命懸けの実験
「本当に、あなた一人でやるつもり?」
「勿論。言い出しっぺがやるべきでしょう?」
明朝。朝日が地平線近くで輝き、眩い光に満ちている甲板上にて。
レイナが問われた事に答えると、尋ねた側であるシャロンは肩を竦めた。そういう事を訊いてるんじゃない、と言いたげな仕草に、レナはくすりと笑う。
「万一の時、生き残るのが私よりもマグダウェル博士の方が良いじゃないですか。博士には私の身に起きた事を持ち帰ってもらわないと困ります」
「そりゃそうだけどー。あー、ほんと立場があるって嫌だわ……私が直に確かめたいのにぃ」
合理的な科学者だからこそレイナの意見を否定出来ず、熱心な科学者だからこそ納得も出来ない。揺れる『乙女心』がなんとも可愛らしい。
……或いは狂的と言うべきか。
怪物が潜む大海原に生身で乗り込もうとしているレイナを、心から羨んでいるのだから。こちらに向けてくる眼差しが嫉妬塗れで、レイナとしては居心地が悪い。少なからず気持ちが分かるのだから尚更だ。
「……えーっと。それにしても、このスーツちょっとぴちぴち過ぎませんか?」
シャロンの視線に耐えかねたレイナは、話を変えてみる。
これより大海原に旅立つレイナは、競泳水着のようなスーツを纏っていた。曰く怪物由来技術で作られた代物で、どんなカナヅチでも水に浮き、水流を利用する事で『加速』まで得られるらしい。水の抵抗を殆ど受けないので体力の低下も抑えられるし、保温機能も高いため水に浸かる事で起きる低体温症も防げる。便利な道具というのはレイナも分かるし、これまで見てきた組織の技術力からしてカタログスペックに嘘もないだろう。
そう、性能的には問題ないのだが……身体に張り付くような布の所為で、身体のラインが裸と大差ないほど露わになっていた。西洋の血により発現した、レイナのワガママボディも丸見えだ。別段他人からの視線など左程気にしないが、それでも羞恥心がない訳ではない。
しかしこちらの乙女心は、シャロンには通じてくれなかったようで。
「あら、似合ってるわよ?」
「どういう意味ですかそれ……」
「性的な意味で。色々意見はあるかもだけど、それが一番合理的なデザインだし、我慢しなさい」
ハッキリと、臆面もなく告げるシャロン。じゃあ仕方ないなと、レイナは諦めた。羞恥心はあるが、合理性の方が上なのである。
それでも、一つ致命的な問題を挙げるとするなら。
「ま、それを着てても何かあった時にはどーせ死ぬけどねぇ」
けらけらと笑いながらシャロンが語るように、殆ど役に立たない事だろう。
確かに水には浮ける。泳ぐ速さだって上がるし、体力や体温の消耗も抑えられる。
しかし此処は脅威の生命がひしめく海。ダンガンダツのようなモンスターは、一匹二匹ではないのだ。こんな水着一枚着ていたところで、海に落ちたらあっという間に餌食だろう。
バミューダトライアングルに棲まう怪物が秘匿出来ていたのは、『ミネルヴァのフクロウ』が隠蔽していたからというだけではない。生存者を一人も許さないほど、過酷な生態系こそが情報を隠蔽していた張本人なのだ。
「それを言ったら普段着で良いって話じゃないですか」
「そうだけど、もしかすると助かるかもだし。確率が上がるならやるべき事はやった方が良いでしょ……そろそろ準備出来たみたいね」
シャロンが視線を、レイナから逸らす。
彼女が見た先にあるのは、大きなポリタンクを一つ積んだゴムボート。本来なら船が沈没した際に用いる脱出用の代物で、最大四人乗りを想定している。搭載しているのは一般的なエンジンではなく、水流転換式推進装置という、水流の流れを取り込んで推力にするというスクリュー。最高速度四十ノット……時速七十キロ以上を出せるという化け物推進機関だ。これもまた怪物由来の技術である。
高度な先進技術があるとはいえ、海へと旅立つにはあまりに心許ない代物。しかしレイナにとってはこれが良い。
これでなければ、恐らく『魔境の怪物』には近付けないのだから。
「みたいですね。じゃあ、行ってきます」
「はい、いってらっしゃい」
今生の別れかも知れないのに、二人の会話は淡白なもの。されどこれ以上話す事などない。
互いに、自分達の好奇心が説得された程度で止まるものではないと知っているのだから。
レイナはゴムボートに歩み寄り、傍で作業をしていた乗組員達に話し掛ける。彼等からも乗船許可を貰い、ゴムボートに乗り込んだ。四人乗り用だけに、レイナが一人で乗る分にはかなりスペースがあった。レイナが乗ったゴムボートはクレーンで持ち上げられ、ゆっくりと海の方へと運ばれる。
そのままゴムボートは海面まで下ろされ、最後は水面ギリギリの高さで落とされた。軽い衝撃と共に身体が揺れたレイナは、ポリタンクをがっちりと掴んで耐える。揺れはすぐに収まった。
ゴムボートには小さなタッチパネル式の機械があり、レイナはそこに目的地の座標を入力。それだけで船は自動的に走り出し、目的地を目指してくれる。姿勢制御機能もあるので、今日のように静かな波なら航行に支障はない。
例え行く先が怪物の棲まう領域でも、無機質な機械は躊躇わないで直進してくれる。
「(さぁて、ちゃんと辿り着けるかなぁ)」
出来れば、可能な限りシャロン達の乗る船から離れて『実験』をしたい。そうしなければ、実験により現れるであろう生物達に船が襲われる可能性があるからだ。
しかしあまり遠くまで進むのも、それはそれで難しい。此処は人間が立ち入りを禁じられた、魔の三角海域なのだから。襲い掛かってきた生物により、実験開始前にゴムボートが沈没させられたら目も当てられない。
この実験をするにあたり、レイナはシャロンからアドバイスをもらっている。船が静止しているポイントから、二十キロほど先に進んだ地点……そこが安全性と実験の客観性を『両立』出来る、良い位置だと。
両立といっても、安全性はかなり蔑ろにされている。何時殺されたとしてもおかしくない。されどそれを分かった上で、レイナは笑ってしまう。ドキドキと脈動する心臓が、恐怖ではなく興奮で激しくなっていると自覚していた。
そんなレイナを、自然も祝福しているのか。襲い来る野生生物の姿はなく、最新鋭故に高速で走るゴムボートは無事目的地に辿り着いた。無論、人間の目には周りとなんら変わらぬ大海原な訳だが……ひしひしと全身で感じるプレッシャーは、錯覚か、事実か。
「……良し」
感じる圧力の中で、レイナは早速『実験』を始める。
実験と言ってもやる事はシンプル。ポリタンクの中身を海にぶちまける事。
レイナは重たいポリタンクを、ずるずると引きずりながらゴムボートの縁へと運ぶ。本来なら持ち上げて逆さにしたいが、重くてそうもいかない。仕方ないのでポリタンクを傾けるようにして、その中身を出す。
出てきたのは、黒くてどろりとした液体。
水ほど素直ではないが、以外と粘つきの少ないそれは次々に海へと落ちていく。すると黒いそれは海面に浮かび、ぷかぷかと漂いながら広がっていった。厚みがないからか、かなりの広範囲に散っていく。
レイナの推測が正しければ、この液体に『魔境の怪物』は引き寄せられる筈。
怪物の大きさと比べればあまりに量が乏しいものの、この液体に含まれるであろう『誘引物質』を検知し、近付こうとする筈だ。こうした誘引物質がどれほど生き物を惹き付けるかといえば、例えば昆虫の場合は分子数個分でも効果があるという。『魔境の怪物』がどの程度反応するかは不明だが、昆虫と同レベルの反応性があるならこれで十分だ。
容器を空っぽにしたレイナは、小さくため息を吐く。そして、その顔を苦悶で歪めた。
怪物の生態を探るため……名目はあるし、恐らくこの実験による環境的問題は起きないという自信もある。シャロンもそう思ったから、この実験を許可した筈。けれども一生物学者として、自分の行いでレイナは胸を痛めた。この黒い液体は、本来決して海に投じてはならないものなのだから。
「……帰ろう」
一通り全てを終え、力を失った声でレイナはぽつりと呟く。タッチパネルに今度は船の座標を打ち込み、ゴムボートはくるりと軌道を変えて進み始めた。
直後、ざぶんっ、という音が聞こえる。
「え?」
思わず音がした方へと振り返る。
見れば、大海原に一本の『棒』が立っていた。
なんだあの棒は。そう思って凝視すれば、棒だと思っていたものが平たい板を正面から見ていただけと気付けた。板は海面を切り裂くように、猛然と直進している。
具体的には、レイナのゴムボート目掛けて。
ゴムボートは走り出し、レイナがぶちまけた液体から離れていた。ところが板は液体ではなく、明らかにレイナのゴムボートを追跡している。何故? あの生物は『液体』に惹かれないタイプなのか? ゴムボートに液体は垂らしていない筈。ただの生物だとしたら、なんとかなるかも知れないけど……ぐるぐると考えたレイナは、ふと思い出す。
空っぽになったポリタンク。
そう、確かに空だ。空だが、粘付いた液体というのは、素直に全部出てくれるものだろうか? レイナはポリタンクの中を覗き込む。
そこには、思いの外たっぷりと黒い液体が残っていた。容器の壁面に張り付くという形で。
「……へぇー。臭い物質を感知してる訳じゃないんだ。そりゃそうだよねーだって臭いだったら船の中にあるものを感知する訳ないしー」
思うがまま閃いた事を呟いてみても、現実が何か変わる筈もなく。
海面から飛び出した『板』の持ち主――――全長三十メートルはあろうかという、巨大サメがレイナ目指し突撃している状況に変化など生じる筈もなかった。
サメと称したが、それは全体的な印象の話。そのサメには普通の種とは決定的に異なる特徴がある。口がまるでヤツメウナギやドジョウのような、筒状になっていたのだ。口先が少し下向きな事から推察するに、海底のものを食べるのに特化した種か。ずんぐりとした体躯からも、あまり機敏な生物ではないと窺い知れる。
恐らくあのサメも『魔境の怪物』の幼生を食べるため、海底からわざわざ浮上してきたのだろう。外観的に狩りは不得手であり、左程獰猛な種ではない筈だ。レイナはホッと、安堵の息を吐く。
……安堵している場合ではない。三十メートル超えの身体で体当たりされたら、四人乗り用ゴムボートなど簡単に沈没するではないか。海の下には、どんな獰猛な生き物がいるか分かったものじゃないというのに。
「ちょ、これスピードアップとかしないの!?」
どうにか設定を弄ってなんとか出来ないかと考えるも、タッチパネルを操作しても速度は上がらない。どうやら既に最高速度らしい。
ずんぐりとしているサメは、それでもやはり海生生物らしく、僅かながらゴムボートよりも速い。段々と、レイナとの距離を詰めてくる。近付いてくる姿は、よくよく見れば金属的な光沢があった。背ビレもこのスピードで不自然なほど揺れず、固定されているように動かない。
「あ。なんかアレ体表面が金属っぽい」……自分が当てずっぽうで言った言葉が当たったような気がして、されどそれを調べる余裕などなし。このままでは激突確定だ。船の傍で転覆されたならまだ救助してもらえるだろうが、この調子だと船から八キロほど離れた地点でひっくり返さるだろう。
ああ、これは駄目だな。
元より安全性は軽視していた事もあり、レイナは呆気なく諦めの気持ちを抱く。ひとまず撒くものは撒いたので、犬死にではないが、せめて実験結果は見たかった。
そう考えた直後の事である。
耳が痛くなるほどの、そして身体が痺れるほどの――――大爆音が轟いたのは。
「……いっ!?」
全身に走った痺れが痛みと気付いた時、レイナはゴムボートの中でひっくり返る。ゴムボート自体も波により激しく上下し、大きく傾いて危うく転覆するところだった。サメも音と衝撃に驚いたのか、わたわたとこの場を逃げ出す。
難を逃れたレイナであるが、それを喜ぶ事はしない。むしろそんな危機は今、頭の中から完全に消え失せていた。
そう、人間の命なんて些末なもの。
目の前に現れた、途方もなく大きな命に比べれば。
「……壁?」
巨大な壁が現れた。一瞬そう思ったレイナであるが、すぐに認識を改める。『壁』は遥か彼方まで、垂直に跳び上がったのだから。
そして大空で、ぐるぐると回転していた。
しばらくしてざあざあと、雨が降ってくる――――否、雨ではない。口に入ったそれは塩っ辛い、海原の雫なのだから。ぐるぐると空で回るものが、己の身に纏った莫大な海水を振りまいている。
やがて『それ』は、真っ直ぐ落ちてきた。
「……あ。ひぇええええっ!?」
このままでは着水時の余波に巻き込まれる! 慌ててゴムボートをもっと加速させようとするが、元々出来ていない事が今更出来るようになる筈もなし。
『それ』が拍子抜けするほど静かに着水しなければ、今度こそゴムボートはひっくり返されていただろう。
静かな着水にまたしても呆けてしまう。が、安堵する暇もなく再び『それ』は現れた。入る時は静かな癖に、出る時はやたらと五月蝿い『それ』の行動で生じた波によりまたしてもゴムボートが上下するも、なんとか冷静さを取り戻せていたレイナは今度こそ『それ』の姿を凝視する。
高速回転していて識別し辛い。が、放射状に伸びた五本の足が確かにある。全体的に扁平で凹凸が少なく、薄い身は刃のよう。人間が作り出した船舶よりも巨大な身体は、目的地に辿り着けなかった事を疑問に思っているかのように浮いていた。
間違いない――――『魔境の怪物』だ。
「……やった」
ぽつりと、声が漏れ出る。
心の中を満たす喜びは、こんなものではない。だけど言葉に出てこない。満面の笑みで顔が強張り、身体が硬直して動かないのだから。それほどの喜びに浸っている。
現れた『魔境の怪物』は同じ場所を出たり突入したり。どう見ても不自然な行動を繰り返していた。執拗に、何度も同じ場所に落ちていく。
その場所は、レイナが黒い液体を撒いたところと一致している。
つまりレイナが撒いたものに引き寄せられたという事。
実験は、大成功だ!
「う、うう! やっ……」
今度こそ喜びが抑えきれず、レイナは大声ではしゃごうとする。が、その声は大爆音により妨げられた。『魔境の怪物』がまたしても海から飛び出したがために。
ただし今度は、二匹だが。
二匹も出てきた事で、レイナの喜びは一瞬で驚きに塗り変わる。まさか二匹目も来るなんて。自分の撒いた液体の効力に驚き、確信がますます強まっていく。
そんな人間の事など、気付いてもいないのだろう。二匹の『魔境の怪物』は、空中でごつんとぶつかり合う。接触事故か、と思った時にはまたぶつかり合い、そのまま空高く昇っていく。ある程度の高度に達した二匹は、同時に距離を取り、睨み合うように相手との間合いを保つ。
ケンカだ。同種間の争いなど生物では珍しいものではないが、そこは怪物と怪物の闘争。そんじょそこらのケンカで済む筈もない。回転しながら飛び交う二匹は、どんどん回転速度を上げていく。するとその回転により大気が引き寄せられているのか、『魔境の怪物』が飛んだ後には白い靄……ソニックブームが渦を巻いていた。もしもあの靄に触れたなら、人間の船など跡形もなく吹き飛ぶだろう。飛行速度自体も一気に上がり、最早目の前を飛ぶ小バエのような俊敏さだ。
それほどの速さとパワーで繰り出す攻撃は、『体当たり』。
