4−2「ゴンドラ清掃」
中に乗り込むと主任はスマートフォンを取り出し、画面に文字を打ち込む。
『いい?ここから先はスマートフォンの指示に従って清掃して。もし質問や異常があったら私と同じように持参したスマホで返事をちょうだい。』
僕は慌てて防護服のポケットを探るとそこに入れていたスマホを取り出し、短くメモ機能で『了解』と打ち込む。
主任はそれにうなずくとこれから行う清掃手順をスマホに書き込み、僕はそれに従いつつ、モップやブラシを使ってゴンドラの清掃を始める。
…4人乗りのゴンドラは思ったよりも狭い。
元より座って周囲を見る乗り物だからそれほど室内の広さは重視していない。
だからこそ電動のモップやブラシで時間をかけずに清掃できる。
もっと細かく清掃しようと思えばできるだろうが、主任はそこまでしなくて良いとスマホに書き込んだ。
『どうせ事故現場になっちゃった以上、この観覧車はもう稼働できないからね。ざっと清掃するだけでいいの。ゴンドラの数は24台、一台平均15分かかったとしても一日あれば終わる計算になる。さっさと終わらせて帰りましょう。』
(…そんなものかな)と僕は思いつつ、清掃を進める。
粛々とゴンドラ内に散らばる血を拭いていく作業。
天井、窓、椅子、床…一台終われば僕らは外に出る。
そこで撤去班が機械を操作し、次のゴンドラを回してまた清掃の繰り返し。
『作業、飽きてきた?』
主任のスマホの言葉。
防護服越しに見えるいたずらっ子のような笑みに僕は首をふる。
別に、それほど苦には感じない。
実際、単調で慣れた作業であるほどに、これから書く小説の構想にふけれるのでありがたいと最近思うようになっていた。
『それは重畳。でも、不安に感じたらすぐに報告してね。』
以降、主任は何も話さず黙々と作業をする。
僕も黙って仕事をする。
…清掃中、ゴンドラのドアは締め切られる。
季節は12月、暖房はついていないが防護服のおかげで寒さは感じない。
窓から外を見ると現場の処理があらかた終わったのか、ブルーシートが剥がされ事故現場であるアトラクションの姿があらわになっていた。
ジェットコースターとメリーゴーランド。
コースターの方は特に変化は無い。だが、メリーゴーランドは地盤沈下でも起きたのか激しく損傷し、崩れ去った外観はほとんど原型をとどめていなかった。
そして、二つを見ていた僕は気づく。
アトラクションの中心部。
コースターならメインの一回転するレールの中心に。
メリーゴーランドならてっぺんにあるシンボルに。
それぞれキャラクターの描かれたプレートがついていた。
水玉を模した人型のキャラクター。
犬のぬいぐるみのようなキャラクター。
女の子なのかスカート姿にフサフサの耳を持つキャラクター。
そして、それらのキャラクターの背景の後ろに何かを塗ったような跡があり…
「…この遊園地ってプレオープンの時にネットでちょっとした騒ぎがあってね。内装を変えるためにしばらく休園になっていた時期があったのよ。」
仕事がひと段落した昼休み。
遊園地の駐車場で昼食の弁当を食べていた主任は、突然そう切り出してきた…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます