四年に一度のギフトボックス

ほねうまココノ

野外劇は大盛況でした。

 さあてお立ち会い、ここに取りいだしたる箱は、いかな手段をもちいても四年に一度しか開けられぬ、何とも不思議なギフトボックスです。

 お客様の中に、きっちりかっきり四年前、わたくしが箱を開けるところをご覧になられた方はいらっしゃいますか?

 さあ、手を上げて、声を上げて。

 おや? どなたも記憶にございませんか……。

 はは~ん、これはうさんくさい話になってきましたね。

 ですが、もう少しだけご静聴ください。この箱は、中身が何であるのかを当てるゲームとなっているのです。

 勝者にはなんと、どのような願いでも一つだけ叶えられるギフトが贈られます。しかも早い者勝ちです。

 ああ、まってください、並ばないでください。

 箱の前に並ぶ必要はございません。

 今からでもご家族を誘うことができます。

 ご友人を誘うこともできます。

 ええ? 早い者勝ちなのだから悠長なことは言ってられない?

 ややあ、まずはルールを説明しますから。ああ、いけません、これはいけません。ゲームが始まってしまいました。

 わたくしの目の前から、男性が一名いなくなりました。

 そうです、このゲームは声を発せずとも、箱に触れずとも、答えを想像しただけで参加者とみなされます。そして……。

 敗者は、この世から消え去ります。

 ああ、また一名、いえ二名、光となって消え去りました……。お願いです。より多くの方に箱のことを伝えてください。けっして加害者になれと煽っているわけではございません。このまま勝者があらわれず一日を終えてしまうと、人類はみな消えてしまうのです。ゲームに参加しなくとも消え去ります。

 ああ、そうこうしているうちに、広場のお客様もあとわずか、十数名となりました。

 箱が点滅しております。また一名、参加者が消えたことを伝えております。

 心が痛みます。

 何千回、何万回、点滅したことでしょう。

 人のつながりに感動すら覚えます。

 ああっ! つ、ついに、箱が光りはじめました。

 この光、これほど強い光を放つ現象は、どなたかが勝者となられた証です。おめでとうございます。

 この広場に残られたお客様も、瞳に光を取り戻しました。

 さあ、転送の時間です。

 ようこそ。あなた様がゲームの勝者です。そして、この箱を開けることができる唯一の人物です。

 自己紹介が遅れました、わたくし四年前にこのゲームの勝者となりました、いわば先輩でございます。ええ、うれしさのあまり先輩風を吹かせてみました。

 さあ、箱の上ぶたを横へすべらせてください。何も難しいことはありません。箱を開ければ、どのような願いごとも一つだけ叶えられます。

 ただし、リスクが伴います。

 ようやく転送を済まされたお客様、この場にずっと残っておられたお客様、申し訳ございません。

 この箱が開かれたとき、勝者を除くすべての人類は消え去ることになっております。

 あるいは、この箱を開かなければ、いま生きているお客様を、世界中の人々を、そのまま生かすこともできます。

 ああっ! お、お客様っ、勝者を妨害してはなりません。勝者には、箱を開ける権利が与えられております。もしこれを力任せに阻止しようものなら、あ、ああ……消えてしまいました。このような形で犠牲者の数を増やすとは、残念でなりません。

 わたくし経験者としてアドバイスを差し上げます。

 あなた様は、この箱を開けるべきです。あたっ、いたいっ! お、おお客様、物を投げつけないでください。わたくしは、箱のおかげで、物が当たったくらいでは傷一つつきませんが、痛覚はあるのです……。

 おおっ、ついに開けられるのですね。あいたっ! できれば早く開けてください。箱にかけた指をスライドさせてください。そうです、ゆっくりと、光があふれ出したでしょう。さあ、聞こえますか? 十人十色の声が。わたくしも通った道です。この箱に何が入っているのか、たくさんの人々が考えました。人の知識と、想像力の豊かさに触れました。

 そして、箱に詰まっていた声がすべてあふれ出したとき、わたくしは察したのです。このゲームの勝利条件は、箱に『何が入っているのか』を当てるのではなく、箱に『何が入っていないのか』を当てることだったのです。

 あなた様は、いかな願いを叶えられますか?

 わたくしは悩みました。

 理想郷をつくるか。

 はたまた、不老不死になるか。

 なんともはや、不純なことばかり考えておりましたが――。

 ああ、やはりそうですか。

 箱の前にあなた様が転送されたことを、お客様はみな、イリュージョンか何かと勘違いされたようです。拍手喝采です。

 あなた様とわたくしだけが、ゲームの記憶を残しております。

 四年に一度、人類の成長を推しはかるための箱。

 太古の昔より、誰も想像しえなかった、新たな中身を思いついたあなた様ですから、この広場一面、お客様で埋め尽くしてくれるものと、わたくし確信しておりました。野外劇は大盛況です。

 さあ、次はあなた様がゲームを主催する番です。

 天界にて、四年後の再会を心待ちにしております。

 では、ごきげんよう。

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