人間の船相手に繰り出した攻撃と変わらない? 否である。船相手に繰り出していたのはただの『移動』だ。対する此度のぶつかり合いは、明確な攻撃の意思を持ったもの。より鋭く、より集結した力の威力は、移動の比などではない。
ぶつかり合った二匹は、衝撃波を撒き散らす。今や彼等と十キロ以上彼方まで離れていたレイナは、しかしそれでも危うくゴムボートから突き飛ばされそうなほどの衝撃波に全身が殴られた。こんなものは、本当にただの『余波』だというのに。
最早核弾頭染みた破壊力の一撃は、されど怪物にとっては準備運動に過ぎなかったらしい。ぶつかり合った衝撃で離れた二匹の『魔境の怪物』は、一層加しながら再激突。どんどん力を増していく。
変化するのは怪物だけではない。海上のあちこちで巨大な竜巻が起こり、暗雲が立ち込める。雷撃が飛び交い、気温が急激に上昇していく。恐らく『魔境の怪物』の回転が大気を掻き回し、その影響で気候が激変しているのだ。世界の終わりすら想起させるが、怪物二匹はようやくウォーミングアップを終えたらしい。またしてもぶつかり合い、一層強くなった衝撃波を放つ。
被害を受けるのはレイナだけではない。竜巻により海洋生物が次々と飛び出してきた。ダンガンダツや金属サメ、虹色の巨大エビや白いワニのような生き物まで宙を舞う。水から出された生き物達は、それでも逞しさを忘れず空を泳ぐ。『魔境の怪物』が支配する世界において、この程度の騒動など日常茶飯事なのか。
何もかもが滅茶苦茶だ。恐らく世の人々の大半は、この光景に世界の終わりを予感し、恐怖と絶望に打ちひしがれるだろう。こんな恐ろしい世界などいたくないとばかりに、自死を選ぶかも知れない。
だが、レイナは違う。
もっと見ていたい。もっと知りたい。もっと彼等に近寄りたい。恐怖は完全に吹っ切れて、レイナの心を満たすのはワクワクだけだ。
されど無機質なゴムボートはレイナの気持ちなど汲まず、何時の間にやら船の傍に来ていた。レイナとゴムボートはクレーンにより引き揚げられ、甲板へと上げられる。
「レイナ!」
そんなレイナに真っ先に駆け付けたのは、シャロン。
レイナはここでようやく自分が船上に戻っていたと気付く。シャロンと目が合ったレイナは、真摯な眼差しを向ける彼女の想いを察した。ゴムボートから下り、引き揚げてくれた船員達への礼もそこそこ、シャロンの前に立つ。
「「艦長に直談判して、船を止めさせないと!」」
そして二人同時に、同じ暴言を言い放った。
そう、レイナ達が乗っている船は動いている。理由は勿論、戦い始めた『魔境の怪物』から逃げるため。あんなものの傍に居たら、どんな大型船でも余波だけで転覆しかねない。
だが、それがどうした。
未知の怪物の闘争、捕まえるのも一苦労な多数の生物の乱舞……それが目の前で起きていて、どうして逃げねばならない。
あそこには、命を賭してもお釣りがくるほど『面白い』事が起きている!
「さぁ、行くわよレイナ!」
「はいっ!」
呆れる眼差しを向けている船員を無視して、レイナとシャロンは駆ける。船内廊下を走る最中、シャロンが振り返り、満面の笑みを浮かべた。
「ああ! それにしても悔しいわね! あなたに先を越されるなんて!」
「えへへ。ビギナーズラックです!」
「それを言えば何をしても許されると思ってない? 数合わせの新人が、『魔境の怪物』の餌を、そして彼等が何故船や航空機を襲うのかも解き明かすなんて……ああ、悔しい!」
心底悔しそうに、心底楽しそうに、シャロンは愚痴をこぼす。
何もかも正直な言葉にレイナも笑みが零れ、自慢するように胸を張る。もしもシャロンの立場だったなら、自分も同じ感情を抱いたとレイナも思う。何しろこの実験で二つの謎が解けたのだから。
自分が海に撒いた、船の燃料である『重油』によって――――
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