、ずっと君にLINEをしてた」

「思い出したかも。あれ、閏日だったんだ」

「……好きだよ、茜ちゃん」

「……。ほんと、変な青」


 家に帰って君の淹れてくれたお茶を飲んだ。初めて飲んだ君のお茶は、温かくてほっとした。こんな毎日が続けばいいと思うけれど、僕に与えられた時間は今日しかない。君に何かを残したくて、昼の間に仕込んだ作り置きのおかずを味見した。うん、美味しくできたな。これを食べて、また青と君が仲良く過ごしてくれればいい。また4年後、僕が君と仲良く過ごせるように。


 ベッドに入って君を抱きしめる。大人の女性の匂いがした。温かくて、柔らかくて、ずっと捕まえていたくなる。次の4年間、このぬくもりを覚えていられるように僕は君を抱きしめた腕に、少し力を入れた。


「今日の青は、なんだかみどりくんみたいだね」

 君が不意に、僕の名前を口にした。

「青も緑くんも、ふたりともずっと私に優しかったけど、緑くんは青よりも、なんていうか、私を甘やかすようなそんな優しさをくれてたの」


「そうだったんだ」

 青を装って僕が答える。

「ごめんね。比べるようなことを言って。だけど、緑くんの話を共有できるのは青だけだから」

「茜ちゃん、好きだよ」

「ふふふ、青ってば、それ今日何回目?」


 何度言っても届かない気持ちを何度も言葉にして君を抱きしめた。


「青、緑くんのこと、ずっとずっと覚えていようね。緑くんの話を、これからもいっぱいしようね」


 いつもより余分に多い一日が終わりを告げ、僕の意識が遠のいていく中で君の今年最後の言葉を聞いた。


 ありがとう。覚えていてね、僕のこと。また4年後、会いに来るよ。

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また4年後。 しゅりぐるま @syuriguruma

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